節足動物の各体節からは、原則として1対の関節肢(arthropodized appendage)という本群に特有の付属肢が出ている。これが「節足動物」という名前およびその学名の由来となっている[8]。関節肢も体節と同様に外骨格で覆われ、関節によって分かれた肢節(podomere)からなる。これは分類群や位置により歩脚・遊泳脚・鋏・鎌・顎・触角・鰓・生殖肢など様々な機能に応じて様々な形に特化している[13]。例えば頭部には感覚用の触角と摂食用の顎、胴部には移動用の歩脚を持つなど、節足動物は、往々にして異なる機能を担った様々な関節肢を兼ね備え、「アーミーナイフのように、別々の機能をもつ複数の道具が同時にセットされる」とも比喩される[17]。また、節足動物は多くが口の直前に上唇(labrum)やハイポストーマ(hypostome)などという1枚の蓋状の構造体があり、これも付属肢由来の部分ではないかと考えられる[18][19][20][14]。なお、前述の体節のように、関節肢が不明瞭もしくは完全に退化消失した例もある[13]。様々な昆虫の頭部の関節肢A: バッタ、B: ハチ、C: チョウ、D: カ、a: 触角、c: 複眼、lb: 上唇、lr: 下唇、md: 大顎、mx: 小顎
軟甲類の基本体制。頭部には2対の触角と3対の顎・胸部には8対の胸肢・腹部には5対の遊泳肢と1対の尾肢をもつ。
鋏型の第1脚、歩脚型の第2-4脚とヘラ状の第5脚(遊泳脚)をもつタイワンガザミ(ワタリガニ)
節足動物の関節肢は、全長が枝分かれしていない単枝型付属肢(単肢型付属肢、uniramous appendage)、もしくは内側の内肢(endopod, endopodite)と外側の外肢(exopod, exopodite)に枝分かれした二叉型付属肢(二肢型付属肢、biramous appendage)で現れる。多くの現生節足動物(六脚類・多足類・ほとんどの鋏角類)は単枝型付属肢のみをもつが、甲殻類[21]や三葉虫・メガケイラ類などの古生代の絶滅群では二叉型付属肢の方が一般的である[22][23]。それ以外にも、外側に外葉(exite, 副肢 epipod, epipodite)、内側に内葉(endite, 内突起)などという非肢節性な分岐をもつものがある[23]。
様々な甲殻類の二叉型附属肢(en: 内肢、ex: 外肢、ep: 外葉)
ミジンコの胸肢(g.n.: 内葉、br.:外葉)
三葉虫の二叉型の歩脚
クモの歩脚(a)と触肢(b)
カマキリの鎌状の前脚
運動通常の関節肢の機構関節肢における鋏の機構「関節肢」も参照
節足動物の外骨格は分節した関節と、その間にある柔らかい節間膜(arthrodial membrane)により可動域を得られている。分節した体節は関節が伸縮から湾曲まで、様々な方向に動かせる場合が多いが、関節肢の関節は往々にして1つか1対の関節丘(condyle)により外骨格の支点を固定され、特に1対の場合では軸や蝶番のように1つの平面上で安定に折り曲げる[24][25][26]。そのため節足動物の関節肢、特に基部は往々にして複数の関節に分かれ、様々な動きに対応するようになっている[24][25][27][28]。外骨格の関節の摩擦を抑えるように、それに隣接した外骨格の縁辺部から潤滑物質を分泌することも知られている[29]。
クモ(左)とヒヨケムシ(右)の前体断面。脚の筋肉に繋がる内骨格(内腹板と腱)を示す[30]。
節足動物の外骨格と腱の断面
また、節足動物の運動機構は往々にして上述の外骨格のみならず、体内の筋肉に付着面を提供する内骨格(endoskeleton)も兼ね備えている。これは主に外骨格の内壁から伸長したもの、もしくは筋肉の付け根から硬化した腱(内突起、internal tendon, apodeme)である[31]。例えばほとんどの節足動物は、付属肢基部の外在筋に繋がる内腹板(endosternite, 内腹甲[32])を体節内にもつ[31][33][34][30]。カニなどの強力な挟む力をもつ鋏の中には、可動指内側の関節に繋がった、大量の屈筋とそれに付着する板状の腱が見られる[35][36][37]。