童貞
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こうした定義から明確に男子のみを指すようになるのは1970年代以降になってからのことである[9]。なお、『広辞苑』や『岩波国語辞典』などでは、現代でも「主として男性」との言葉があり、男女双方を指す用語として定義されている。
童貞に対する価値観

カエサルの著した『ガリア戦記』によれば、古代ゲルマン人の間では長く童貞を守れば身長が伸びたり、体力が優れていたり、筋肉が強くなったと信じられていたため、遅くまで童貞を守る者は賞賛されていた。その一方で、20歳になる前に童貞でなくなることは醜い恥の一つと見なされていた[10]。またキリスト教イスラム教ヒンドゥー教では、僧侶のみならず信者に対しても貞操観念を厳格化しており、成婚までの童貞性、処女性を重んじている(婚前交渉の禁止)。

戦前日本では、1922年から1928年にかけて安田徳太郎および山本宣治が学生、インテリ層、労働者を対象に実施したセックス・リサーチにあるように、自他共の純潔を尊重し、結婚するまでは童貞を守るべきという風潮が強かった[11]

こうした貞操観念は戦後に入るにつれて次第に崩壊して行った(これは日本に限らず、宗教離れが進行したその他先進国でも同様であった)。1948年に起こったいわゆる「童貞訴訟」と呼ばれる裁判において、新婚の男性が「共同生活の義務を履行せざる」として妻に対し童貞喪失の慰謝料を訴えた事案がある[12]。ここでの結論は「女子の貞操の喪失に対する社会的評価と男子の童貞の喪失に対する社会的評価を同一に評価することは法律上妥当しない」とされており、女性が持つ「処女」の価値観と男性が持つ「童貞」の価値観の乖離が見られるようになる。1960年代に入るとこの風潮は一層強いものとなり[13]、批判的言説が繰り返されるようになると、それまで美徳と見られていた童貞は恥と見られるようになった[14]

現代の日本において、一定の年齢を過ぎて童貞でいることを問題として見る観念が存在し、童貞ということを長い間身近な人々へ隠して秘密にせざるを得ない人もいる[15]社会学者澁谷知美によれば、このような風潮が生まれるそもそもの要因として、男社会において性行為には「女性を支配する」という意味合いが含まれ、そして「そういう経験がない奴は男として半人前だ」という価値観が根底に存在するためだとしている[16]。また、この理性に反する本能的な価値観が日本において大衆的に、特に若年層に広まっていったのが、性行為が娯楽化し、恋愛の自由化が進んだ、戦後から1970年代にかけてのことだと指摘した[16]。さらに澁谷は、インターネット時代を迎えたことによる「フィジカルな暴力から言葉の暴力へ」の暴力の在り方の変化から、在日外国人、貧困者などと同様に童貞がネット社会における暴力的な言説の攻撃の的となり、貶められる風潮が以前より激しくなっているのではないかと指摘している[16]

政府による2010年の調査では、30代独身の男性の4人に1人が童貞で、同条件の処女である女性もこの割合をやや下回るのみであった[17]。一部では、ホワイトハンズ(「新しい性の公共」[18]を掲げるNPO)の支援教室のように、同様の人々が集う場で童貞であるということを打ち明けて自らの体験をオープンに共有するという試みも見られる[19]
派生語
素人童貞
性風俗店で働いている風俗嬢、すなわち「プロ」の女性以外との性経験がない男性のことを指す[20]
玄人童貞
@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}「素人童貞」とは逆に、一般女性との性経験はあるが、性風俗店を利用したことのない、風俗嬢との性経験がない男性のことを指す。[要出典]
○○童貞
あることの経験がない人として使われることもある。例えば風俗へ行ったことのない人を「風俗童貞」と呼んだりして使うこともある。性的な事柄以外にも使われる。
童貞キラー
童貞好きの女性。男女が出会う場所に出没し、経験の無さそうな男性を誘惑する。自分が童貞好きであることを公にはしていないことの方が多い[21]
童貞を殺す服
女性の服装を指すインターネットスラング。「複雑な構成のために童貞だと焦って脱がせることが困難な服」「童貞の心を打ち抜く要素を持つ服」など、諸説ある[22]。さらに派生したものに、肩から腰にかけて大きく露出したホルターネックのセーター「童貞を殺すセーター」がある[23]
脚注[脚注の使い方]^ 『日本の童貞』p.102
^ 『性科学の基礎知識』p.103-104
^ジャパン・セックスサーベイ2017
^ 『女子教育事始三』小河織衣著、p.39
^ 『日本の童貞』p.26
^ 『日本の童貞』p.104
^ 『童貞論』浅田一著、p.71
^ 『日本の童貞』p.107
^ 『日本の童貞』p.110
^ カエサル, VI. 4. 21
^ 『性科学の基礎知識』p.132
^ 『下級裁判所民事裁判判例集』p.169
^ 『日本の童貞』p.111
^ 『日本の童貞』p.173
^ “日本で「中年童貞」が増加 その背景は(2/3)”. CNN. (2015年12月27日18時56分). https://www.cnn.co.jp/fringe/35067033-2.html 2020年3月27日閲覧。 
^ a b c “かつて“童貞”とは妻に捧げるものだった――童貞はいつから恥ずかしいものになったの? 社会学者・澁谷知美先生に聞いてみた”. ニコニコニュース. (2018年3月19日). https://originalnews.nico/84023 
^ “日本で「中年童貞」が増加 その背景は(1/3)”. CNN. (2015年12月27日18時56分). https://www.cnn.co.jp/fringe/35067033.html 2020年3月27日閲覧。 
^ “ホワイトハンズとは”. ホワイトハンズ. 2020年3月27日閲覧。
^ “日本で「中年童貞」が増加 その背景は(3/3)”. CNN. (2015年12月27日18時56分). https://www.cnn.co.jp/fringe/35067033-3.html 2020年3月27日閲覧。 
^ “素人童貞37歳「彼女はいらない、プロの女でいい」は本心か?”. 日刊SPA (扶桑社). (2019年5月18日). https://nikkan-spa.jp/1572401 2024年1月1日閲覧。 
^ 童貞キラーはどこにいる?
^ モトタキ「「童貞を殺す服」は控えめに言って最高! こじらせガチ童貞に聞く」『しらべぇ』NEWSY、2016年8月5日。2021年9月10日閲覧。
^ 「「童貞を殺すセーター」がついに日本上陸! ヴィレヴァンオンラインストアで販売開始」『BIGLOBEニュースBIGLOBE、2017年3月23日。2021年9月10日閲覧。

参考文献

安田徳太郎『性科学の基礎知識』世界評論社、1950年。 

押野武志『童貞としての宮沢賢治』ちくま新書、2003年。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 978-4-480-06109-6


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