科学学術雑誌
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そのため、多くの論文を選びもせずに順番に目を通すということも困難であるため、論文読者はまずタイトルから自身の分野に関係があるものかを判断し、その次にアブストラクトや結論部の一部などを読んで、その論文が自分にとって精読する価値のあるものかを判断してから論文全体を読みにかかる[8]

研究結果を出版することは科学の発展に不可欠である[9]。論文著者が実験や計算結果について記述する際、どのようにそれを行ったかを論文著者とは独立したほかの研究者が結果を確かめるために追試ができるよう、研究で得られた知見を読者が評価できるように記述しておく必要がある[10]。そうして得られた記事や論文は、科学的な記録として永久に残る[11]
存在意義

科学学術雑誌の記事は研究や高等教育に使うことができる。論文によって研究者は自らの分野の発展を最新の状態に保ち、そのうえで独自の研究を行うことができる。科学論文の不可欠な部分は先行研究の引用である。論文や論文誌が与える影響力はその引用数を数えることで評価される[12]

大学の講義には、古典的な論文の説明に部分的に専念されるものもあるほか、ゼミでは学生が互いに古典・または最新の論文をプレゼンテーションにより紹介しあう。教科書にはたいてい、その時点で発見から時が経ち確立したトピックしか書かれないため、最新の研究など曖昧で目下議論中のトピックについては学生は論文誌を通してしかアクセスできない。研究グループや学科で現在の科学学術雑誌の内容について輪講や雑誌会と呼ばれる集まりで議論されることもよくある[13]

公的資金の提供機関や研究者の雇用機関は、審査にあたりこれまでの業績を科学学術雑誌に出版されたものの一覧として提出を求めることがよくある。研究機関で職位を上げるには、科学学術雑誌に発表した論文の数や影響(引用数)が重視される。多くの博士課程では、博士論文を書くまでにある程度決まった数の論文を科学学術雑誌に掲載させることを要する[14]
記事の難解さ

科学学術雑誌の掲載内容は高度に技術的で、そのジャーナルがカバーする分野範囲での最新の実験・観測結果や理論研究を扱う。そのためその内容は、その分野の研究者やよく慣れた学生にしか理解できないこともあるが、これはコンテンツの性質上どうしても避けられない部分である[15]

通常、論文記事には編集者から要求される厳格な執筆基準があるが、このルールはジャーナルによって大きく異なることもあり、特に出版社の違うジャーナル同士だとこの差異は特に顕著になる。論文の内容は原著論文の場合完全に新しい研究結果であり、総説論文の場合は現在の文献のレビューである。様々な著者によりテーマ別の章を刊行することで論文誌と書籍の間を穴埋めする出版社も存在している[16]

国や地域ごとに集中した論文誌も多く、こうした科学学術雑誌はAfrican Invertebrates(英語版)のように特定の地域から投稿された論文に特化して出版している。
歴史

17世紀までは、科学者は科学的なアイデアや研究内容についても手紙でやり取りをしていたが、17世紀中ごろからは会議を開くなどでお互いに科学的なアイデアを共有する場を持ち始めた。最終的にこの取り組みが発端となり、1660年にはロンドンに王立協会が、1666年にはフランス科学アカデミーが設立された[17]。そして1665年にはフランス語ジュルナル・デ・サヴァンと英語のフィロソフィカル・トランザクションズが、体系的に研究結果を出版する媒体として刊行が始まった。18世紀には数千もの学術雑誌が登場し、そのほとんどが短命に終わるも以降発刊数は急速に増えていった[18]

査読の仕組みが始まったのは1970年代になってからだが、この仕組みはまだ無名の研究者が学術誌の中でも特に権威のあるジャーナルに論文を掲載してもらう手段として見られるようになった。当時は査読者に論文のコピーを郵送して行われたが、現在はこのやり取りはオンラインで行われている[19]
出版過程

科学学術雑誌の記事の著者はジャーナリストではなく現役の科学者であり、その中には教授と一緒に研究員や大学院生が執筆することも多い。そのため著者は無給であり、一部の依頼執筆の場合を除いてジャーナルから原稿料として報酬をもらうことはない。しかし、多くの場合科学者の資金提供機関は成果を論文として出版することを求めている[20]

論文がジャーナルのオフィスに提出されると(サブミット)、そこのエディターはその論文が科学的に適切か、さらに潜在的な科学的インパクト・新規性があるかを検討する。エディターが、その論文がこれらの要素で掲載に適していると判断したら、さらに厳密な審査のため査読者(レビュアー)に査読を依頼する。分野やジャーナル、論文にもよるが、だいたい1人?3人の査読者に論文が送られ、出版の適否を判断してもらう[21]

査読者は論文の科学的議論の健全性をチェックすることを期待されており、これには論文著者がその分野に関する最近の研究をよく把握しているか、データは適切かつ再現性のある状態で収集・検討されているか、議論されたデータが提案された結論や示唆を支持しているかなどの観点が含まれる。新規性も重要で、既存の研究が適切に考慮・参照され、新しい結果がその分野で最新とされている結果をさらに改良するものでなければならない[22]

査読で問題点が見つかってもすぐに論文は拒絶(リジェクト)されず、修正を要求されたり(リビジョン)、著者の弁明が通ることで問題は解消される。問題がないことが確認されると論文は通り(アクセプト)、出版される(パブリッシュ)[23]

査読者もまた無給である場合がほとんどで、彼らはジャーナルの職員でもない。査読をPeer reviewと呼ぶように、査読者はペア、つまり対象の論文と同じ分野の研究者であるべきとされている[24]
掲載基準とインパクトファクター

ジャーナルが出版可否を決めるうえでの基準は、誌によって広く異なる。ネイチャーやサイエンス、米国科学アカデミー紀要フィジカル・レビュー・レターズ(英語版)といった論文誌は特にその分野で根本的なブレイクスルーを起こす論文が掲載されるとされている[25]。多くの分野で科学学術雑誌間の公式・暗黙のヒエラルキーが存在し、その分野で最も権威があるとされる論文誌はどの論文を載せるかにおいて特に選択的で、多くの場合その分野で最も高いインパクトファクターを持っている。国によってはジャーナルのランクが資金提供の決定に利用されることもあり、個々の研究者の評価でさえ資金提供の判断において軽視されることもある[26]
再現性と複製可能性

科学学術雑誌において、科学的結果の再現性と複製可能性は、他の科学者が論文に記載されているのと同じ条件下で結果が再現できることを確認することを可能とする中心的な概念である。論文内に書かれた詳細事項だけで結果を再現できると期待されてはいるが、実際は出版のために第三者による再現の有無が求められることは一般的ではない[27]。したがって、記事における結果の再現性は、報告された手順の質やデータの一致から暗黙のうちに判断される。

しかし、オーガニック・シンセシズやインオーガニック・シンセシズ(英語版)などの化学分野のいくつかのジャーナルは、査読プロセスの中で独立した実験による結果の再現を求めている。独立した実験で論文中の結果を再現できないケースは広く広まっており、調査によっては70%の追試者がほかの研究者の実験結果を再現できなかったと報告しただけでなく、その半分以上のケースではその自分の追試実験結果を再び再現することもできなかったと報告されている[28]。再現失敗の原因は様々であり、出版された内容が改ざんされていたか誤っていたパターンや、手順の公開が不十分だった例などがある[29]
記事の種類世界最初の科学専門誌であるフィロソフィカル・トランザクションズの創刊号表紙

科学学術雑誌の記事には、正確な呼称と定義には分野やジャーナル間で違いがあるものの、主に以下のような種類がある。

レター論文(コミュニケーションとも呼ばれる。編集者とのやり取りの手紙のレターとは別のもの。)- 最新の重要な研究についての発見を短く速報的に伝えるもので、緊急性が高いとされるため迅速に査読・出版がなされる。

リサーチノート - 現在の研究内容についての短い記述で、レター論文よりも重要度の低いもの。

原著論文 - 著者による現在の独自の研究による発見が書かれた一般的なタイプで、通常5ページから20ページで書かれるが分野による分量の違いも大きく、数学理論計算機科学では80ページを超えることも珍しくない。

補足論文 - 現在の研究で得られたデータを主論文への補足として表のように列挙したもので、数値データが数百ページにわたって記載されることもある。そのためいくつかのジャーナルではウェブ上で電子的にしか公開していない。補足情報には、日常的な手順の説明、方程式の解法、ソースコード、不可欠でないデータ、その他雑多な情報など、主論文には適さない大量の資料がここにまとめられる。

総説論文 - 独自の研究ではなく特定のトピックについての多くの異なる研究を集めてまとめた論文。トピックに関する情報だけでなく、取り上げた原著論文の引用元についての情報も提供する。内容は1つのストーリー仕立てになっていることもあれば、メタアナリシスの手法によって量的な推定値を具体的に求める場合もある。

データ出版(英語版) - データセットを説明するための論文記事。この種の記事は人気があるため、サイエンティフィック・データ(英語版)のような専門のジャーナルも設立されている。

ビデオ論文 - 近年科学出版の中に新しく加わった形式。多くの場合、新しい技術やプロトコルのオンライン動画によるデモンストレーションと、従来通りの厳格な文書が組み合わさっている[30][31]


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