ハロルド・ウィレンスキーは、64ヵ国の社会保障支出の対国民総生産比の差異を説明する独立変数としては経済水準が最も重要であり、また人口の高齢化も非常に重要である一方、イデオロギーや政治体制の差異は説明変数として有意ではない、と指摘している。このため、ウィレンスキーは、経済成長にともなって福祉国家が発展するという収斂論の代表的論者と見做された[18]。ただし、ウィレンスキーは、分析対象をOECDの加盟国に限定した場合は、政治的変数が有効になることも指摘している[19]。 ウォルター・コルピ こうしたなかで1990年にデンマークの社会学者エスピン=アンデルセンが提起した福祉レジーム論は、福祉国家研究の画期的な業績となった[21]。 彼は、先進各国を脱商品化と階層化という指標を用いてクラスター化した。すなわち、脱商品化とは、疾病や加齢などの理由で労働市場を離脱した人が生活を維持できるか否かの指標であり、給付の水準と受給資格によって計測される。また、階層化とは、各人の階層や職種に応じた給付が行われた結果、格差が固定化されているか否かの指標。たとえば職域別の保険制度では階層化の度合いが高い。 以上2つの指標で西側先進諸国を分析した結果、自由主義的福祉国家(アメリカ・イギリスなどアングロサクソン諸国)、保守主義的福祉国家(大陸ヨーロッパ)、社会民主主義的福祉国家(北欧)の3類型を析出し、福祉国家の発展は1つではないと論じた[21]。当初日本は前記3つのいずれの要素も含む混合型とされ、その後大陸ヨーロッパ型に近いとされた。 また、福祉国家を形成する政治的イニシアティブについて、1つの階級ではなく、階級間の連合を重視した。たとえば、スウェーデンでは社会民主労働党が中央党との連合形成に成功し、さらに赤緑連合解消後は普遍主義的な社会保障政策でホワイトカラー層からの支持を調達した。その一方で、オーストリアでは、労働運動が一定の勢力を保持していたものの、左派政党が農民政党との連携に失敗して孤立した。さらに、経済レジーム(特に雇用)と福祉レジームとの関係に注目し、グローバル化への適応については一般的に自由主義と社会民主主義が優れているとした。その後の研究により次のように分類されなおした[* 1]。 福祉レジーム社会民主主義自由主義保守主義 脱商品化と階層化脱商品化スコア (1980年)[25]階層化属性の累積集計スコア (1980年)[26] 北欧モデル(ノルディックモデル)とも呼ばれる。スウェーデン、ノルウェー、デンマークなどがある[21]。
権力資源動員論
福祉レジーム論
各レジームの比較
モデル国家[22]スウェーデン、デンマークアメリカ、イギリスドイツ、イタリア
モデル国家群北ヨーロッパ諸国アングロ・サクソン諸国大陸ヨーロッパ諸国
脱商品化[23]高位低位高位
階層化[23]低位高位高位
脱家族化[23]高位中位低位
主たる政策目標[24]所得平等および雇用拡大租税軽減および雇用拡大所得平等および租税軽減
犠牲となる政策目標[24]租税軽減所得平等雇用拡大
主たる福祉供給源[21][23]政府市場家族
典型的な福祉政策サービス給付減税所得移転
所得移転の形態制度的残余的補完的
社会的統合の触媒労働組合なし(市場)宗教団体
優位政党社民党リベラル政党キリスト教民主主義政党
支配的なイデオロギーネオ・コーポラティズムネオ・リベラリズムコーポラティズム
社会的市場経済
企業競争(完全雇用のため)大企業優先大企業と自営業は対等(世襲維持のため)自営業優先
労働市場の規制同一労働同一賃金原則としてなし大企業や公務員を優遇、早期退職の勧奨
賃金の硬直性上方硬直性および下方硬直性なし下方硬直性
雇用のフレキシヴィリティ[21]高位最高位低位
典型的な景気対策福祉部門の公務員の増員政策金利の引き下げ公共事業
公務員のイメージ女の仕事、パートタイム悪、低賃金お上意識、優遇
労働参加率最高位高位低位
保守主義自由主義社会主義
オーストラリア13.00104
アメリカ合衆国13.80120
ニュージーランド17.1224
カナダ22.02124
アイルランド23.3422
イギリス24.1064
イタリア24.1860
日本27.14102
フランス27.5882
ドイツ27.7864
フィンランド29.2646
スイス29.80124
オーストリア31.1842
ベルギー32.4844
オランダ32.4486
デンマーク38.1268
ノルウェー38.3408
スウェーデン39.1008
社会民主主義的福祉レジーム
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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