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伝来当初は也はG6、毛はD#5であったが、雅楽の六調子で必要がないため使用されなくなった。中世には也・毛の竹の別の利用法として、麝香を納めることも行われた。現代音楽や西洋音楽系の曲等では也をA#5、毛をF5として簧を付けた特別仕様の笙が使われることもある。

笙についての古い文献には以上の17本の竹の他に、「卜(ぼく)」「斗(と)」という名前の竹について記述されていることがある。日本の笙の元となったあるいは音律的に非常に近い関係にある、中国の時代や時代の笙では、19管の笙や、「義管笙」といって、17管の他に2本差し替え用の特別な竹を持つものが存在したようであり、前者の17管笙より2本多い分や、後者の差し替え用の竹が卜・斗で、卜はF5(勝絶)、斗はA#5(鸞鏡)であったとされる。中国の宋時代の19管笙では、竹管の配列が「千十下乙卜工美一八也言七斗行上?乞毛比」に相当するものとなっていたとされる。正倉院に3個残されている笙はいずれも17管であるが、その竹の中にも差し替え用(義管)の卜・斗と見られるものがある。

笙の管名の譜字は、琵琶楽琵琶)の譜字と同源とされている。正倉院の笙3個・?3個のうち、笙2個・?2個には管名の墨書があるが、その管名は古体で、現在の管名の字体とは異なるものが多い。その古体と今体の対応は次の通り。実際には笙2個・?2個の全ての管に書かれているわけではなく、書かれていなかったり、表と異なる字が書かれている例も一部ある。

古体(正倉院の墨書)ム十スL[6]ユ乙一八ヤ?七リ?几レネ[7]
今体(現行)千十下乙工美一八也言七行上?乞毛比

合竹

伝統曲で使われる笙の和音を合竹といい、基本的には以下の11種類がある。

合竹名構成音
乞乞(A4)、乙(E5)、行(A5)、七(B5)、八(E6)、千(F#6)
一一(B4)、?(D5)、乙(E5)、行(A5)、七(B5)、千(F#6)
工工(C#5)、?(D5)、乙(E5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)
??(D5)、乙(E5)、行(A5)、七(B5)、八(E6)、千(F#6)
乙乙(E5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6)、千(F#6)
下下(F#5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、千(F#6)
十下(F#5)、十(G5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6)
十(双調)十(G5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6)
美美(G#5)、行(A5)、七(B5)、比(C6)、上(D6)、千(F#6)
行行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6)、千(F#6)
比行(A5)、七(B5)、比(C6)、上(D6)、八(E6)、千(F#6)

「十(双調)」は双調の曲のみに用いられる。「十(双調)」と「行」は5音で構成され、他は6音で構成されている。「十」と「比」を除き、構成音のうち最も低い音の管名が合竹名となっている。行と七の音は全ての合竹で用いられ、逆に言(C#6)の音は上の表のどの合竹にも入っていない。

現行の雅楽の演奏では、合竹を変える際には全部の指を一度に移し替えるのではなく「手移り」と呼ばれる一定の順序に従って行われる。

音取や調子等では、以下の表のような合字による特殊な合竹(乙の合竹に含まれる八を美・言に変えた2パターンと、?の合竹に含まれる八を同様に美・言に変えた2パターンの、合計4パターン)や、ある2音を引き延ばした上で残りの4本の指で基本合竹を可能な範囲で合成して構成された和声、また合竹ではないが「?彳」の合字(?と行の2音同時を表す)等が用いられる場合もある。

特殊合竹構成音
乙美乙(E5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、千(F#6)
乙言乙(E5)、行(A5)、七(B5)、言(C#6)、上(D6)、千(F#6)
?美?(D5)、乙(E5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、千(F#6)
?言?(D5)、乙(E5)、行(A5)、七(B5)、言(C#6)、千(F#6)

分析例

江戸時代の田安宗武の『楽曲考』などでは、唐代の俗楽の1均の七声の律以内で構成するのを原則としているとし、次のように分析している[8]。ここで現行の日本の笙の合竹は、太簇均の和声が中心となっている。

合竹名宮徴商羽角変宮変徴均外均
乞乞行乙八七千南呂均宮
一?行乙一七千太簇均羽
工?行乙七工美太簇均変宮
??行乙八七千太簇均宮
乙上行乙八七千太簇均商
下上行七下千美太簇均角
十十上行八七下林鐘均宮
十(双調)十上行八七林鐘均宮
美上行七千美比[9]太簇均変徴
行上行八七千太簇均徴
比比上行八七千黄鐘均宮

田辺尚雄らは、半音隣接を含まない乞・一・?・乙・行・十(双調)の6種は協和音的であり、半音隣接を含む工・下・十・美・比の5種(うち工・美の2種は半音隣接を2ヶ所含む)は不協和音的であると分析した。
現行の合竹以外

體源抄』などの古文献には、「笙笛相竹」と称して次のような一見合竹に似た2音から7音までのものが挙げられている。それには現在の通常の笙で音の出る15管の名前が付いているが、美と言の内容は同じとなっている[8]

笙笛相竹構成音
×千乞(A4)、?(D5)、乙(E5)、下(F#5)、美(G#5)、行(A5)、千(F#6)
×十十(G5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、八(E6)
×下一(B4)、下(F#5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、言(C#6)
乙乞(A4)、乙(E5)、七(B5)、八(E6)
工工(C#5)、?(D5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)
×美?(D5)、下(F#5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、言(C#6)
×一一(B4)、?(D5)、下(F#5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、
×八乙(E5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、八(E6)、千(F#6)
×言?(D5)、下(F#5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、言(C#6)
七?(D5)、十(G5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)
行?(D5)、美(G#5)、行(A5)、千(F#6)
×上十(G5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、上(D6)、千(F#6)
×?工(C#5)、?(D5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、千(F#6)
×乞乞(A4)、乙(E5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、八(E6)、千(F#6)
比比(C6)、上(D6)

しかしこの「笙笛相竹」は、和音として見た場合、そもそも(少なくとも現行の標準運指で、同一指で複数の管を同時に押さえないという前提では)演奏不可能なものが半分以上を占めており(×印を付けたものが該当。同一指で押さえるはずの千十・千工・下乙・八美・一美・一言・美言・?乞が混入しているため)、演奏可能なものの中でも5音以上から成るものは工・七の2つしかないことなどからして、これについて林謙三は、合竹のように演奏するための和音というよりも、「管と管の律の関係のあるものを吹き比べて音を調べるかどうかの用を持つにすぎない」としている。

『楽曲考』では、現行の合竹の他、現在の通常の笙で簧が付けられていない毛や、義管として用いた卜・斗を主とする合竹を、「毛以下三管の合竹、今伝へず、伝ふる処の合竹の法によて是を製す」として復元試作しており、ここで『楽曲考』では、卜は工、斗は言の代わりに挿入されるとしている。またこれに関連して、林謙三は各均の合竹の試案を作成しており、その中で毛・卜に当たる合竹も作成している[8]

合竹名構成音
毛(楽曲考)毛(D#5)、乙(E5)、美(G#5)、行(A5)、七(B5)、千(F#6)
毛(林謙三)毛(D#5)、乙(E5)、行(A5)、七(B5)、言(C#6)、千(F#6)
卜(楽曲考)卜(F5)、行(A5)、七(B5)、比(C6)、上(D6)、千(F#6)
卜(林謙三1)卜(F5)、行(A5)、七(B5)、比(C6)、上(D6)、也(G6)
卜(林謙三2)卜(F5)、行(A5)、比(C6)、上(D6)、也(G6)
斗(楽曲考)行(A5)、斗(A#5)、七(B5)、比(C6)、上(D6)、千(F#6)

また『楽曲考』の毛・卜・斗の合竹を上の分析例の表と同様に分析してまとめると次のようになる。

合竹名宮徴商羽角変宮変徴均外均
毛行乙七千美毛南呂均変徴
卜卜比上行七千仲呂均宮
斗斗比上行七千無射均宮

音取・調子等の笙譜における演奏指示

合竹(あいたけ) - 合竹で奏する。 

一竹(いっちく) - 一竹で奏する。

延留(のべとどめる) - 音を延ばしてフェードアウトする。

具(ぐす) - 演奏している音にさらに、この字が下に書かれている指穴を押えて音を加える。

打(うつ) - 指穴を押えて、すぐに離す。

叩(たたく) - 指穴を押えて離す。「打」よりも少し長い時間、穴を押える。

残(のこる) - 略字「戈」とも。直前の和音から、この文字の記された音のみ残して奏する。

移(うつる) - 直前まで奏していた音から、この文字の記された音に変える。

拾(ひろう) - この文字のある音まで、一音ずづ順に奏する。

放(はなつ) - この文字の指穴から指をはなして、音を減らす。

捨(すつる) - この文字の指穴から指をはなして音を減らし、他の音に移る。

乍(ながら) - 他の音に移るとき、前の音に関係なく奏しながら、次の音を加えて奏する。

次第(しだい) - だんだん他の音を順に加えて奏する。

押(おす) - 指穴を押える。

火(か) - 強く吹く。他の楽器でも「火」の符号はあり、「火急」(素早く行う)の意で用いられているが、笙では意味が異なっている。

絶(たえる) - 「絶音」とも。本来は吹ききって音が中絶するという意味であり、黄鐘調・盤渉調の音取に見られるが、この符号は古譜の名残であり、現行では機能していない。

以上の他、平調調子に「青蛉返」、盤渉調調子に「千段治音」の演奏指示が見られるが、これらは現代では既にどのような奏法を意味していたのか不明となっており、現行の演奏では無視されている。

著名な笙奏者

真鍋尚之

宮田まゆみ

石川高

カニササレアヤコ

笙製作者

鈴木治夫 - 東京で唯一の笙職人。
雅楽だより編集者。[10][11]

脚注^ 表側の屏上は也・言の竹にあるがいずれも飾りであり、言の正式な屏上は裏側に開けられており、也は通常簧がなく音が出ないので正式な屏上はない。また毛も通常簧がなく音が出ないので屏上はなく、他に低音の一や乞の竹にも屏上が開けられていない場合がある。
^ 『神社有職故実』100頁昭和26年(1951年)7月15日神社本庁発行
^ 豊永聡美「後光厳天皇と音楽」(初出:『日本歴史』567号(1998年)/所収:豊永『中世の天皇と音楽』(吉川弘文館、2006年) ISBN 4-642-02860-9 P130-151)
^ 谷口雄太「戦国期斯波氏の基礎的考察」『年報中世史研究』39(2014年)/所収:谷口『中世足利氏の血統と権威』(吉川弘文社、2019年) ISBN 978-4-642-02958-2 2019年、P150-151.
^ 『楽曲考』(D#5)では「毛の管には右の中指の二節を用うべし」としている。一方、現代音楽(F5)では右手薬指で押さえるのが通例である。
^ 似た文字で代用している。実際にはもっと横長の字形。
^ 似た文字で代用している。実際には上の点がなく、更に多少異なった字形である。
^ a b c 林謙三『笙律二考』
^ 『楽曲考』では現行の美の合竹中に含まれる比の音について、「中世已来比を加ふ、然るときは均外の声主となる故に、律和せず、誤りなる事明らけし」とし、本来は太簇均外の音である比を含まない5音から成る合竹であったとしている。
^ぶらり途中下車NTV, 2008年8月9日
^第63回 笙職人 鈴木工房 鈴木治夫フロンティアーズ、2010.0904

関連項目

?(う)



オルガン

外部リンク

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