神話
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これにはあまり同調する学者はおらず、リュシアン・レヴィ=ブリュールは「原始的な知性というものは人の精神状態そのものであり、歴史的な発展をする段階などではない」と反駁した[65]

フリードリヒ・マックス・ミュラーは神話を「言語疾病」[63]と呼び、抽象的表現や中性的に捉える概念が言語上で充分に発達していなかったために創られた、そのため擬人的な何かに語らせたり、自然現象そのものを神のような意思を持つ存在と認識するような手段で概念を捉え言語化したと考えた[41]。ただし今日では、この理論はあまり重要視されていない[2]

人類学者のジェームズ・フレイザーは、神話とはそもそも自然の法則を誤訳した魔術的な儀式をさらに誤って解釈したものとみなした[66]。彼は、人間は不可思議な事象を客観的な魔術的法則とみなし、それが願望を聞き届けるような性格ではないと判ると自然法則とみなすことを諦め、なにかしらの神が自然を制御していると思うようになり、それが神話への傾倒に繋がったと主張した。この過程において、伝統的に行われてきた儀式を神話の出来事の再現する行動だと再解釈して続けるようになるとも述べた。しかし最終的に人類は、自然とは自然の法則に従っているのだと認識し、そして科学を通じてその法則を見つけるようになり、神話は時代遅れなものへと押しやられてゆくと言い、フレイザーはこの一連の過程を「魔法に発し、宗教を通じて科学へ至る」と表現した[49]。また彼は世界中に数ある神話の部分類似点に着目し、進化論的な普遍化を施した。ただしこれは強引な手法との批判がなされた[2]

この頃には、科学の発展に伴って神話は近代科学思想の洗礼を受けざるを得なくなった。その結果、神話はそれ自体の信憑性を失うことになった[67]。19世紀後半には社会文化的進化論を基礎に置き、神話は未開状態の習俗から発生したものとみなすアンドルー・ラングなどが現れた[2]
20世紀の理論

20世紀に入ると、前世紀の神話研究における主要な考えであった神話と科学の対立という見方は否定された。一般に、「20世紀の理論は、神話を時代遅れの疑似科学とはみなさない傾向にあり、科学を理由に神話を無視するようなことはしない」と述べてられている[67]。神話研究にも構造主義人類学や心理学からのアプローチが行われた[2]。この潮流は、レオ・フロベニウスなどドイツの民族学者たちが世界中の神話を収集し、分布や文化史上の意義を定めたことが貢献した[2]
民族学的考察

神話収集に寄与した、ドイツの民族学者らは前時代的解釈に縛られていたが、これを進める役割をアードルフ・イェンゼンが担った。彼は農作物の始原を語る神話の一種「ハイヌヴェレ型神話」と初期栽培民文化の関連性に、さらに儀礼のタイプを考慮に加えてひとつの一貫した世界像を洗い出した。この世界像を基礎に据えて初めて、各神話や儀礼を正確に解釈できるとイェンゼンは主張した[2]

ヘルマン・バウマンは、イェンゼンと逆の手法で神話を解釈した。彼は各創世神話に見られる宇宙観に着目した。このような世界観を構築するには、それぞれの文化がある程度発達していなければならず、バウマンは過去の研究者が未開状態の人類が創った神話から順を追ったのに対し、高い文化社会の神話を分析の対象とした。これによって、高文化地域の神話が周辺の未開社会へ影響を与えることが明らかとなった[2]
心理学的考察

スイスの心理学者カール・グスタフ・ユングを筆頭に、世界の神話には背景に心理学的なものがあるという考えを置いた理解も進んだ。ユングは、すべての人間は生まれながらの心理的な力(psychological force)を無意識に共有する(集合的無意識)と主張し、これを「元型」(archetypes)と名づけた。彼は、異文化間の神話に見られる類似性から、このような普遍的な原型が存在することを明らかにできると考え[68]、この元型が表現された一つの形態が神話だと論じた[69]

ジョーゼフ・キャンベルは、人間心理を洞察した中で、人の生き方に応用できるものを神話から得られると主張した。例えば、キャンベルが主張するところによると神話第一の機能は「神秘な存在に対する畏敬の念を想起させ支持させる」ことにあり[70]、さらに「各個人に自己の精神を現実的に秩序づけるよう導く」ことに役立つと言及した[71]

ユングやキャンベル同様、クロード・レヴィ=ストロースも神話は心の有り様を反映したものだと唱えた。ただし彼は、この有り様とは無意識や衝動ではなく明確な精神機構、特に対立する神話素(英語版)の組み合わせである二項対立[72]があると考えた[73]

ミルチャ・エリアーデは『神話と夢想と秘儀』や『The Myth of the Eternal Return』の付記に、現代人が感じる不安は神話や神聖なるものの拒絶に帰すると論じた。
その他の考察

ハンス・ブルーメンベルクは、神話には「威嚇(Terror)」と「詩情(Poesie)」という互いに背反する二つの機能が対立する構図を取ると分析した。前者は人間社会が有する制度や規範または抑圧などをイメージさせる物語を提示し、それを強制させる機能をいう。後者は生命本来が持つ自然性や原初の話にある自由さを提示し、世界を人間の相似をして認識させ、人間の精神を高める想像をもたらす機能を意味する。ブルーメンベルクはこの二つの機能が対立するのではなく、「距離(Distanz)」を持ちながら共存すると言い、具体的には「威嚇」を感じ取りながらそこから適度に離れた位置で「詩情」を感じ取る構造が神話の特色と言及した[74]古いベルギー紙幣ケレースネプトゥーヌスケーリュケイオンが図柄に使われている。
比較神話学詳細は「比較神話学」を参照


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