科学学術雑誌
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電子出版は、従来の紙出版物をスキャンなどで電子化したり電子向けに改作したりしただけの電子公開とは明確に区別される[34][35]

画面への出力はブラウジングや検索には便利だが多読には適していないため、近い将来も電子出版は紙の出版と共存し続けるとされている。そのためには、読者が紙で読むことにも、コンピューターに表示させて読むことにも両方適したフォーマットに統合する必要がある[34][35]

多くの科学学術雑誌はウェブブラウザで画面上で読み取り可能な形式で利用できるほか、ローカルのデスクトップコンピューターやラップトップに保存したり印刷に適したPDF形式でも使える。他にJournal Article Tag Suiteやユートピアドキュメント(英語版)といった新しいツールは、ハイパーリンクを介してPDF版のコンテンツを直接World Wide Webに繋ぐ、ウェブ版への橋渡しとして利用されている。PDF版の記事は通常記録版(英語版)とみなされるが、これについては現在も議論の余地がある[36]

十分地位が確立された印刷形態の科学学術雑誌の電子版は、出版される記事の査読や編集の急速な普及を促進する。確立された印刷誌の姉妹誌や、電子版のみのジャーナルを含むその他の科学学術雑誌も、インターネット上での迅速な普及や入手可能性を促進している。これと並行して、査読やコピー編集、ページ構成などのその他の迅速な普及につながるプロセスも加速している[37]

科学学術雑誌の電子出版の他の利点や独自の価値は、補足内容(データやグラフ、動画など)を簡単に利用できること、低コスト性、特に発展途上国の科学者を含む多くの人々がアクセス可能なことである。したがって、先進国の科学成果が発展途上国の科学者に伝わりやすくなっている[34]

さらに、科学学術雑誌の電子出版は査読プロセスの水準を損なうことなく行われている[34]

電子出版の一形態は、従来の紙ベースの出版に相当する出版物のオンライン版である。2006年までにほとんどすべての科学学術雑誌が、査読プロセスを維持しながら電子版を確立し、出版数はその電子版に移行している。多くの大学図書館も電子版を購入し、最も重要でよく使われるタイトルのみ紙版が購入されている[35]

通常、論文を書いてから科学学術雑誌に掲載されるまでには数か月以上の遅れがあり、最新の研究結果を速報するには紙ベースのジャーナルは不向きだった。現在ほとんどのジャーナルが、最終版の論文が準備でき次第、紙のように完全な号数分が揃うのを待たずにすぐに電子版で公開される。物理学など、さらなる高速化が求められる分野では最新の研究を迅速に広める役割はarXivなどのプレプリントサーバーに取って代わられている。そのような記事のほとんどが最終的には従来の科学学術雑誌から出版されるので、科学学術雑誌は品質管理や論文のアーカイブ化、科学的な信用の確立において依然重要な役割を担っている[38]
購読料

多くの科学者や図書館職員が長年にわたって、科学学術雑誌の高い購読料に抗議しており、その大金が営利出版企業に流れていることには殊更抗議は強まった[39]。研究者が論文にアクセスできるように、多くの大学はサイトライセンスを購入し、大学内のどこでも、さらに適切な処置の下では自宅など大学外のどこからでも論文を読むことができる。このライセンスは非常に高価で、印刷版の購入よりもはるかに高くつくこともある。これはライセンスを使う人数を反映しており、印刷物の購入の場合ジャーナルは1冊につき1人分の料金しか受け取れないが、サイトライセンスの場合はそこにアクセスする何千人分の料金をそのまま請求できる[40]

非営利出版社として知られる学会による出版物は商用出版社より安いが、それでもそこの科学学術雑誌の年間購読料は数千ドルに達する。一般にこの収益はジャーナルを運営する学会の活動資金や、科学者に科学リソースを提供するために使われるので、購読料はその分野に留まり利益を生む。

電子出版に移行しているにもかかわらず、定期刊行物の危機(英語版)は続いている[41]

コストやオープンアクセスへの懸念からPLOSファミリーのようなフリーアクセスジャーナルや、Journal of High Energy Physics(英語版)など部分的にオープン・減額したジャーナルも設立されている。それでも専業のエディターには依然人件費がかかり、PLOSもその運営費の大部分を寄付で賄っているが、小規模なフリージャーナルではそのような寄付に頼ることもできない場合がある。

統計的な研究によると、オンラインでの電子出版と一定数のオープンアクセスの両方が併存する状況の方が、研究内容の普及につながり、記事の平均引用数も増加するとされている[42]
著作権

伝統的に、論文著者は科学学術雑誌の出版社から著作権を譲渡するよう要求されてきた。出版社は、著者の権利を保護し再頒布や他目的での使用のための権利調整のために移転が必要だと主張していた。しかし多くの著者、特にオープンアクセスに積極的な著者はこの主張が不十分であることに気付き[43]、代わりに出版ライセンスの段階的な移行を求めた。このようなシステムの下では出版社は論文の編集・印刷・商用配布の許可を得ているが、そのほかの権利は著者が持っている。

記事の著作権を保持している場合でも、多くの科学学術雑誌は著者に一定の権利を認めている。これらの権利には、論文の一部を著者の将来の論文中に再使用することや、数を限った状態でコピーを配布することが含まれる。紙ベースでの出版物の場合こうしたコピーはリプリントと呼ばれ、電子出版の場合はポストプリント(英語版)と呼ばれる。アメリカ物理学会など一部出版社は著者に、著者や所属先のウェブサイトやフリーの電子出版サーバーに記事をアップロードし、ほかの人に図を使用させたり、料金を請求しない限りリプリントを行ったりする権利を認めている[44]

著者が権利を保有する代わりに出版科を支払う必要があるPLOSファミリーのようなオープンアクセスジャーナルの台頭は、著作権問題の懸念の表れの1つである[45]
関連項目

学術的著作権
(英語版)

学会_(会議)

サイテーションインデックス

科学出版社の著作権方針(英語版)

医学論文誌(英語版)

メガジャーナル(英語版)

出版するか、滅びるか(英語版)

科学的執筆(英語版)

科学学術雑誌の一覧(英語版)

研究評価に対するサンフランシスコ宣言(英語版)

ハゲタカジャーナル

脚注[脚注の使い方]^ a b “What Are Scientific Journals?”. American Psychological Association (2017年9月). 2021年9月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月26日閲覧。
^ Ware, Mark, and Michael Mabe (2012年11月). “The stm report: An oveview of scientific and scholarly journal publishing”. International Association of Scientific, Technical and Medical Publishers. 2012年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月25日閲覧。
^ Panter, Michaela (2023年1月25日). “How to Choose Between General and Specialized Journals 。AJE” (English). American Journal Experts. 2020年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月25日閲覧。
^ Lilla, Rick (2022年11月11日). “What's the difference between a scholarly journal, a professional journal, a peer reviewed journal, and a magazine?”. Lock Haven University Libraries. 2018年5月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月25日閲覧。
^ “What is a Scholarly Journal?”. Victor Valley College Library (Victor Valley College) (2023年1月25日). 2016年3月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月25日閲覧。
^ Chan, Warren (2018-07-24). “What Is the Value of Publishing?” (英語). ACS Nano 12 (7): 6345?6346. doi:10.1021/acsnano.8b05296. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISSN 1936-0851. PMID 30041294. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.8b05296. 
^ a b c d e f g h i “Major Parts of a Research Article”. Marymount University Library & Learning Services (2023年1月25日). 2015年4月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。


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