私的所有権
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論評詳細は「マルクス主義批判」および「マルクス経済学への批判」を参照

ドイツの社会学者のマックス・ヴェーバー1917年の論文で、生産手段の労働者からの分離は、私的所有制度にもとづく社会秩序に固有のことではなく、あらゆる近代的社会秩序一般にあることだとし、人間の疎外の原因は、私的所有制度や財産の不公平な分配ではなくて、「全能」の官僚制的支配構造がその根本原因であるとみなした[1]。社会主義でもまた、全労働者の収奪は克服されることはなく、体制内部の利害状況が移動するにすぎず、生産手段の国有化は、むしろ疎外を悪化させるとみなし、人間に対する人間の支配が除去されることはないと論じた[1]。さらに、社会主義による生産手段の社会化によって変わるのは、経済の中枢を握る階級の組み立てにとどまり、階級闘争を終わらせるものではない[1]。現在の資本主義では、国家官僚とカルテル・銀行・大企業の経済官僚が別々の団体として並列しているため、政治権力によって経済権力を抑えることができるが、社会主義のもとでは、この二つの官僚層が、ひとつの団体を形成するため、統制は不可能になるだろうとヴェーバーは警告した[1]

社会主義者で社会学者のマルセル・モースは、1924年ボリシェヴィズム論において、ソヴィエトは、職業集団、自由な協同や自発的な制度を攻撃し、暴力的に破壊していった[2]。結局、共産主義ロシアでは、所有形態を別の所有形態に上乗せしており、私的所有を基底においているが、このようなことであれば、あのような革命を起こす必要はなかったし、あらゆる所有形態の廃止を称しながら、ただ一つの所有形態が取って代わるようなことは、あってはならないことだったと指摘している[3]

経済学者トマ・ピケティは、私有財産の廃止を求めたソビエト共産主義の実験は、最終的には、私有財産を強化することになったと分析する[4]。ソ連崩壊後のロシアは、租税回避地を利用したオフショア資産を所有する新興オリガルヒの温床となり[4]、ロシアのほか、中国、東欧諸国のポスト共産主義社会も、ハイパー資本主義の忠実な同盟者となったが、これはスターリン主義毛沢東主義という大惨事の直接の結果である[5]。ピケティは、正しく規制された生産手段私有は、個人の願望を実現させるために必要な分権的制度の本質的な要素であって、神聖化をともなわない純粋な手段としての私有財産は不可欠であり、理想的な社会経済組織は、願望や知識、才能や技能の多様性からなる人間の豊かさのうえに築かれるべきだと主張する[6]
脚注[脚注の使い方]
出典^ a b c d 中村貞二 1974.
^ モース 2018, p. 20,28-30.
^ モース 2018, p. 31-32.
^ a b ピケティ 2023, p. 541.
^ ピケティ 2023, p. 10.
^ ピケティ 2023, p. 556-557.

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