精液検査
[Wikipedia|▼Menu]
運動性精子小器官形態検査(motile sperm organelle morphology examination;MSOME)とは、高倍率の光学系を用い、デジタル画像処理で強化された倒立型光学顕微鏡(英語版)を使用して6000倍以上の倍率で検査する特殊な形態学的検査である。この倍率は、顕微授精用の精子を選択する際に通常使用する倍率(200?400倍)[17]よりも遥かに高い。MSOMEで発見される可能性のある所見は、精子内空胞の存在であり、特に空胞が大きい場合は、精子クロマチンの未成熟を示す[18]
精液量

WHOでは精液量は1.4mLから6.2mL(5から95パーセンタイル)が正常とされる[8]。精液量が少ない場合は精液過少症と呼ばれ、精嚢の一部または全部が閉塞しているか、先天的に精嚢がない可能性がある[5]。臨床的には、不妊症の場合、1.4mL未満の精液量は、不完全射精または精液の一部喪失による可能性が高く、また、最後の射精から精液採取まで少なくとも48時間以上経過している場合は、低アンドロゲン血症(英語版)や射精管の一部の閉塞、無精子症の可能性を評価する必要がある。

ヒト精液の96?98%は水分である。男性がより多量に射精する方法の1つは、より多くの水分を摂取することである[19]。また、男性は長時間の性的刺激や興奮の後、より多くの精液を分泌する。セックスマスターベーションの回数を減らすことは、精液の量を増やすことに繋がる。性感染症も精液の生成に影響する。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染している男性は、精液の量が少なくなる[20]

精液量の異常増加は、精液過剰症として知られる。精液の量が6mLを超える場合は、前立腺炎がある可能性がある。精液が出ない場合は無精液症と呼ばれ、逆行性射精、解剖学的または神経学的疾患、降圧薬によって引き起こされる可能性がある。
外観

精液は通常、淡灰色である。男性の年齢が上がるにつれて、黄色味を帯びる傾向が見られる。ニンニクなど硫黄を多く含む食品を摂ると、黄色い精液が出ることがある[21]。精液に血液が混じると(血精液症)、射精液は茶色や赤色を呈する。血精液症は稀な疾患である。

濃黄色や緑色となる場合は、薬物によるものである可能性がある。褐色の精液は、主に前立腺、尿道、精巣上体、精嚢の感染や炎症の結果である。精液の色が異常になるその他の原因には、淋病クラミジアなどの性感染症、性器の手術、男性器の損傷などが考えられる。
果糖含量精液果糖試験

精液中の果糖は、精液が移動するためのエネルギーとして利用される[6]。WHOは正常値を1試料あたり13μmolと規定している。果糖がない場合は、精嚢の問題が示唆される。精液果糖検査では、精液中の果糖の有無を検査する。果糖は精嚢から分泌されるため、通常は精液中に存在する。果糖が存在しない場合は、射精管閉塞またはその他の病的状態を意味する[5]
pH

WHOの基準では、精液のpHの正常値は7.2?7.8である[5]酸性(pH値が低い)の射精液は、精嚢の一方または両方が塞がっている可能性を表す。アルカリ性(pH値が高い)の射精液は、感染症の可能性を示唆する[5]。正常範囲外のpH値は精子にとって有害であり、卵子に浸透する能力に影響を与える可能性がある[6]。最終的なpHは、付属腺の分泌物、アルカリ性の精嚢分泌物、酸性の前立腺分泌物のpH値のバランスによって決定される[22]
液状化

液状化とは、精嚢と前立腺の蛋白質によって形成されたゲルが分解され、精液が液状になる過程を示す。検体が濃厚なゲルから液体に変化するまでには、通常30分から1時間を要する。NICEのガイドラインでは、液化時間が60分以内であれば正常範囲内とされる[23]
粘度

精液の粘性は、試料を穴の広いプラスチック製使い捨てピペットに静かに吸引し、精液を重力で落下させ、糸の長さを観察することで推定できる。粘度が高いと、精子の運動率や精子濃度、その他の分析の妨げになることがある[24]
運動精子数

MOTは、1mLあたりの運動性の高い精子の匹数を示す指標であり、精子数と運動率の組み合わせで求められる。グレードa(室温で5あたり25μm以上)、グレードb(室温で25秒あたり25μm以上)等と判定される。
DNAダメージ

不妊症に関係する精子細胞のDNA損傷は、熱処理や酸処理に対するDNAの易変性性の分析[25]および/またはTUNEL染色(英語版)により検出される二本鎖切断の存在が示唆するDNA断片化の検出によって調べることができる[26][27]。DNA断片化の測定に用いられる他の技術には以下のものがある: SCD(sperm chromatin dispersion test;精子クロマチン分散試験)、ISNT(in situ nick translation;in situ ニック翻訳(英語版))、SCSA(英語版)(sperm chromatin structural assay;精子クロマチン構造分析)、コメットアッセイ
総運動精子数

総運動精子数(Total motile spermatozoa, TMS[28] または Total motile sperm count, TMSC[29])は、精子数(濃度)、運動率、体積のにより求められ、射精液全体の中で運動している精子の匹数が計算される。

ICIでは運動率グレードcまたはdの精子を約2000万匹、IUIでは500万匹がおよその推奨値とされる。
その他

精液中の白血球を検査する場合もある。精液中の白血球数が多い場合は膿精液症と呼ばれ、感染症を示唆している可能性がある[5]正常値上限は一意ではないが、一例として精液1mLあたり白血球100万個以上としているものがある[5]
異常診断

無精液症: 精液が出ない

無精子症: 精子が居ない

精液過少症:精液量が少ない

精液過剰症:精液量が多い

精子減少症:精子数が少ない

精子無力症:精子の運動性が悪い

奇形精子症:精子の形態異常が多い

精子死滅症:射精液中の精子が全て死んでいる

膿精液症: 精液中の白血球が多い

結果に影響する因子

精子の質そのものとは別に、結果に影響を及ぼす可能性のある様々な方法論的要因があり、方法間のばらつきを生じさせている。

マスターベーションから得られた試料と比較して、採精用コンドームから得られた精液試料は、総精子数、精子運動率、正常形態精子率が高い[要出典]。このため、精液分析に使用すると、より正確な結果が得られると考えられている。

男性の最初の試料の結果が不妊であった場合、少なくとも2?4週間空けて更に2回以上の検査で確認する必要がある[30]。一人の男性の精液分析結果が、経時的に大きな自然変動がある可能性がある。さらに、検査のために射精液試料を作成する際の慣れない環境、潤滑剤(ほとんどの潤滑剤は精子にとって多少有害である)無しというストレスが、男性の最初の試料にしばしば悪い結果を与え、一方で、後のサンプルが正常な結果を示す理由となっているかもしれないと考えられている。

クリニックで精液を採取するよりも自宅で精液を採取することを好む場合、寒暖差に曝されると精子の運動率に影響を与える可能性があるため、試料はできるだけ体温に近い温度に保ち、採精後速やかに検査する必要がある。
測定法精液分析用計量済み容器

精液の体積は、試料容器の重量と空容器の質量の差によって求められる[31]。精子の数と形態は、顕微鏡検査で計算できる。精子数は、精子関連蛋白質の量を測定するキットによって推定することもでき、家庭での使用に適している[32]

コンピュータ支援精液分析(Computer assisted semen analysis;CASA)は、自動または半自動精液分析技術の総称である。殆どのシステムは画像解析に基づいているが、タブレット上で細胞の動きを追跡するなどの方法もある[33][34]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:49 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef