科学学術雑誌
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様々な著者によりテーマ別の章を刊行することで論文誌と書籍の間を穴埋めする出版社も存在している[16]

国や地域ごとに集中した論文誌も多く、こうした科学学術雑誌はAfrican Invertebrates(英語版)のように特定の地域から投稿された論文に特化して出版している。
歴史

17世紀までは、科学者は科学的なアイデアや研究内容についても手紙でやり取りをしていたが、17世紀中ごろからは会議を開くなどでお互いに科学的なアイデアを共有する場を持ち始めた。最終的にこの取り組みが発端となり、1660年にはロンドンに王立協会が、1666年にはフランス科学アカデミーが設立された[17]。そして1665年にはフランス語ジュルナル・デ・サヴァンと英語のフィロソフィカル・トランザクションズが、体系的に研究結果を出版する媒体として刊行が始まった。18世紀には数千もの学術雑誌が登場し、そのほとんどが短命に終わるも以降発刊数は急速に増えていった[18]

査読の仕組みが始まったのは1970年代になってからだが、この仕組みはまだ無名の研究者が学術誌の中でも特に権威のあるジャーナルに論文を掲載してもらう手段として見られるようになった。当時は査読者に論文のコピーを郵送して行われたが、現在はこのやり取りはオンラインで行われている[19]
出版過程

科学学術雑誌の記事の著者はジャーナリストではなく現役の科学者であり、その中には教授と一緒に研究員や大学院生が執筆することも多い。そのため著者は無給であり、一部の依頼執筆の場合を除いてジャーナルから原稿料として報酬をもらうことはない。しかし、多くの場合科学者の資金提供機関は成果を論文として出版することを求めている[20]

論文がジャーナルのオフィスに提出されると(サブミット)、そこのエディターはその論文が科学的に適切か、さらに潜在的な科学的インパクト・新規性があるかを検討する。エディターが、その論文がこれらの要素で掲載に適していると判断したら、さらに厳密な審査のため査読者(レビュアー)に査読を依頼する。分野やジャーナル、論文にもよるが、だいたい1人?3人の査読者に論文が送られ、出版の適否を判断してもらう[21]

査読者は論文の科学的議論の健全性をチェックすることを期待されており、これには論文著者がその分野に関する最近の研究をよく把握しているか、データは適切かつ再現性のある状態で収集・検討されているか、議論されたデータが提案された結論や示唆を支持しているかなどの観点が含まれる。新規性も重要で、既存の研究が適切に考慮・参照され、新しい結果がその分野で最新とされている結果をさらに改良するものでなければならない[22]

査読で問題点が見つかってもすぐに論文は拒絶(リジェクト)されず、修正を要求されたり(リビジョン)、著者の弁明が通ることで問題は解消される。問題がないことが確認されると論文は通り(アクセプト)、出版される(パブリッシュ)[23]

査読者もまた無給である場合がほとんどで、彼らはジャーナルの職員でもない。査読をPeer reviewと呼ぶように、査読者はペア、つまり対象の論文と同じ分野の研究者であるべきとされている[24]
掲載基準とインパクトファクター

ジャーナルが出版可否を決めるうえでの基準は、誌によって広く異なる。ネイチャーやサイエンス、米国科学アカデミー紀要フィジカル・レビュー・レターズ(英語版)といった論文誌は特にその分野で根本的なブレイクスルーを起こす論文が掲載されるとされている[25]。多くの分野で科学学術雑誌間の公式・暗黙のヒエラルキーが存在し、その分野で最も権威があるとされる論文誌はどの論文を載せるかにおいて特に選択的で、多くの場合その分野で最も高いインパクトファクターを持っている。国によってはジャーナルのランクが資金提供の決定に利用されることもあり、個々の研究者の評価でさえ資金提供の判断において軽視されることもある[26]
再現性と複製可能性

科学学術雑誌において、科学的結果の再現性と複製可能性は、他の科学者が論文に記載されているのと同じ条件下で結果が再現できることを確認することを可能とする中心的な概念である。論文内に書かれた詳細事項だけで結果を再現できると期待されてはいるが、実際は出版のために第三者による再現の有無が求められることは一般的ではない[27]。したがって、記事における結果の再現性は、報告された手順の質やデータの一致から暗黙のうちに判断される。

しかし、オーガニック・シンセシズやインオーガニック・シンセシズ(英語版)などの化学分野のいくつかのジャーナルは、査読プロセスの中で独立した実験による結果の再現を求めている。独立した実験で論文中の結果を再現できないケースは広く広まっており、調査によっては70%の追試者がほかの研究者の実験結果を再現できなかったと報告しただけでなく、その半分以上のケースではその自分の追試実験結果を再び再現することもできなかったと報告されている[28]。再現失敗の原因は様々であり、出版された内容が改ざんされていたか誤っていたパターンや、手順の公開が不十分だった例などがある[29]
記事の種類世界最初の科学専門誌であるフィロソフィカル・トランザクションズの創刊号表紙

科学学術雑誌の記事には、正確な呼称と定義には分野やジャーナル間で違いがあるものの、主に以下のような種類がある。

レター論文(コミュニケーションとも呼ばれる。編集者とのやり取りの手紙のレターとは別のもの。)- 最新の重要な研究についての発見を短く速報的に伝えるもので、緊急性が高いとされるため迅速に査読・出版がなされる。

リサーチノート - 現在の研究内容についての短い記述で、レター論文よりも重要度の低いもの。

原著論文 - 著者による現在の独自の研究による発見が書かれた一般的なタイプで、通常5ページから20ページで書かれるが分野による分量の違いも大きく、数学理論計算機科学では80ページを超えることも珍しくない。

補足論文 - 現在の研究で得られたデータを主論文への補足として表のように列挙したもので、数値データが数百ページにわたって記載されることもある。そのためいくつかのジャーナルではウェブ上で電子的にしか公開していない。補足情報には、日常的な手順の説明、方程式の解法、ソースコード、不可欠でないデータ、その他雑多な情報など、主論文には適さない大量の資料がここにまとめられる。

総説論文 - 独自の研究ではなく特定のトピックについての多くの異なる研究を集めてまとめた論文。トピックに関する情報だけでなく、取り上げた原著論文の引用元についての情報も提供する。内容は1つのストーリー仕立てになっていることもあれば、メタアナリシスの手法によって量的な推定値を具体的に求める場合もある。

データ出版(英語版) - データセットを説明するための論文記事。この種の記事は人気があるため、サイエンティフィック・データ(英語版)のような専門のジャーナルも設立されている。

ビデオ論文 - 近年科学出版の中に新しく加わった形式。多くの場合、新しい技術やプロトコルのオンライン動画によるデモンストレーションと、従来通りの厳格な文書が組み合わさっている[30][31]

記事の形式は様々だが、多くの場合ICMJE勧告(英語版)によるIMRAD方式が踏襲されている。この方式ではアブストラクトと呼ばれる1?4段落での論文の要約から始まり、導入部で類似研究についての議論も含めた研究背景が説明される。その後方法の節で実際にどのように研究が行われたかを説明し、その研究の結果と意味が結果・議論の節に記される。最後に結論部で研究の結論や今後の発展についての展望が記述される[32]

これに加え、サイエンスなどのいくつかの科学学術雑誌では、政治的問題も含めた科学の発展についての話題を取り扱うニュースのセクションがある。この記事は科学者ではなく科学ジャーナリストが執筆する[33]。さらに誌によっては編集者によるセクションや編集者への手紙を扱うセクションもあるが、これらの記事は査読を受けないため科学学術雑誌に掲載されていても、業績の上では科学学術雑誌の記事とは扱われない。
電子出版詳細は「電子出版」を参照プレプリントの最大手ウェブサイトarXivのロゴマーク(2022年?)

電子出版は情報普及の新しい分野である。電子出版の定義の1つは科学論文の公開の流れに基づく。これは、科学的成果を電子的形式のみにより、つまり紙で出さずに公開することである。この形式は最初の執筆から出版までの流れすべてにおいてなされる。電子科学ジャーナルはインターネット上で公開できるように特化してデザインされている。電子出版は、従来の紙出版物をスキャンなどで電子化したり電子向けに改作したりしただけの電子公開とは明確に区別される[34][35]

画面への出力はブラウジングや検索には便利だが多読には適していないため、近い将来も電子出版は紙の出版と共存し続けるとされている。そのためには、読者が紙で読むことにも、コンピューターに表示させて読むことにも両方適したフォーマットに統合する必要がある[34][35]

多くの科学学術雑誌はウェブブラウザで画面上で読み取り可能な形式で利用できるほか、ローカルのデスクトップコンピューターやラップトップに保存したり印刷に適したPDF形式でも使える。他にJournal Article Tag Suiteやユートピアドキュメント(英語版)といった新しいツールは、ハイパーリンクを介してPDF版のコンテンツを直接World Wide Webに繋ぐ、ウェブ版への橋渡しとして利用されている。


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