科学学術雑誌
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査読をPeer reviewと呼ぶように、査読者はペア、つまり対象の論文と同じ分野の研究者であるべきとされている[24]
掲載基準とインパクトファクター

ジャーナルが出版可否を決めるうえでの基準は、誌によって広く異なる。ネイチャーやサイエンス、米国科学アカデミー紀要フィジカル・レビュー・レターズ(英語版)といった論文誌は特にその分野で根本的なブレイクスルーを起こす論文が掲載されるとされている[25]。多くの分野で科学学術雑誌間の公式・暗黙のヒエラルキーが存在し、その分野で最も権威があるとされる論文誌はどの論文を載せるかにおいて特に選択的で、多くの場合その分野で最も高いインパクトファクターを持っている。国によってはジャーナルのランクが資金提供の決定に利用されることもあり、個々の研究者の評価でさえ資金提供の判断において軽視されることもある[26]
再現性と複製可能性

科学学術雑誌において、科学的結果の再現性と複製可能性は、他の科学者が論文に記載されているのと同じ条件下で結果が再現できることを確認することを可能とする中心的な概念である。論文内に書かれた詳細事項だけで結果を再現できると期待されてはいるが、実際は出版のために第三者による再現の有無が求められることは一般的ではない[27]。したがって、記事における結果の再現性は、報告された手順の質やデータの一致から暗黙のうちに判断される。

しかし、オーガニック・シンセシズやインオーガニック・シンセシズ(英語版)などの化学分野のいくつかのジャーナルは、査読プロセスの中で独立した実験による結果の再現を求めている。独立した実験で論文中の結果を再現できないケースは広く広まっており、調査によっては70%の追試者がほかの研究者の実験結果を再現できなかったと報告しただけでなく、その半分以上のケースではその自分の追試実験結果を再び再現することもできなかったと報告されている[28]。再現失敗の原因は様々であり、出版された内容が改ざんされていたか誤っていたパターンや、手順の公開が不十分だった例などがある[29]
記事の種類世界最初の科学専門誌であるフィロソフィカル・トランザクションズの創刊号表紙

科学学術雑誌の記事には、正確な呼称と定義には分野やジャーナル間で違いがあるものの、主に以下のような種類がある。

レター論文(コミュニケーションとも呼ばれる。編集者とのやり取りの手紙のレターとは別のもの。)- 最新の重要な研究についての発見を短く速報的に伝えるもので、緊急性が高いとされるため迅速に査読・出版がなされる。

リサーチノート - 現在の研究内容についての短い記述で、レター論文よりも重要度の低いもの。

原著論文 - 著者による現在の独自の研究による発見が書かれた一般的なタイプで、通常5ページから20ページで書かれるが分野による分量の違いも大きく、数学理論計算機科学では80ページを超えることも珍しくない。

補足論文 - 現在の研究で得られたデータを主論文への補足として表のように列挙したもので、数値データが数百ページにわたって記載されることもある。そのためいくつかのジャーナルではウェブ上で電子的にしか公開していない。補足情報には、日常的な手順の説明、方程式の解法、ソースコード、不可欠でないデータ、その他雑多な情報など、主論文には適さない大量の資料がここにまとめられる。

総説論文 - 独自の研究ではなく特定のトピックについての多くの異なる研究を集めてまとめた論文。トピックに関する情報だけでなく、取り上げた原著論文の引用元についての情報も提供する。内容は1つのストーリー仕立てになっていることもあれば、メタアナリシスの手法によって量的な推定値を具体的に求める場合もある。

データ出版(英語版) - データセットを説明するための論文記事。この種の記事は人気があるため、サイエンティフィック・データ(英語版)のような専門のジャーナルも設立されている。

ビデオ論文 - 近年科学出版の中に新しく加わった形式。多くの場合、新しい技術やプロトコルのオンライン動画によるデモンストレーションと、従来通りの厳格な文書が組み合わさっている[30][31]

記事の形式は様々だが、多くの場合ICMJE勧告(英語版)によるIMRAD方式が踏襲されている。この方式ではアブストラクトと呼ばれる1?4段落での論文の要約から始まり、導入部で類似研究についての議論も含めた研究背景が説明される。その後方法の節で実際にどのように研究が行われたかを説明し、その研究の結果と意味が結果・議論の節に記される。最後に結論部で研究の結論や今後の発展についての展望が記述される[32]

これに加え、サイエンスなどのいくつかの科学学術雑誌では、政治的問題も含めた科学の発展についての話題を取り扱うニュースのセクションがある。この記事は科学者ではなく科学ジャーナリストが執筆する[33]。さらに誌によっては編集者によるセクションや編集者への手紙を扱うセクションもあるが、これらの記事は査読を受けないため科学学術雑誌に掲載されていても、業績の上では科学学術雑誌の記事とは扱われない。
電子出版詳細は「電子出版」を参照プレプリントの最大手ウェブサイトarXivのロゴマーク(2022年?)

電子出版は情報普及の新しい分野である。電子出版の定義の1つは科学論文の公開の流れに基づく。これは、科学的成果を電子的形式のみにより、つまり紙で出さずに公開することである。この形式は最初の執筆から出版までの流れすべてにおいてなされる。電子科学ジャーナルはインターネット上で公開できるように特化してデザインされている。電子出版は、従来の紙出版物をスキャンなどで電子化したり電子向けに改作したりしただけの電子公開とは明確に区別される[34][35]

画面への出力はブラウジングや検索には便利だが多読には適していないため、近い将来も電子出版は紙の出版と共存し続けるとされている。そのためには、読者が紙で読むことにも、コンピューターに表示させて読むことにも両方適したフォーマットに統合する必要がある[34][35]

多くの科学学術雑誌はウェブブラウザで画面上で読み取り可能な形式で利用できるほか、ローカルのデスクトップコンピューターやラップトップに保存したり印刷に適したPDF形式でも使える。他にJournal Article Tag Suiteやユートピアドキュメント(英語版)といった新しいツールは、ハイパーリンクを介してPDF版のコンテンツを直接World Wide Webに繋ぐ、ウェブ版への橋渡しとして利用されている。PDF版の記事は通常記録版(英語版)とみなされるが、これについては現在も議論の余地がある[36]

十分地位が確立された印刷形態の科学学術雑誌の電子版は、出版される記事の査読や編集の急速な普及を促進する。確立された印刷誌の姉妹誌や、電子版のみのジャーナルを含むその他の科学学術雑誌も、インターネット上での迅速な普及や入手可能性を促進している。これと並行して、査読やコピー編集、ページ構成などのその他の迅速な普及につながるプロセスも加速している[37]

科学学術雑誌の電子出版の他の利点や独自の価値は、補足内容(データやグラフ、動画など)を簡単に利用できること、低コスト性、特に発展途上国の科学者を含む多くの人々がアクセス可能なことである。したがって、先進国の科学成果が発展途上国の科学者に伝わりやすくなっている[34]

さらに、科学学術雑誌の電子出版は査読プロセスの水準を損なうことなく行われている[34]

電子出版の一形態は、従来の紙ベースの出版に相当する出版物のオンライン版である。2006年までにほとんどすべての科学学術雑誌が、査読プロセスを維持しながら電子版を確立し、出版数はその電子版に移行している。多くの大学図書館も電子版を購入し、最も重要でよく使われるタイトルのみ紙版が購入されている[35]

通常、論文を書いてから科学学術雑誌に掲載されるまでには数か月以上の遅れがあり、最新の研究結果を速報するには紙ベースのジャーナルは不向きだった。現在ほとんどのジャーナルが、最終版の論文が準備でき次第、紙のように完全な号数分が揃うのを待たずにすぐに電子版で公開される。物理学など、さらなる高速化が求められる分野では最新の研究を迅速に広める役割はarXivなどのプレプリントサーバーに取って代わられている。そのような記事のほとんどが最終的には従来の科学学術雑誌から出版されるので、科学学術雑誌は品質管理や論文のアーカイブ化、科学的な信用の確立において依然重要な役割を担っている[38]
購読料

多くの科学者や図書館職員が長年にわたって、科学学術雑誌の高い購読料に抗議しており、その大金が営利出版企業に流れていることには殊更抗議は強まった[39]。研究者が論文にアクセスできるように、多くの大学はサイトライセンスを購入し、大学内のどこでも、さらに適切な処置の下では自宅など大学外のどこからでも論文を読むことができる。このライセンスは非常に高価で、印刷版の購入よりもはるかに高くつくこともある。これはライセンスを使う人数を反映しており、印刷物の購入の場合ジャーナルは1冊につき1人分の料金しか受け取れないが、サイトライセンスの場合はそこにアクセスする何千人分の料金をそのまま請求できる[40]

非営利出版社として知られる学会による出版物は商用出版社より安いが、それでもそこの科学学術雑誌の年間購読料は数千ドルに達する。一般にこの収益はジャーナルを運営する学会の活動資金や、科学者に科学リソースを提供するために使われるので、購読料はその分野に留まり利益を生む。

電子出版に移行しているにもかかわらず、定期刊行物の危機(英語版)は続いている[41]


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