空間_(数学)
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現在では、空間というものは、点として扱われる選ばれた数学的対象(例えば、別な空間上の写像や別の空間の部分空間、あるいは単に集合の元など)と、それらの点の間の選ばれた関係とからなるものと理解される。すなわち、空間とは単に数学的構造であるに過ぎない。ある構造を「空間」と呼ぶときは、そうでない場合よりも幾何学的な扱いが期待されるものと考えることができるが、これは常に正しいというわけではない。例えば、可微分多様体(滑らかな多様体)は可測空間よりもかなり幾何学的な対象だが、これを可微分空間や滑らかな空間と呼ぶことはない。
空間の分類
三種の分類階層

空間の分類は三つの階層で行われる。各数学理論がその対象が持つある種の性質によって対象が記述されるものとして与えられるとき、最初に問題となるのは「それはどのような性質か」ということである。

例えば、第一階層の分類 (upper-level classification) でユークリッド空間と射影空間とが区別できる。これはユークリッド空間では二点間の距離を考えることができるが、射影空間では考えることができないことによる。これらの空間は「型」が異なる。

別な例として、「三角形の内角の和はいくらか」という問いはユークリッド空間では意味を持つが射影空間では意味を持たない。故にこれらは型の異なる空間なのである。一方、この問いは非ユークリッド幾何学でも意味を成すが、答えが異なる。これは第一階層での区別ではない。

ユークリッド平面と三次元ユークリッド空間との区別も、「次元はいくつか」という問いは双方で有効であるから、やはり第一階層での区別ではない。

ブルバキ[14]によれば、第一階層の分類は「型による特徴づけ」あるいは「型付け」と関係があるが、それらは同一の概念ではない(二つの同値な構造が異なる型を持ちうる)。

第二階層の分類 (second level of classification) では(第一階層に準じて意味を成す問いの中で)特に重要な問いに関してその答えを勘案するものである。この第二階層で区別されるものは例えば、ユークリッド空間と非ユークリッド空間、有限次元空間と無限次元空間、コンパクト空間と非コンパクト空間などがある。

ブルバキ[14]によれば、第二階層の分類は「種」の分類である。生物学的な分類法とは異なり、一つの空間は複数の種に属しうる。

第三階層の分類 (third level of classification) は、大まかに言えば(第一階層に準じて意味を成す)問いとして「可能な全て」についての答えを勘案するものである。例えばこの階層で、次元が異なる空間はどれも互いに区別することができるが、二次元ユークリッド平面として扱われる三次元ユークリッド空間内の平面と、やはり二次元ユークリッド平面として扱われる実数の対全体の成す集合とはこの階層で区別することはできない。同様に、同じ非ユークリッド空間の異なるユークリッド模型もこの階層で区別することはできない。

より厳密に言えば、第三階層の分類は同型を除く分類である。二つの空間の間の同型とは、一方の空間の点と他方の空間の点との間の一対一対応であって、「型付け」を与えることによって決まる点の間の関係を保存するものとして定義される。互いに同型な空間は一つの空間の複製であると考えられ、その一つがある種に属するならばそれら全てがその種に属する。

同型の概念は第一階層の分類を浮き彫りにする。同じ型の二つの空間の間に一対一対応が与えられれば、それが同型か否かを問題にすることができる。これは型が異なる空間に対しては意味を成さない問いである。

自分自身への同型は自己同型と呼ばれる。ユークリッド空間の自己同型は、ユークリッドの運動と鏡映である。ユークリッド空間は、任意の点を適当な自己同型によって別な任意の点に写せるという意味で等質である。
空間同士の関係と空間の性質

(連続性、収斂、開集合、閉集合などといった)位相的概念は任意のユークリッド空間で自然に定義される。すなわち、任意のユークリッド空間は位相空間である。二つのユークリッド空間の間の同型は、対応する位相空間の間の同型(つまり同相)でもあるが、逆は正しくない。すなわち、距離を歪める同相写像が存在しうる。ブルバキ[14]の語法では、「位相空間」は「ユークリッド空間」構造の台となる(underlying; 下敷きとなる)構造である。同様の概念は圏論においても生じる。つまり、ユークリッド空間の圏は位相空間の圏上の具体圏であり、前者の圏は忘却函手(「引き剥がし」函手)によって後者の圏へ写される。

三次元ユークリッド空間はユークリッド空間の特別の場合である。ブルバキの語法では[14]、三次元ユークリッド空間の種はユークリッド空間の種よりも豊饒 (rich) であるという。同様に、コンパクト位相空間の種は位相空間の種よりも豊饒である。

ユークリッドの公理系には自由度がなく、空間の幾何学的性質はすべて公理系から一意的に決定される。もっとはっきり言えば、三次元ユークリッド空間はどれも全て互いに同型である。この意味で、単に三次元ユークリッド空間と呼び、具体的に「どのような」三次元ユークリッド空間であるかを通常は指示しない(英語では定冠詞 "the" を付けて呼ぶ)。ブルバキでは、対応する理論は一意 (univalent) であるという。対して、位相空間は一般には非同型であるから、それらの理論は多意 (multivalent) であるという。同様の考え方は数理論理学においても生じる。理論が範疇的であるとは、その濃度が等しい全てのモデルが互いに同型であるときにいう。ブルバキ[15]によれば、多意な理論の研究は古典数学から現代数学を峻別する最も著しい特徴である。
各種の空間
線型空間と位相空間

二つの基本的な空間として、線型空間(ベクトル空間とも)と位相空間が挙げられる。

線型空間は代数学的な性質のものである。(実数全体の成す上で定義される)実線型空間、(複素数全体の成す体上で定義される)複素線型空間、あるいはもっと一般に任意の体上の線型空間などが考えられる。実数は複素数でもあるから、任意の複素線型空間は実線型空間でもある(後者は前者の台)[details 2]。定義によって線型空間が与えられたとき、線型作用素は「直線」(および「平面」あるいは他の線型部分空間)、「平行線」、楕円(あるいは楕円体)などの概念を導く。しかし、「直交」(あるいは「垂直」)の概念を定義することはできないし、円を楕円の中の特別なものとして選び出すことなどはできない。線型空間の次元線型独立なベクトルの数の最大値として、あるいは同じことだが空間全体を張るベクトルの数の最小値として定義される(それは有限かもしれないし無限かもしれない)。同じ体上の二つの線型空間が互いに同型となるための必要十分条件は、それらの次元が等しいことである。

位相空間は解析学的な性質を持つものである。定義により位相空間が与えられるとき、開集合を用いて連続函数・連続な道・連続写像、点列の収斂や極限内部境界外部といったような概念を導くことができる。しかし、一様連続性有界集合コーシー列可微分函数(滑らかな道、滑らかな写像)といったようなものは定義されない。位相空間の間の同型は慣習的に同相写像と呼ばれる、双方向に連続な一対一対応である。単位開区間 (0, 1) は実数直線全域 (−∞, ∞) に同相だが、単位閉区間 [0, 1] とも円とも同相でない。


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