フランスでは幼稚園の課程でアルファベットの筆記体を学ぶことが多い[7]。 日本においては、第二次世界大戦後の1947年(昭和22年)に、9年間の義務教育のうち後期3年間を担う新制中学校が設置されて、選択科目として「外国語」(英語)が置かれた。同年に指導の手引きとして文部省が定めた「学習指導要領・英語編(試案)」には、「大文字の筆記体」「小文字の筆記体」の「習字」を第7学年(新制中学校の第1学年)の終わりに指導することとされた[8]。 1951年(昭和26年)に改訂された「学習指導要領・外国語科英語編(試案)」では、中学校第1学年の特殊目標として「活字体や筆記体で黒板や本から,語・句・文を書き写す能力」を挙げた[9]。また同書には、次のように筆記体を学ぶ意義が述べられている。楽に書けるという点からすれば,活字体から始めてその後で筆記体を学ぶようにするのが望ましいであろう。活字体はさらに本に出ている印刷された字体にずっと近いので,この点からもまた活字体から指導し始めるのが便利であろう。イギリスおよびアメリカでは通常活字体を用いるおとなもいるし,また,それは商社においても適当なものとして認められている。活字体を用いても書く速度は落ちないとされている。わが国の生徒が筆記体を学ぶことは,筆記体を書く能力があれば筆記体で書いたものを読む能力の助けとなるという事実によって,価値づけられるのである。 ? 1951年(昭和26年)改訂「学習指導要領・外国語科英語編(試案)」[9]、文部省。 1958年(昭和33年)改訂の「中学校学習指導要領・外国語」では、第1学年の「英語」の内容として「文字はアルファベットの活字体および筆記体の,大文字および小文字とし,符号は終止符,コンマ,疑問符,感嘆符,アポストロフ,ハイフン,引用符などとする」と定められた[10][注釈 1]。その後、1969年(昭和44年)、1977年(昭和52年)に改訂された学習指導要領でも、同様に第1学年で筆記体を指導することと定められた[11]。生徒は筆記体に習熟することが求められ、教師の板書も筆記体のことが多かったため、ノート、試験答案等の他、手紙やメモ、署名の書字にも広く筆記体が用いられた。 1989年(平成元年)に改訂された中学校学習指導要領(1993年(平成5年)施行)では、これまでよりも教師の裁量の幅を大きくし、教科の内容として行わせる言語活動は「別表1に示す言語材料のうちから,…目標を達成するのにふさわしいものを適宜用いて行わせる」こととされた[12]。この「別表1」に定める「言語材料」の中には、「アルファベットの活字体及び筆記体の大文字及び小文字」として「筆記体」も挙げられていた。しかし、ワードプロセッサの普及によって手書きの機会は減少し、英語圏でも筆記体が衰微したことや、それ以前の改訂で授業時間数が減ったことなども相俟って、同改訂が施行された1990年代以降、授業で筆記体の習熟に時間を割くことは少なくなっていったとされる。 さらに、1998年(平成10年)に改訂された中学校学習指導要領(2002年(平成14年)施行)では、外国語は選択教科から必修教科に位置付けられたものの、授業時数は減少し[注釈 2]、「文字指導に当たっては,生徒の学習負担に配慮し筆記体を指導することもできること」[13]と定めたため、筆記体が授業で詳しく取り上げられることはほとんどなくなったとされる。2008年(平成20年)に改訂され2012年(平成24年)4月に施行された「新学習指導要領・生きる力」の中学校学習指導要領では、「外国語」の授業時数が各学年140とされて中学校の教科で最大とされたものの、筆記体についての内容は前回改訂と同様とされた[14]。 以上のように、1990年代初頭以降、中学校の外国語で筆記体が取り上げられることは急速に減っていったため、同年代以降に中等教育を受けた人は、筆記体の読み書きをすることが少なくなっている。 アラビア文字には活字体と筆記体の区別はない[15]。ただし、ローマ字のブロック体に相当するものとしてナスフ体、筆記体に相当するものとしてルクア体がある[16]。 日本語文字などの漢字圏において同様のものとしては「行書体」「草書体」などがある。英語ではそれぞれ「セミ・カーシヴ(semi cursive
日本
非ラテン系言語
アラビア文字
漢字
ギャラリー
ロシアにおける、キリル文字の筆記体
古代ローマにおけるラテン文字の筆記体(ローマ筆記体)
545年に書かれたギリシャ文字の写本
19世紀に西欧の筆記体に倣って作られたギリシャ文字の筆記体
ギザギザしたドイツ筆記体 (Kurrent)
1915年から1970年代までドイツで教えられた筆記体の一種、ジュッターリン (Sutterlin)
脚注[脚注の使い方]
注釈^ なお、同指導要領では、英語以外のドイツ語、フランス語でも、筆記体を取り扱うものと定めている。1958年(昭和33年)以後に改訂された中学校学習指導要領では、「外国語」において、英語、ドイツ語、フランス語その他の外国語のうちいずれか1か国語を履修させることを原則とし、第1学年から履修させるようにすることを定めている。
^ 外国語の授業時数は、従来、選択教科として「外国語は各学年において105から140までを標準」と定められていたが、1998年(平成10年)改訂により、各学年で必修教科の「105」と定められた。
出典^ Livingston, Ira (1997). “The Romantic Double-Cross: Keats's Letters”