秘境冒険小説
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『失われた世界』(1912年) の挿絵

古生物学への興味から書かれたコナン・ドイル失われた世界』(1912年)は、南米の奥地に恐竜の生き残りがいるというアイデアの秘境冒険ものであり、以後この種の作品は「ロスト・ワールド」ものと呼ばれるようになった[6]。ドイルはハガードを意識して歴史小説を書いたが、二人とも「イギリスの騎士道精神を基調にしている」ことで共通していた[7]。またこの後、エドガー・ライス・バローズの『時間に忘れられた国』(1918年)や、エイブラハム・メリットの『ムーン・プール』(1918年)なども書かれた。『失われた世界』は1915年に映画化もされ、1933年には南洋の孤島を舞台にした映画『キング・コング』も公開された。

ベルヌの『海底二万里』(1870年)や、続いて発表されたイグナチウス・ドネリー『アトランティス-大洪水以前の世界』(1882年)、ヘレナ・P・ブラヴァツキー『秘密教義』(1888年)により、アトランティスムーレムリアなど古代の失われた大陸への関心が高まり、1885年から1930年にかけてアトランティス小説と呼べるような作品が多数刊行された[8]『ムーン・プール』表紙
様々な起源

孤島での生活を題材にしたのはダニエル・デフォーロビンソン漂流記』(1719年)であり、これを意識して風刺の物語として書かれたのがジョナサン・スウィフトガリヴァー旅行記』(1726年)である[9]サミュエル・バトラーの『エレホン - 山脈を越えて - 』(1872年) も、冒険よりもスウィフト風の社会風刺をテーマとしている。シモン・ティソ・ド・パト(英語版)の『ジャック・マッセの旅と冒険』(1710年)は、先史時代の動植物を描いている。ロバート・ポルトック(英語版)の『ピーター・ウィルキンズの生涯と冒険』(1751年) は、デフォーとスウィフトに影響を受けた18世紀の空想的航海を描いており、主人公が険しい峰で囲まれた絶海の孤島で翼を持つヒト型の種を発見する物語である。

未知の土地にユートピアを発見するという物語は、トマス・モアユートピア』(1516年)に始まり、ジェームズ・ヒルトン失われた地平線』(1933年)ではチベット奥地にシャングリラと呼ばれる理想郷を発見する。

地球空洞説については、地球内部の理想郷を描く、ジョン・クリーブス・シムズ(英語版)の『シムゾニア・ある発見航海』(1823年)があり、こちらがロストワールドものの起源とされることもある[10]エドガー・アラン・ポーナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』(1838年) は、海洋での様々な冒険ののちに地球内に向かう穴の存在を示唆しており、これがベルヌ『地底旅行』や、バローズ「ペルシダー・シリーズ」(1922-63年)にも影響を与えた[11]

高山宏は、17世紀以降はシノワズリー(支那趣味)エジプトロジー(エジプト学)が流行しており、1790年にジェイムズ・ブルースの冒険紀行『ナイル川の水源を見い出す旅。1768-73』がコールリッジ『クーブラ・カーン』やポーに影響を与えたとされ、またこの頃ロゼッタ・ストーンの発見、解読があったことも、エジプトをはじめとする文明の起源の探求、オリエンタリズムが文芸のテーマとされるようになったと指摘し、またハイデガーの「偶然に身をゆだねよう、そうすれば全一のことばが究極の意味の『中心』へと汝を導く」という言葉が『地底旅行』のメッセージであり、「『ロースト・ワールド』は汝がこれを開けない限りにおいて『失われた』世界であるのに過ぎない」と述べている。[12]

恐竜が地上のどこかに生き残っているというアイデアは、19世紀初めの恐竜の化石発掘熱や、19世紀中頃にアメリカのゴールドラッシュとともに起きた、バーナム・ブラウンが『屋根裏の恐竜たち』で「大いなる恐竜ゴールドラッシュ」と呼んだ地層発掘熱とともに、チャールズ・ダーウィンビーグル号航海記』(1839,45年)の「ガラパゴス群島」の章で、ここに生息する爬虫類にかつて中生代に存在した巨大な生物を重ね合わせていることとの関連の指摘もあり、またレイ・ブラッドベリの短編小説「霧笛」(1951年)(1953年『原子怪獣現わる』として映画化)のように、現代の人間世界に恐竜が現れるという作品にも受け継がれている[8]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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