私生児
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父子関係の証明の問題に関連してDNA鑑定による親子鑑定が取り上げられることがあるが、プライバシー保護の観点から諸外国でもこれに慎重な立法例が多いとされ、日本の今後の立法においても遺伝子分析による鑑定のあり方について十分な検討が必要と指摘されている[15]

2014年7月の最高裁の判例では父子以外の血縁関係がDNA鑑定で証明されても、それを理由として戸籍上の父との親子関係を取り消すことはできないとして、嫡出推定の規定はDNA鑑定に優先するとの判断を示した[16]
立法上の課題

日本において明治時代初期に制定された民法は、現代の生殖医療技術による子の出産をまったく予定しておらず、もはや従来の法解釈だけでは到底対応できなくなっており、いかなる生殖補助医療まで許されるか、親子関係の決定の基準など解決すべき問題も多いとされ、これらの点について立法措置による明確化が必要と考えられている[17][18][19]

また、血液型DNA鑑定などの血縁上の親子関係の鑑定技術が向上する中で、法律上の親子関係について、血縁上の親子関係との一致を重視すべきか、養育の事実と本人の意思を基礎とする外観的な親子関係の保護を重視すべきか、今後の立法において特に重大な課題とされる[20]
推定される嫡出子
父性の推定と嫡出性の推定

772条1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と規定する。この規定は父性の推定(子の父が誰かについての推定)の規定である[11]。一方、774条は「第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる」として嫡出否認の訴えについて定めているが、これは772条により嫡出性が推定されることを前提としているものと考えられている。このようなことから、772条は父性の推定のみならず、嫡出性付与について定めた規定という二つの意味を持つ[14](本条については父性の推定、嫡出性付与、嫡出否認の訴えの前提としての嫡出推定の三つの要素を有すると構成する見解もある[21])。

本条の父性推定は、母の夫が子の父であろう蓋然性が極めて高い点に根拠を置くもので[22]、本条による推定を受ける子を推定される嫡出子(嫡出推定を受ける嫡出子)と呼ぶ[23]

772条の推定は法律上の推定であり、嫡出否認の訴えによってのみ覆すことができる[21]。このように父性の推定を覆すためには嫡出否認の訴えによることとなるが、これとは別にDNA鑑定によって父性の推定を覆すことができるか争いがあるが、2014年7月の最高裁の判例では子どもの身分の法的安定性という観点から、父子以外の血縁関係がDNA鑑定で証明されても、その事実をもって戸籍上の父との親子関係を取り消すことはできないとして、嫡出推定の規定はDNA鑑定に優先するとの判断を示した[16]

なお、2013年12月の最高裁の判例ではこの父性推定は性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律により女性から男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた夫について、妻との性的関係の結果もうけた子でなくても及ぶとした(最決平25・12・10)。
懐胎時期の推定と離婚後300日問題

772条2項は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定する。懐胎時期が母の婚姻中であったことを証明しなければ父性推定が働かないとすると、父性推定の実質的意義が損なわれ、子の保護の点からも妥当でないことから、772条2項はこのような不都合を解消しようとする趣旨である[24]

本項はあくまでも懐胎時期の推定の規定で、父子関係存在の推定とは直接的には関係がなく、懐胎時期について具体的な立証があった場合には、その立証された懐胎時期を基準として父性の推定が生じるか否か判断される[24]

しかし、かつて実務は、婚姻解消後300日以内に出生した子が出生証明書の妊娠月数からの逆算で、婚姻解消後に懐胎した子とみられる場合についても、嫡出でない子としての出生届は受理されなかったため(昭和24年9月5日民事甲1942号(二)337号民事局長回答)、離婚後300日以内に前夫以外の者を父とする子が生まれた場合には、722条2項により子は前夫の子と推定されることになって、実際の自然血縁関係と異なる結果を生じることとなってしまい、この推定を覆すためには前夫による嫡出否認の訴えが必要となる。この場合、女性が前夫との関わりを避けたい場合に出生届を提出しないことも多く、戸籍のない子などの社会問題(離婚後300日問題)を生じたため、現在の戸籍実務では医師の懐胎時期に関する証明によって772条の推定が及ばず、前夫の子としない出生届を提出することが可能となった(平成19年5月7日法務省民一第1007号民事局長通達)[25]

ただし、事実上の離婚状態のまま事実上の再婚状態となり、出産に至った場合には、上の戸籍実務での救済はない[25]

このような場合、出産した新生児と前夫との親子関係を否定するためには審判が必要であるが、出生届の提出前に遺伝上の父に対して認知を求める訴えを提起することは出来ない[注 3]ため、出生届提出後に原則として前夫が嫡出否認の訴えを提起するしかない。

なお、戸籍がなくとも住民票の交付、学校教育を受けることは可能であるが、パスポートの交付は受けられないため海外渡航は不可能である。
嫡出否認の訴え

実親子関係が成立するには自然血縁関係を必要とするが、父子関係の確認の困難さを回避するため、772条は父性を推定する規定を置いている[26]。しかし、父性の推定が事実と異なる場合にこれを覆すため、嫡出否認の訴えを認める(774条)[26]

家庭の平和の維持と子の地位の早期安定を図るため、嫡出否認の訴えには厳格な制限が設けられており[9]、出訴期間中に嫡出否認の訴えがない場合には親子関係は確定することになるが、不実の父子関係の確定を生じた場合の子の保護などの問題もあり、民法上の厳格な制限については議論がある[27]

嫡出否認の訴えは父性の推定を覆すための訴えであるから、戸籍の届出・記載にかかわらず、また、別居後300日以内に生まれた子など、推定が及ぶ限り嫡出否認の訴えの対象となる(大判昭13・12・24民集17巻2533頁、最判平10・8・31判時1655号112頁)。
原告適格
否認権者は原則として夫のみである(774条)。母や子、真実の父に否認権はない[28][29]。夫婦間の問題に第三者が介入すべきでないことを根拠とするが、立法論として妻子にも否認権を認めるべきではないかとの議論がある[21]。ただ、否認権者の拡大は結果として嫡出の否認の制度の否定につながるという点も問題とされる[28]
否認の制限
夫が子の出生後に子が嫡出であることを承認したときは否認権を失う(776条)。「承認」の方法について民法に定めはなく、任意の方式で足りるとされている[26]。父として子の命名を行うことや、戸籍法上の義務として出生届を提出しただけでは「承認」にあたらない[30][31]
被告適格
嫡出の否認は子又は親権を行う母に対する訴えにより、親権を行う母がいないときは特別代理人の選任を要する(775条)。胎児に対する訴えはできない[26]。また、子の死亡後は訴えを提起できないとされる(通説[32])。
提訴期間
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(777条)。身分関係安定のためである(最判昭55・3・27判時970号151頁)。「夫が子の出生を知った時」とは妻が分娩した事実を知った時を指す(大判昭17・9・10法学12巻333頁)[32][33]。提訴期間内に嫡出否認のないときは夫婦の子としての身分は確定的なものとなる[34]
否認の効果
嫡出否認の判決が確定したときは、子の出生の時に遡って、子は夫の子でなく母の非嫡出子であったことが確認される[32]
推定されない嫡出子?嫡出子の範囲の拡張

「嫡出子」は本来的には婚姻中に懐胎した子を指し、婚姻から200日以内に生まれた子については先述の772条2項の法律上の推定が及ばないことになるが、判例・実務は772条2項の推定を受けなくとも婚姻成立後に出生した子について嫡出子として扱い、その範囲を拡張している[11]。すなわち、772条2項は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定している関係上、婚姻から200日以内に生まれた子は嫡出の推定を受けず、かつて判例はこのような子は非嫡出子であるとし(大判明31・2・6新聞2957号6頁)[35]、父母が認知すれば準正によって嫡出子たる身分を取得するとしていた。しかし、このような法解釈は実際の生活感情と合致せず、子が生まれる直前に婚姻届が出された場合に不都合である[36]。また、当時の民法は死後認知を認めていなかったため、父が死亡した場合には嫡出子たる身分を取得できないという問題を生じていた[30]。その後、判例は内縁中に懐胎した子は内縁の夫の子であるとの事実上の推定を認め、内縁が先行する場合には、このような子も出生と同時に当然に父母の嫡出子となるとした(事実上の推定説、大連判昭15・1・23民集19巻54頁)。このような772条による嫡出の推定(法律上の推定)は受けないものの、出生によって嫡出子たる身分を取得する子を推定されない嫡出子(推定を受けない嫡出子)という[29][37]


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