筋肉
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A帯は約1.5μm長のミオシンフィラメントで構成され、Z膜に接続したアクチンフィラメントがA帯に入り込んでいない部分がI帯である[16]。両フィラメントは、中心にあるミオシンフィラメントを六角形状にアクチンフィラメントが取り囲んだ断面構造を持つ。ミオシンフィラメント同士の中心間距離は40?50nm、取り囲むアクチンフィラメントまでの距離は約15nmである[16]
エネルギー

筋繊維はアデノシン三リン酸 (ATP) を使い、フィラメント同士がお互い重なり合うように引き付け合い収縮する[1]
筋肉の制御

筋肉は、神経からの刺激で収縮を行っている。神経と筋肉は、神経筋接合部(英語版)というシナプスの一種を介して刺激の伝達を行っている。神経末端からは、アセチルコリンが放出され、筋肉の側にあるアセチルコリン受容体に結合し、筋線維の細胞膜を脱分極させる。これが横行小管(T管)系を伝わって筋全体に広がり、T管系に接する筋小胞体からカルシウムが放出される。このカルシウムをシグナルとして、アクチン繊維とミオシン繊維の間の滑り運動が起こるのである。
その他

筋繊維は本来積極的に伸展する能力は無く、弛緩したときに伸展するのは、骨格筋の場合、対立筋の働きによる外的な作用による。運動後の筋肉の疲労は、解糖系の最終生成物である乳酸によってもたらされるとの説があるが、医学的根拠は無い。
心筋の微細構造

心筋は、普通心筋と特殊心筋に分類される、特殊心筋としては、洞房結節房室結節ヒス束等が挙げられる。特殊心筋の働きは、心筋の統合された収縮を目的とした、興奮の伝達である。普通心筋は、骨格筋と同じように横紋があるが、骨格筋ほど整然と並んでは居ない。
平滑筋の微細構造

平滑筋を構成する細胞は紡錘形状で単一の核を持つ[14]。アクチンフィラメントを大量に持ち、ミオシンフィラメントは少量が不規則に分散している。細胞の形状はデスミン中間径フィラメントが存在して保たれる[14]。収縮にはカルシウムイオンによって制御されるが、小胞体があまり発達していないため、細胞膜にあるくびれの外側にイオンを溜め込んでいると考えられる[14]
筋収縮や弛緩のメカニズム詳細は「神経筋接合部(英語版)」および「興奮収縮連関」を参照

大脳に発する運動指令は、小脳において修飾されたのち、遠心性の運動神経を介して、活動電位として伝えられ、運動神経と筋肉の連接部である神経筋接合部(英語版)に至る。

運動神経の末端にある神経終末(シナプス前末端)に活動電位が伝わると、ここに分布する電位依存性Caチャネルを開口させて、Ca電流を生じる。これによるCa濃度上昇はACh(アセチルコリン)放出を惹起させ、ここで放出されたAChは、シナプス間隙に拡散して、筋肉側で神経終末と結合している終板に達する。終板にはAChのニコチン受容体があり、これにAChが結合することでNa(ナトリウム)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)が流入して、いわゆる終板電位 (EPP)を発生させる。これは、筋鞘を介して筋線維全体に伝播されたのち、横行小管 (T管)を介して筋線維の中に入って筋小胞体へ至り、筋小胞体からCa2+の放出を引き起こす。これにより細胞内Ca2+濃度が増加し、トロポニンとCa2+が結合し、トロポニンにアロステリックな変化が生じる。この変化によりトロポミオシンが動き、ミオシンの作用部位が露出する。これによりミオシンとアクチンが反応して相対的な滑りを起こし、筋収縮が引き起こされる[1]。一方、Ca2+は、筋小胞体膜上のCa-ATPaseによって回収され、これによってCa濃度が正常値まで低下するとトロポニンとCa2+の結合が解除され、連鎖的に筋収縮は終了する。

なお、原生動物の組織内にもアクチンやミオシンがフィラメント状に存在している[1]
筋タンパク質

脊髄動物の骨格筋には、湿潤重量で約20%のタンパク質が含まれ、これを筋タンパク質または筋肉タンパク質という。筋タンパク質の半分は細胞組織である細胞膜ミトコンドリア小胞体・細胞核などと、酵素タンパク質が占める。あとの半分は筋原繊維をつくる構造タンパク質であり、アクチン・ミオシンと調整タンパク質・骨格タンパク質などがある[2]
筋による糖取り込み

骨格筋は体重の約半分を占める人体最大の器官であり、血糖の80%以上は骨格筋によって取り込まれる。筋では糖輸送担体であるグルコーストランスポーター4型(GLUT4)が糖取り込みの働きを担っている。GLUT4は普段筋細胞内部に存在しているが、細胞膜へ移動することで、細胞膜上で糖を通過させる門の働きを担う[17]

インスリンは筋細胞表面に存在する受容体に結合することで、GLUT4を細胞膜へ移動させる働きをする。また、運動による筋収縮もGLUT4を細胞膜へ移動させる働きがあり、これはインスリンに依存せず血糖の取り込みを亢進する[17]

運動後の筋も消費された筋グリコーゲンの回復させるために活発に血糖を取り込み続ける必要がある。そのため、運動終了後2?3時間経過した後は、活動筋におけるインスリン感受性が上昇する。GLUT4タンパク量自体も運動により増加するため、運動・トレーニングを繰り返し行うことにより鍛えられた筋では約2倍近くに増える。これはインスリン刺激による筋の血糖取り込み能力を増加させ、疲労回復を早める効果もある[17]
発生・発達

すべての筋肉は沿軸中胚葉から発生している。沿軸中胚葉は胎児の体躯に沿い、体節ごとに分かれている。これは主に3つがあり、脊髄を形成する硬節、皮膚を形成する皮膚分節、筋肉を形成する神経節である。この中で神経節は上下の節に分かれており、それぞれ軸上と軸下の筋肉へとなる。ヒトの場合、上分節は脊柱起立筋と椎間筋肉の一部にしかならない。手足を含むその他の筋肉は全て下分節から発達する[18]

発生の期間、筋原繊維(筋前駆細胞)は脊椎に関連する筋肉へなるものと、その他の全筋肉を構成するため一度移動して体に取り込まれるものとに分かれる。通常では、側板中胚葉でつくられた筋原繊維がまず外郭を構成する結合組織を作る。そして筋原繊維は化学的な刺激に従いながら、それぞれ適切な場所で骨格筋を形成し始める[18]

生後、思春期前までは筋肉の発達に男女差が無いが、男性で思春期を迎えると第二次性徴によってアンドロゲンの分泌が活発となり、幅が広くなった後に筋肉が発達するようになり[19]、男女間に筋肉の差が生じるようになる。

筋肉は少なくとも2度大きな進化を遂げた。ひとつは刺胞動物であり、もうひとつは左右相称動物である。これらは海綿動物に相当するような有機体にある収縮可能な細胞から進化したものと考えられる[20]
性差と魅力

筋肉組織は人間では性的二形である。筋肉組織の性差は上半身で最も明確であり、平均して、男性は女性よりも60%多い総筋肉量と80%多い腕の筋肉を持っている[21]。したがって、男性の上半身の強さは女性よりも約90%高く(ゴリラのオスとメスの違いに匹敵する)[22]、平均的な男性は99.9%の女性よりも強い[23][22]。これらの筋肉質の著しい性差は、攻撃性における強い性差の証拠とともに[24]、人類の進化を通じて男性において物理的対立によって課せられた選択圧力を反映している[25][26]
選好

一般的に女性は筋肉質の男性を好むと考えられている。筋肉のある男性は人気のあるアメリカのメディアで魅力的な男性として取り上げられ[27]、他の男性よりも魅力的であるとされ[28][29][30]、より多くの性的なパートナーと経験している[29][31]。また、ほとんどの男性は、女性を引き付け、性的競争でより成功するために、筋肉を増やそうとしている[32]。ただし、非常に筋肉質の男性は、中程度の筋肉質の男性よりも魅力的ではないと評価されている[29]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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