科学的方法
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このような簡単なデータを議論の対象としない(あるいは、調べてもいないということは)、少なくともエビデンスベースとは対極にある姿勢であり、科学的ではない[注釈 16]

また、2000年代前半ごろから、「ゲームをすると、脳が破壊される(ゲーム脳)」等といったいい加減な学説が、科学的検証を受けずに流布しており[78]、一部の科学的方法に理解の乏しい教育者が無批判に、教育方針に取り入れている場合がある。

大昔の事例としては、禁酒法魔女狩りなども、口当たりのいい表現に基づいた、科学的根拠のない判断である。

ここまで分かりやすい、つまり、当該分野の専門的な知識がなくても、議論のおかしさが大体わかる例はそこまで多くないが、それでも、どのような議論でも、エビデンスを無視した科学的方法とは対極にある判断が含まれていることは、よくある[31][31][32]

このような事例に対して、ロジカルシンキングクリティカルシンキング等の手法から、解説した書物が、近年相次いで出版されているなど、(例えば[31][31])一定の関心がはらわれるようになっている。このような関心に答える一連の知識体系を、メディアリテラシーという。
「科学的」という言葉への誤解

科学的という言葉に関する二つの極端な立場がある[12]。一つは、「科学的に証明された」「正しい理論」という文言と、それらしい実験を示しただけで、盲目的に信仰するという立場である。もう一つは、すべては「単なる理論」であるという事を極端に強調し、全く信頼しないという立場である。これらは二つとも科学的という言葉に対する初歩的な誤解である[12]

「科学的に証明された」、「正しい理論」という言葉が、何を意味するのかは、非常に幅の広い意味を持つ言葉で一般には難しい[12]。このような問題を考慮する場合には、「研究目的にたちかえって考えること」や、「測定とはどのようなことなのか」、「科学的な論証で用いられる論法」など、「科学的な方法」に求められる諸要件について理解しておく必要がある[12]

特に、科学的な態度においては、特に論文などのように、自らの得た知見を世に問う場面においては、明確な研究目的の提示を行うこと、そして、「研究目的で提示した問題の解」において明快な論理と確かな証拠を以て立証する義務が生じる(詳細はIMRAD参照)。これは、数学の証明問題において「示すべき命題が何なのかを意識せよ」と言われるのと同じことである。例えば「鶏肉からDNAを抽出する」という研究目的を立てた場合には少なくとも「抽出されたものがDNAであることをきちんと立証する」必要がある[注釈 17]。つまり、この研究目的に照らして、例えば「洗剤に鶏肉を入れたら、白い沈殿ができた」という結果が得られたとしよう。この場合この結果と「その白い沈殿がDNAである」という結論の間を最も真剣に考察する必要が生じる(循環論法の項を参照のこと)。

本来科学的なものの見方を広めるはずの、啓蒙活動が、かえって「科学的」という言葉に対する誤解を広める原因となることもある。古くから、健康番組や科学番組などにおいて演示実験がおこなわれる。また、科学啓蒙家による演示実験による啓蒙活動がよく行われる。また“インパクト抜群のオモシロ実験”を自宅で簡単にできるようにコンパクトにまとめた本が多数売り出され好評を博している。これらの中には、しっかりとした調査の上に科学的な論理を以って物事の成り立ちを示す大変質の高いものがある一方で、実験データの検証と解釈などの点で科学研究の基礎的な要件をあまりにも無視したものが多数見受けられる[38]

金澤一郎 日本学術会議会長は昨今の健康番組や科学番組における“科学的な論証”に対し、

適切な対照群の設定

統計的な有意差を得るために必要な実験例数の設定

実験データの検証と解釈

などの点で科学研究の基礎的な要件を必ずしも満たしていないものが見受けられることを指摘した[38]

ゆとり教育においては、特に初等教育、中等教育において「体験型」を重んじるあまり、単なる「じっけんごっこ」にすぎない、「科学的方法」とはかけはなれた行為を「実験」として理科の教育課程で行ってきてしまった[79]菊池誠は指摘した。わかりやすさを前面に出すためには、ある程度は枝葉末節を切り捨てることが重要ではあるが、科学的な論証の上で必要な手続きを無視した議論は、結論の成否に関わらず、科学的な態度とは対極にある態度である。

一方で、科学的という概念を無駄に潔癖な方法と誤解している者もいる[59]。現実の科学者に対して、無駄に潔癖な考え方を押しつけ、ただの誤解やミスあるいは(マスメディアに見られる“科学的推論”に比べればはるかにギャップの少ない)「多少は強引な結論」等、科学の進展の上では必然的に生じてくるような特段騒ぐほどでないものを誇張して科学における不正行為と騒ぎ立てるものがいる[59]。こういった問題は最近においては「芸能人の不倫騒動」と同列に大衆の興味を掻き立てるものである[59]。科学者においては誠意をもった推論が必要なことは言うまでもないが、最近においてはこのような“ゴシップ騒動”の影響で、特に若い世代に萎縮効果が出るなどの弊害がある点には注意が必要で、健全な科学の進展には弊害がある[59]
歴史と哲学「科学史」も参照

「科学的な方法とは何か」という問題について、これまでは科学者の側あるいはそれに近い側からの議論を中心に述べてきたが、この問題は科学哲学の重要な問題の一つでもある[80]。但し、反証可能性、オッカムの剃刀などに関する諸議論は、科学者にとっての必須教養ではない。研究開発の現場と乖離している場合もある。哲学として一定の権威を有していても、極端にそれら考えを掘り下げると全くの出鱈目に近い議論が成立することもあるので注意を要する。

科学的な方法を身に付ける上では、特に初学のうちは下手に手を出さないほうがよい事柄も多く含まれ、研究者として未熟な段階でこの手の議論にとりつかれてしまったがために、この手の話題だけには強くなり、インターネット上で教弁をふるってはいるが、研究業績はさっぱりという「研究者」もいる。

特に、哲学と自然科学が分業して以降は科学哲学の側がどうしても観念的になり、また、科学を中途半端に理解した議論が野放図に行われる状況である[51]。具体的には、「相対論の実証により、古典力学の正しさは否定された」とか、「土星模型は、電子運の発見で意味をなくした(土星模型で説明のつく問題は土星模型を用いればよく、量子論でも、ハミルトニアンは、クーロンポテンシャルを用いて立てることが多い。)」などといった短絡的で次元が低い理解に基づき、論理の飛躍を繰り返す傾向などがある。また、宗教、オカルトといった、まったく思考様式の異なる問題と科学との線引きといった、科学者にとっては直接的には意味のない問題を延々と扱う傾向がある。

また、古典的な科学哲学者の見解には科学の進展の美化された部分を高度に抽象化させすぎるきらいがあることが指摘されている。結果として道徳の次元としては美談だが、現実の科学の進展に寄与したい人間にとっては逆に変な誤解や萎縮効果を与えてしまう危険性のある理屈がまかり通り、神話を作るだけで結果として科学者の側にとってはどうでもよい問題を延々と議論しているという指摘がしばしなされる[51][81]

不幸なことにこのような古典的な科学哲学の問題点は「いまでもそのまま」だと誤解されているようであるが、これはとんでもない間違いである。現在の科学史、科学哲学においては既に実験ノートの記録などから科学的に研究者に迫るアプローチが主流であり、従来の観念的な科学論は科学哲学の中でも重要性を失っている[81][82][83][84]

観念的な大昔の科学史、科学哲学によって形成された神話的な科学者像は正確には実用性に欠く見当違いな「科学的方法」観を与える。先述のように、科学的な方法においては、最終的にはデータに文脈性を持たせることが重要になるが、データに文脈性を持たせる能力について「単なる弁明の能力でしかなく、科学を進める原動力にはならない」と言う人もいる[82]。そして、「口がうまい者が一流とみなされる」と嘆いて見せる[82]。しかし最近の科学史の研究においては、「パスツール」だとか「ファラデー」とかいった比較的神格化されている人たちも含め、どちらかというと「口がうまい」と嘆かれる研究者に近くそういう特質をもっていたからこそ科学を進歩させられたのだとみる見方が主流となっている。
反証可能性に関して

疑似科学に対する批判活動(科学と非科学の線引き問題)において、「科学的」であることの要件の一つとして、「ポパーの反証可能性の原則」がよく引き合いに出される。[要出典]

SFAAでは、本質的に立証も反証も行えないような対象は、原則論としては科学の対象とはみなされない[2]とされている。

しかし、総じて言えば、反証可能性は現実には、「ポパーの反証可能性の原則」は、言われているほど現実の研究者には、受け入れられておらず、むしろ軽視されている[49]とも言う。

ラリー・ラウダンらは「(反証可能性は)普通は科学的とみなされないような理論でも、満たすこともあり、これまで成功してきた多くの科学の実例は、反証可能性を逸脱している」と指摘した[要出典] 。ここで、「反証可能性を逸脱する」とは、「基本法則の成否判定が、少なくとも現実には不可能で、補助仮説を補ったり実験手続きの不備などを仮定するなどの“逃げ”(小規模な修正)によって理論が変わっていくこと」を指す[3]


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