落語立川流の立川談之助は、全国各地の公演で独自に禁演落語を演じるとともに、現行の日本国憲法の大切さを訴えることをライフワークにしている[5]。また、前出の「禁演落語の会」にも落語芸術協会の芝居ではあるが、毎年常連の演者として顔付けされている。 1947年(昭和22年)5月30日、進駐軍(占領軍)の検閲機関である連合国軍最高司令官総司令部民間情報教育局(CIE)の指示に応じる形で、軍国主義的、暴力的、荒唐無稽にすぎるなどと見なされた27演目が落語協会と日本藝術協会(落語芸術協会の前身)の連名で選ばれ、自粛対象となった。1953年(昭和28年)の占領体制終了によって自然解除となった[6]。 憲法によって表現の自由が保証されている今日の日本では、国家権力などによる禁止演目は一応存在しないことになっているが、放送が自粛されていたり、放送に当たって一部改変を余儀なくされていたりする演目が少なからずある。演じたものの音声の一部が加工されて放送されていることも多い。放送のみならずいわゆるホール落語でも、上演された新作落語が、人権団体の抗議に応じた公的機関によって、自粛を要請された例がある。 1970年代には、NHKで柳家小さん(5代目)の「道灌」に出てくる「賤の女」という言葉が問題とされた[7]。 1988年にCBSソニーから発売された柳家小三治のCD・カセット「鼠穴」では、鈴本演芸場独演会で当時報道されていた昭和天皇の病状について語ったくだりが問題となり発売直前にいったん回収、その部分をカットしてから再発売となった[8]。 また、プラットフォームでのオンライン配信による実演の場合、配信元のコミュニティガイドラインに基づいて一方的に配信がいったん停止される可能性があるため[9]、出囃子などの音曲カット・配信を自粛する傾向もある。 新作落語の作者でもあり演者でもある林家彦いちは、時代の流れで女性蔑視などの噺が淘汰されてゆく可能性を2021年に指摘している[10]。 また、寄席での定席興行などにおいては、この日に来場している身体面などで支障がある観客(例として「目の不自由なお客様」「車椅子のお客様」など)の情報を前座が「根多(ネタ)帳」に付箋で貼り付けて、演者がそうした観客に配慮する形で噺を演じられるように工夫がされている。
自粛禁演落語廿七種
現代において放送・上演を自粛している演目
脚注[脚注の使い方]^ 低俗と五十三演題の上演禁止『東京日日新聞』(昭和15年9月21日)『昭和ニュース事典第7巻 昭和14年-昭和16年』本編p773 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
^ 富田里枝 (2015年). “ ⇒和装人インタビュー 第56回 飯田ひとみさん”. 辻屋本店. 2019年4月2日閲覧。
^ “戦中を思い禁演落語の会/東京・浅草で30日まで
^ 長井好弘 (2020年9月4日). “ひねりや、にせ金、磯の鮑――「禁演落語」の夏が終わる
^ “落語で平和憲法考える “禁演”にしちゃいけません 出前公演人気”. しんぶん赤旗. 日本共産党 (2006年5月3日). 2020年10月21日閲覧。
^ 桜庭由紀子 (2019年8月15日). “戦争が落語を禁じた日。はなし塚に葬られた53の禁演落語”. 和楽web. 小学館. 2020年10月15日閲覧。
^ 柏木新『落語の歴史』本の泉社、2012年2月25日、177-178頁。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 9784780707441。
^ “落語CDまで自粛とはねぇ”. 朝日新聞朝刊 (東京): p. 26. (1988年12月13日)
^ 三味線の生演奏による出囃子などが既成の音源と同一で著作権侵害と判断されて、落語全体が配信停止(のちに解除)となるケースが存在する。
^ 神野栄子 (2021年10月24日). “浪曲、落語、講談…創作話芸がアツい! 「新作」を紡ぐ若きクリエーター続々”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/138580. "共有財産である古典落語には、できない演目も増えてきている。例えば女性蔑視的な噺は淘汰(とうた)されていくのではないか。"
参考文献
小島貞二 『禁演落語』 ISBN 4480037217
小島貞二『落語三百年―昭和の巻』(1979年、毎日新聞出版)ISBN 978-4620301914
柏木新『はなし家たちの戦争 -- 禁演落語と国策落語』(2010年、本の泉社)ISBN 978-4780706390
柏木新『落語の歴史 江戸・東京を舞台に』(2012年、本の泉社)ISBN 9784780707441
柏木新『国策落語はこうして作られ消えた』(2020年、本の泉社)ISBN 978-4780719598
矢野誠一 「演目解説」 『滝田ゆう落語劇場 第2輯』 (文春文庫) ISBN 4167302020
古典落語を通した差別表現に関する調査 ?東京・名古屋編?(2002年、障害者自立生活支援センターあゆみかん) - 日本財団
関連項目
日本における検閲
国策落語
心眼(落語)
外部リンク
⇒禁演落語五十三題
はなし塚 - 本法寺
したたかに生き、笑い飛ばそう「はなし塚」と戦争(油井雅和、毎日新聞(有料記事)、2015年8月15日)