競馬場
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馬場の呼称
日本

日本の競馬場は多くの場合、長円形をしており、長い2本の直線と90度に方向転換する4つのカーブで構成されている。日本ではこれらの4つのカーブに特定の名称が与えられている。

ゴールを過ぎて最初のカーブから順に第1コーナー、第2コーナー、バックストレッチ(向正面)の直線、第3コーナー、第4コーナーと呼ぶ。再びホームストレッチ(最後の直線)に戻ってくる。

通常は第4コーナーがその競走で最後のカーブとなり、特別に最終コーナーと呼ぶ。これはあくまでもゴールからの通過順をもとにした名称であり、例えばバックストレッチ側の直線から競走がスタートした場合には、はじめに通過するコーナーが第3コーナーである。

競馬は競走が行われる距離によってスタート地点が変わる。例えば東京優駿(日本ダービー)は東京競馬場の2400メートルで行われ、ホームストレッチの半ばからスタートし、第1コーナー、第2コーナー、バックストレッチ、第3コーナー、第4コーナー(最終コーナー)、最後の直線、ゴールという順で概ねコースを1周する。小さい競馬場では同じ2400メートルでも1周では足りないので1周半になることがあり、向こう正面からスタート、第3コーナー、第4コーナー、手前の直線、第1コーナー、第2コーナー、向こう正面の直線、第3コーナー、第4コーナー(最終コーナー)、最後の直線、ゴールとなる。この場合当然、第3コーナーや第4コーナーは2回通過することになり「1周目の第3コーナー」などと表現することもある。1回目の第4コーナーを「最終コーナー」とは呼ばない。

競馬に関する文章では表記を簡略化するため「コーナー」を「角」と表記し第1コーナーを「1角」、第2コーナーを「2角」などと表すことがある。ただし通常、第4コーナーは「4角」であって「最終角」とは言わない。例えば第3コーナーで先頭にたってそのままゴールした場合に、「3角先頭」などと表現する。通常、口語ではこれらの表現は用いないが、戦時中に英語が敵性語として使用が制限されていた際に、日本語に置き換えるように指導された際には第1角、第2角という風に表現していた事もある[注 4]
欧米

コースのカーブに「第1コーナー」などの名前がついておらず順に"first turn"、"second turn"、"third turn"と呼ぶ。したがって日本のように、「第3コーナーからスタート」とか「第4コーナーを2回通過する」というようには表現しない。

最後の直線に入る手前のカーブを特別に「タッテナムコーナー(tattenham corner)」とか「タッテナム(tattenham)」と呼ぶことがある。元来のタッテナム(Tattenham)とは、エプソムダービーが行われるエプソム競馬場の最後のカーブ地点近辺の地名であり通常「タッテナムコーナー」とはこのエプソム競馬場の最後のコーナーのことであるが、転じて他の競馬場でも「最後のカーブ」の意味で用いられることがある。エプソム競馬場の最寄り駅は「タッテナムコーナー駅」である。「タッテナムコーナー」は単に「最後のカーブである」という順番を表すだけでなく「ここからが最後の勝負である」というような意味合いもあり、日本語の「天王山」に近いニュアンスを持っている。
坂・丘中山競馬場ゴール前の急坂

走路には自然に、あるいは人工的に勾配が設けられ「坂」と呼ばれる。坂は直線に設けられることが多いが、それ以外の場所にも緩やかだが存在している。一見平坦に見えても坂を上り下りしていることがあり、故に観客席から見ていると最後の直線に設けられている上り坂以外は認識しにくいことが多いが、競馬場のコースには坂はつきものである。他に京都競馬場の第3コーナーの坂は上り下りの「坂」で有名である。また、イギリスのエプソム競馬場には下ってから上る坂があり、アメリカのサンタアニタ競馬場にはスタートしてすぐに下っていく坂がある。旧盛岡競馬場(1995年廃止)では向こう正面から4コーナーにかけて高低差8.8mに及ぶ急坂があり名物であった。

障害競走やばんえい競走では平地競走の「坂」以上の100m前後(ばんえい競走の場合はもっと短い)の間に高低差が2メートル以上に及ぶ勾配が設置される。これを坂路またはバンケット(障害競走のみ)などと呼ぶ。@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}日本の競馬場にある坂路のような、短い距離の間に急激な高低差のある勾配は日本にしか存在しない[要検証ノート]。中山競馬場の2号坂路は高低差5.3mに及ぶ。

ヨーロッパの競馬場によく見られる勾配はもとの自然の地形を反映していることが多く、「丘(hill)」と表現される。

第3コーナーから第1コーナーへ、もしくは第4コーナーから第2コーナーへというようにトラック状の走路を斜めに横切る走路が別に設置される。これを襷(たすき)コースと呼ぶ。日本では障害競走用の走路に用いられる。かつては東京競馬場、新潟競馬場中京競馬場にも存在したが、東京競馬場の襷コースは1998年2月の「東京障害特別(春)」を最後に廃止され、跡地には馬券売り場が設置されたほか、コースの一部は芝の養生地として活用されている。また、新潟競馬場も2000年の走路全面改修工事(右回りから左回りに変更)の際に廃止、さらに中京競馬場も2010年春から2011年いっぱいにかけての全面改築工事の際に廃止された(中京競馬場ではコースの跡地が残されている)。アメリカなどでは平地競走でも襷コースが使われることがある。一例としてはアメリカンオークスのハリウッドパーク競馬場(2013年廃止)の芝10fは襷コース上からの発走であった。
内回り・外回り

一部の競馬場には、同一の素材の走路を独立して2本設ける、もしくは走路の一部を2つ重ねる(途中で分岐する)ものが存在する。競馬番組では内側にある走路を使用する競走では内回り、外側の走路を使用する競走では外回りと称して使用する走路が分かるように明記する。日本中央競馬会の競馬番組上では、内回りには何にもつけず、外回りを使用する場合のみ外回りと明記するという表記方法を採用している。

日本の場合、独立した2本の走路を設けている競馬場として船橋競馬場[ダート](ただし定期開催は外回りのみ利用)が、走路の一部を2つ重ねる形態を持つ競馬場として中央競馬の中山競馬場[芝]・京都競馬場[芝]・阪神競馬場[芝]・新潟競馬場[芝]と地方競馬の大井競馬場[ダート]、門別競馬場[ダート]がある。後者のうち中山競馬場以外は第3?第4コーナーで内・外回りが分かれ、中山競馬場は第2?第3コーナーで内・外回りが分かれる。

一部の長距離競走では1周目は外回りを使用し、2周目は内回りを使用するなどの複雑な使用をする場合もある。例えば有馬記念は内回りとされているが、第3コーナーから奥の外回りコースにスタートが設定されており、そこから内回りとの合流地点までは外回りコースを走る。

阪神競馬場と新潟競馬場では内回りと外回りの距離差が1ハロン(200m)で割り切れる距離のため(阪神競馬場は400m、新潟競馬場は600m)、ハロン棒は内回り・外回りの両方の残り距離を表示できるものを使用している。

1960年代前半には中山競馬場の第3?第4コーナーに走路を2つに分ける移動柵を置いていた時期がある。この時期の有馬記念では第3コーナーの奥からスタートして1周目の第4コーナーにかけて移動柵の外側を通過して直線に入り、2周目の第3コーナーから移動柵の内側を通過して最後の直線に入っている。これらは1966年の中山競馬場のコース改修で向う正面に完全な外回りコースが完成してからは内外に分けることは無くなった。

なお、競馬番組で明記された走路と異なる走路を走った場合には1頭だけの場合には競走中止として扱われ、全馬が異なる走路を走った場合には競走不成立(1944年の長距離特殊競走(後の菊花賞)が一例)とされる。

走路の一部が平面交差する競馬場は存在するが、鈴鹿サーキットの様な立体交差するような走路は存在しない。
ポケット・シュートポケットからの発走となる東京芝2000m

トラック状の走路の直線部分、もしくはカーブ途中から一部直線状に一部飛び出す形で設けられる走路。カーブ地点からの発走は内枠と外枠の有利不利が顕著に現れるほか、接触事故などの危険防止の観点から発走直後の走路をしばらく直線にして危険を回避するために設けられることが多い。

日本では引き込み線(引込線・引込み線)と称されることもある。

このポケット(シュート)が設けられることによって競走の多様な距離設定が行えるようになっている。第2コーナーの奥に設けられる直線走路を第2コーナーのポケット、第4コーナーの奥に設けられる直線走路を第4コーナーのポケットなどと呼ぶ。競馬場によってはポケットと呼ばずにシュートと呼ぶ。第2コーナーのポケットからのスタートになるのは阪神競馬場の芝1800m、京都競馬場の芝1600m・芝1800m、新潟競馬場の芝2000m(内回り芝1400m)、中京競馬場芝1400m、また札幌競馬場函館競馬場福島競馬場小倉競馬場の芝1200m等で、何れも芝コースである。第4コーナーのポケットからのスタートになるのは京都競馬場の芝2400m、中京競馬場の芝2200m等で、新潟競馬場の直線芝1000mの競走に使われる直線コースも広義には第4コーナーのポケットといえる。

また、中京競馬場の芝1600mと東京競馬場芝1800mのスタートは第2コーナーから逆向きにすれば少しカーブを曲がった所から直線走路になっていて、スタート後にほぼ200?300mをまっすぐ行った後、第2コーナーの角を回って向う正面の直線走路に入る構造になっている。この構造は馬場拡張前の阪神競馬場にもあり、芝1600mのスタートが第2コーナーというよりも第1コーナーの所からのポケットにあり、スタートして300m進んですぐ鋭角に第2コーナーを回る構造で桜花賞で2006年まで使われていた。

なお、東京競馬場の芝2000mと中山競馬場の芝1600mのスタートは第1コーナーのより外側にあって、第2コーナーで本来の走路に合流する構造になっている。

盛岡競馬場には第2コーナーの最奥に400mに渡るポケットが設けられており、マイルチャンピオンシップ南部杯などで用いられるダート1600mはこのポケットの最奥部からの発走である。

外側に芝コース、内側にダートコースが設定されている競馬場(日本の全ての中央競馬場)において、ダートコースに対するポケットが設置されている例もあり、中央競馬においてダートコースに対して設置されているポケットは芝コースを跨ぐ地点のみならずポケット全体が芝コースとなっており[注 5]、発走後しばらくは芝コースを走行することとなるがこの場合も走路の呼称はあくまでも「ダート○○○○m」とされ、「芝→ダート○○○○m」というようには言われない。

特に京都競馬場と阪神競馬場のダート1400mコースでは芝のポケットを100m以上も走行することとなり競走馬の走路適性が影響を及ぼす可能性もあるほか、合流地点は必然的にコースの外側のほうが芝コースの距離が幾分長くなる為、ポケットからの発走となるダート競走ではスピードが出しやすい芝コースを少しでも長く走れる外枠発走の逃げ・先行馬が有利ともいわれ、馬券購入の際の検討要素として無視出来ない存在となっている。
走路内、走路脇の設備・装置

走路内や走路脇には競馬を行うために必要な設備や装置が存在する。この節ではそのような設備や装備について説明する。
ラチ移動柵設置時(上)と非設置時(下)

コースの内側および外側には柵(日本の競馬関係者はラチ(埒[5])と呼び、内側の柵を内ラチ、外側の柵を外ラチとも呼び、一般の競馬ファンにも広く浸透している)が設けられる。

芝コースについては、コースの特定の部分が集中的に痛むことを避けるためにコースの内側の移動式の柵(移動柵)を内外に移動している[6]。かつては内側の本来の柵である本柵の外側に仮の柵を設置し「仮柵」と呼んでいた[6][注 6]。移動柵の設置位置によりコーナーでの距離に変化が生じることからこの距離の差は発走地点を移動して調整されているが、仮柵と呼ばれていた頃は、発走地点は常に一定であった[6]


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