精液検査
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WHOは42%という値を定めており[8][11][12]、これは採精後60分以内に測定される必要がある。WHOはまた、生存率(vitality)も定めており、生存精子の下限基準値は55%である[8]。精子濃度が1mLあたり1600万匹を遥かに超えていても、運動する精子が少な過ぎ、質が悪いという場合がある。しかし、精子濃度が非常に高いと、生存率が低くても運動精子数が1mLあたり800万匹以上であり、問題にならないこともある。逆に、精子数が2,000万匹/mLより遥かに少なくても、運動率が高ければ、精子の質としては悪くない。

より明確な指標は運動性グレード(motility grade)で、総運動性(PR+NP)と不動性である[8]

進行性運動性(PRogressively motile)―前進する精子

非進行性運動性(Non Progressively motile)―円運動をする精子

不動性(Immotile)―動かない精子や死滅した精子

42%の運動率は、30%の進行性運動率と12%のin situ 運動率に分解される。

運動率が30%以上の精液は正常精子症(normozoospermia)とされる。それ以下の検体は、精子無力症と分類される。精子の形態異常例
形態

精子の形態について2021年に記載されたWHOの基準では、観察された精子の4%(または5パーセンタイル)以上が正常な形態を有していれば、検体は正常[注 3]であるとされる[13][14]。検体中の形態学的に正常な精子が4%未満である場合は、奇形精子症と分類される。

正常精子の形態学的分類は、客観性の欠如や解釈のばらつき等により困難である。精子の正常・異常の分類には、様々な部分を考慮する必要がある。精子には頭部、中片部、尾部がある。

まず、頭部は楕円形で、滑らかで、規則正しい輪郭をしていなければならない。さらに、先体領域は頭部の40?70%の面積を占め、明瞭で、大きな液胞を含んでいない。液胞の量は頭部の面積の20%を超えてはならない。長さは4-5μm、幅は2.5-3.5μmであるべきである。

第二に、中片部は規則的であるべきで、最大幅は1μm、長さは7?8μmである。中片部の軸は頭部の長軸と一致している(捩れていない)。

最後に、尾部は中片部よりも細く、長さはおよそ45μmで、長さ方向の直径は一定であるべきである。巻いていないことが重要である。

複数の形態異常が混在している場合が多いので、奇形精子症指数(teratozoospermia index, TZI)が有用である。この指数は異常精子1匹あたりの異常箇所数の平均である。この指数を計算するために、精子200匹を用い、頭部、中腹部、尾部の異常精子をカウントし、同時に異常精子の総匹数をカウントする。その後、TZIはこのように計算される: T Z I = h + m + t x {\displaystyle TZI={\frac {h+m+t}{x}}}

x = 異常精子の数

h = 頭部に異常のある精子の数

m = 中片部に異常のある精子の数

t = 尾部に異常のある精子の数

TZIは1(精子1匹につき異常が1つだけ)から3(1匹の精子に3種類の異常がある)までの値をとる。

もう一つの指標は、精子奇形指数(sperm deformity index;SDI)である。これはTZIと同じ方法で計算されるが、異常精子の匹数で割るのではなく、カウントされた精子の総匹数で割る。

形態的特徴は、体外受精における卵子の受精成功の予測因子である。

全精子の最大10%に観察可能な欠陥があると、卵子と受精する上で不利となる[15]

また、尾端が膨隆した精子細胞は、一般的に異数性(英語版)の頻度が低い[16]。 運動性精子小器官形態検査(motile sperm organelle morphology examination;MSOME)とは、高倍率の光学系を用い、デジタル画像処理で強化された倒立型光学顕微鏡(英語版)を使用して6000倍以上の倍率で検査する特殊な形態学的検査である。この倍率は、顕微授精用の精子を選択する際に通常使用する倍率(200?400倍)[17]よりも遥かに高い。MSOMEで発見される可能性のある所見は、精子内空胞の存在であり、特に空胞が大きい場合は、精子クロマチンの未成熟を示す[18]
精液量

WHOでは精液量は1.4mLから6.2mL(5から95パーセンタイル)が正常とされる[8]。精液量が少ない場合は精液過少症と呼ばれ、精嚢の一部または全部が閉塞しているか、先天的に精嚢がない可能性がある[5]。臨床的には、不妊症の場合、1.4mL未満の精液量は、不完全射精または精液の一部喪失による可能性が高く、また、最後の射精から精液採取まで少なくとも48時間以上経過している場合は、低アンドロゲン血症(英語版)や射精管の一部の閉塞、無精子症の可能性を評価する必要がある。

ヒト精液の96?98%は水分である。男性がより多量に射精する方法の1つは、より多くの水分を摂取することである[19]。また、男性は長時間の性的刺激や興奮の後、より多くの精液を分泌する。セックスマスターベーションの回数を減らすことは、精液の量を増やすことに繋がる。性感染症も精液の生成に影響する。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染している男性は、精液の量が少なくなる[20]

精液量の異常増加は、精液過剰症として知られる。精液の量が6mLを超える場合は、前立腺炎がある可能性がある。精液が出ない場合は無精液症と呼ばれ、逆行性射精、解剖学的または神経学的疾患、降圧薬によって引き起こされる可能性がある。
外観

精液は通常、淡灰色である。男性の年齢が上がるにつれて、黄色味を帯びる傾向が見られる。ニンニクなど硫黄を多く含む食品を摂ると、黄色い精液が出ることがある[21]。精液に血液が混じると(血精液症)、射精液は茶色や赤色を呈する。血精液症は稀な疾患である。

濃黄色や緑色となる場合は、薬物によるものである可能性がある。褐色の精液は、主に前立腺、尿道、精巣上体、精嚢の感染や炎症の結果である。精液の色が異常になるその他の原因には、淋病クラミジアなどの性感染症、性器の手術、男性器の損傷などが考えられる。
果糖含量精液果糖試験

精液中の果糖は、精液が移動するためのエネルギーとして利用される[6]。WHOは正常値を1試料あたり13μmolと規定している。果糖がない場合は、精嚢の問題が示唆される。精液果糖検査では、精液中の果糖の有無を検査する。果糖は精嚢から分泌されるため、通常は精液中に存在する。果糖が存在しない場合は、射精管閉塞またはその他の病的状態を意味する[5]
pH

WHOの基準では、精液のpHの正常値は7.2?7.8である[5]酸性(pH値が低い)の射精液は、精嚢の一方または両方が塞がっている可能性を表す。アルカリ性(pH値が高い)の射精液は、感染症の可能性を示唆する[5]。正常範囲外のpH値は精子にとって有害であり、卵子に浸透する能力に影響を与える可能性がある[6]。最終的なpHは、付属腺の分泌物、アルカリ性の精嚢分泌物、酸性の前立腺分泌物のpH値のバランスによって決定される[22]
液状化

液状化とは、精嚢と前立腺の蛋白質によって形成されたゲルが分解され、精液が液状になる過程を示す。検体が濃厚なゲルから液体に変化するまでには、通常30分から1時間を要する。NICEのガイドラインでは、液化時間が60分以内であれば正常範囲内とされる[23]
粘度

精液の粘性は、試料を穴の広いプラスチック製使い捨てピペットに静かに吸引し、精液を重力で落下させ、糸の長さを観察することで推定できる。粘度が高いと、精子の運動率や精子濃度、その他の分析の妨げになることがある[24]
運動精子数

MOTは、1mLあたりの運動性の高い精子の匹数を示す指標であり、精子数と運動率の組み合わせで求められる。グレードa(室温で5あたり25μm以上)、グレードb(室温で25秒あたり25μm以上)等と判定される。
DNAダメージ

不妊症に関係する精子細胞のDNA損傷は、熱処理や酸処理に対するDNAの易変性性の分析[25]および/またはTUNEL染色(英語版)により検出される二本鎖切断の存在が示唆するDNA断片化の検出によって調べることができる[26][27]。DNA断片化の測定に用いられる他の技術には以下のものがある: SCD(sperm chromatin dispersion test;精子クロマチン分散試験)、ISNT(in situ nick translation;in situ ニック翻訳(英語版))、SCSA(英語版)(sperm chromatin structural assay;精子クロマチン構造分析)、コメットアッセイ


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