科学的方法
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説明に不必要であることは、存在しないことを含意しない[注釈 8]

何が説明に必要であるかは必ずしも明確ではない。

などの問題点がありえるからである。
証拠

科学は証拠となる事実(生データ/証拠物件)を要求する。科学者は何らかの「真偽判定」を行う場合に「どういった証拠が結論を支持し得るか」ということを考える[2]。このような思考は一般に、科学教育において優先的に身に付けさせるべきことと考えられている[2][8]。この際まず、仮説を支持する証拠と仮説の反証となる証拠を明確にする必要がある[2]。さらに、結論を立証、あるいは反証するために必要な実験を計画する必要がある。

一般に、「仮説の反証となる証拠の存在」は、必ずしも反証となる証拠を提示された理論の否定にはつながらない(後述の「反証可能性について」を参照)[2]が、特に実験家は、既存の理論の反証となりそうな実験を好んでターゲットにするという傾向があり、そのような反証例を基に、理論が洗練させられていく[51]

証拠となる事実の取得(測定)の段階では、適切な測定方法の存在が重要となる。適切な測定方法の実現には、正しい測定原理と、それを実現する適切な装置構成、適切な精度評価が必要である[17][26]。測定原理の妥当性は、直接測定(例えば自分の身長を直接身長計で測る場合)の場合にはあまりその重要性が意識されないが、間接測定(例えば三角測量で山の高さを測る場合)には、その妥当性(本当にその方法で山の高さが測れるのか?)が極めて重要になる。また、「何を明らかにするために何をするのか」という研究者が意識すべき重要な事柄にも密接に関係する。

物理学や化学では、測定原理の妥当性の評価が比較的行いやすい対象が研究対象になるが、それでも最先端では、測定原理の妥当性や、装置構成の妥当性に対し議論が生じる場合もある。測定原理の妥当性や、装置構成の妥当性、精度の評価はそれぞれの学問における最も本質的な議題の一つであり、それぞれの学問分野で研究されることである。

測定原理の妥当性や、装置構成の妥当性については、主に大学の学生実験で重点的に指導される[26]。逆にいえば、測定原理の妥当性と装置構成の妥当性について学ぶことが学生実験の一つの重要な意義である[26]。典型的な例としては、ボルタ振子の実験等がある。この実験では、振り子周期重力加速度の関係を理論的に導いたうえで振り子の周期を測定することで、重力加速度を間接的に測定する。

測定原理、装置構成、精度の妥当性の評価を行うことを目的とした論文以外の論文では、博士論文等のような大著の論文を除き、装置構成の妥当性や装置構成の詳細、測定原理の妥当性については、軽く触れるにとどめるのが普通である。このようになった原因の一つには、知的財産権に関する戦略や、二重投稿と解釈されることへの懸念などがある。論文に実験方法詳しく書いた場合で、既に実験方法の妥当性を示すために提出した論文(理論や装置に関する論文)や、特許が存在した場合には、二重投稿と処断される可能性がある。また、論文に実験装置の構成について詳しく書きすぎると、実験の成功に関して必須でない部分に関しても装置構成に関する新規性が喪失されることになる場合があり、後に特許として権利化する場合に支障となる可能性が出てくる。

また、最近では実験ツールのキット化が進んでおり、間接測定であっても、妥当性、測定精度等の基礎評価は、実験装置、実験キットのメーカーが保証してくれていて、実験者が意識しなくても済むようになってきつつあるため、測定原理や測定精度について、意識の低い研究者がいることも指摘される[52]

証拠となる事実の整理(解析)、あるいは実証実験のように示すべき命題が明確になり、結論の有意性の問題に逢着段階においては「データの解釈方法」「データの記録または報告」「データの重みづけ」等、適切なデータの取得、適切なデータの処理に関する問題が重要となる[2]。「適切」とは、ここでは、「どのような手順でデータを取得、解析すれば偏りが少ないと認められるか」を指す[2]。この問題は概して非常に難しく、有意性の問題といわれる。有意性の判断は先述のように分野によってどこまで容認するかに温度差があるが、この判定基準については統計学特に実験計画法[注釈 9]の分野の研究者が研究している事柄である。有意性の判定に関して、実験計画法では以下の3条件を原則としている(実験計画法の項目を参照のこと)。

局所管理化:影響を調べる要因以外のすべての要因を可能な限り一定にする。

反復:実験ごとの偶然のバラツキ(誤差)の影響を除くために同条件で反復する。

無作為化(ランダム化):以上でも制御できない可能性のある要因の影響を除き、偏りを小さくするために条件を無作為化する。

また、「科学的であること」の要件として必須であるとまでは言えないものの「どのようなデータの収得順序、収得方法、統計処理方法でデータの本性をえぐりだすことができるのか」という問題も重要である。この問題の系統だった研究はデータマイニングの分野で研究されている。この問題に対してカリフォルニア大学サンタバーバラ校教授 中村修二が、「データに文脈性を持たせることの重要性」を説いている[53]。データに文脈性を持たせ、一見意味のない雑情報に見えるものの中から意味のある情報を取り出すためには、セレンディピティーや磨かれたセンス、場合によってはが要求される問題でもある。センスを磨くためには実験ノートの有機的な活用など、実験をよく振り返ることに加え、関連するよい論文に目を通し発見の過程を分析する必要がある。
推論過程「IMRAD」も参照

結論と、実験事実の間には何らかのギャップがあることが通常であり、その間を結ぶ考察が必要となる。すなわち、証拠と結論を結ぶ適切な推論過程が考察である。

推論過程を、一つの観点から分類すると、直接証明法と間接証明法に分類できる。

直接証明法:証明したい命題を直接的に立証する

間接証明法:証明したい命題と等価な命題(例えば対偶や背理法)を示す。

推論過程を、別の観点から分類すると、「演繹」と「演繹でない推論」に分類される([13]PP88-92)。

演繹とは、一般的原理として認知された法則、あるいはもっともらしいと信じられているものに基づいて、いくつかの仮定をおき、具体的なモデルを考え、それに基づいて現象を予測する手法である。

演繹でない推論(非演繹的な推論には、帰納、投射、類比、アブダクションがある。

帰納は、個別の例から一般性を導くもの。

投射はこれまでの個別例ではAの性質だったから、次のケースもAだろうという推論。

類比は、二つの事柄が似ていることから、それ以外の点でも似ているだろうという推論。

アブダクションは、たとえば今まで分かっていたことだけからではすぐに説明ができない場合に、説明を可能にするような新しい仮説を置いて、その仮説は正しいだろうと考えるような推論のこと。

ここで、アブダクションについては、あまり聞きなれない言葉であるため簡単に補足しておく。これの基本は「チャールズ・パース仮説形成法」が基本になるとされている[5][54][55]。パースの仮説形成法というのは、大まかに以下のような過程で“推論”する[5]

驚くべき現象Fが観察されている。

だが、仮説Hが真であると仮定すると、Fは当然のことになるだろう。

よって、Hは真であると考える理由がある。

いわゆる「現象論的」と言われる考察においては、このような考え方が特に好んで用いられる。また、現在において認められている理論のほとんどすべては、「多数のFを説明できるからHは正しい」といった論拠に基づいており、逆に言えば、どれだけの(多さの)Fを説明できるかがその理論の優劣を決める[5]。このようなモデルに基づいた仮説形成法は、「必要条件十分条件の混同」という点においてデカルトの枠組みを若干逸脱しているが、特に「情報量が増える」[13]こともあり、科学的な論証の推論過程においてよく用いられる[54]

演繹においては、「正しい前提に基づけば必ず正しい結論が得られる」という意味で真理が保存される一方、情報量は増えない。一方、非演繹的論法は、「蓋然的」、すなわち、「必然的ではない、結論が必ず正しいとは限らない」という特徴があり、一方で「情報量が増える」ということがある。科学者は、両者の良しあしを使い分け、試行錯誤の過程において、例えば「少数の現象から、それらを統一的に説明する仮説を帰納し、その仮説からより多くの現象を予測する」といったように、これらの論法を組み合わせる[56]

考察を行うに当たっては、必要に応じて、何らかの理論や既に公表された他の実験データなどを援用し、証拠を補完する必要がある場合もある。しかし、ある程度信頼を得ている理論ですら完全な証拠の補完ができず、いくつかの推定が根拠の中に混ざる場合や、推論過程自体に粗が存在する場合もある。一般に、「どのような推論過程」が適切であるのかは、その研究のオリジナリティーにかかわる部分であり、特に研究レベルでは極めて難しい。

実際、物理の重要な概念を創造した論文は、たいていは隙がある論理展開をしていると指摘される[51][50]。通常の学部レベルで想像される緻密な理論展開は、創造的理論を受けてその内容を精密化したり整理する過程で生じる[50]

このように科学においては論理性を重視する一方で、現実の対象を扱っていることによる若干の論理の飛躍を認めざるを得ない側面がある。一般に、現実の対象を扱う学問では多少飛躍を許してでも学問を進めたほうが、後になってみて分かることが多いと信じられている[57]


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