神話
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神話の起源インド神話の女神カーリー。松村は、男性側観念から見た女性の暗い面としてドゥルガーから分離したものとみなす[31]。沖田瑞穂の「インドの女神小事典」には、もともと別個の神格であったとの考えが示される[32]
父権制の成立と神話

神話と墳墓シンボルとの関係を調べたJ・J・バッハオーフェンは、20世紀以降に科学的見地から乱婚母権制といった古代社会に対する見方を批判されることになるが、1861年の著作『母権制』にて神話は母権制社会が父権制へ変遷する過程で構築されたと論説した。その段階を、初期の乱婚制母系社会から一夫一妻制を経て大地母神デーメーテール型の母権へと変わり、やがて古代ギリシアローマを典型とする父権優位型神話体系が成立したと述べた[33][34]。これは根底に、母親は自ずと母親たりえるが、父親がアイデンティティを持つには説明が不可欠で、この説明のために神話が創られたとしている[35]

神話学者の松村一男によると、この背景が影響して神話の女神女性に見られる性質には、男性側の観念を反映した要素がある。ひとつはギリシアのアルテミスやインドのドゥルガーのような豊穣がある。ただしそこには、単に恵みをもたらすのみならず、全てを呑み込むような過剰な部分も併せ持つ[31]。他にも処女母親という相反する性質の同居があり、日本のアマテラス、ギリシアのアテーナー、そしてキリスト教聖母マリアらがこの例に当たる。これらは男性が女性に抱く理想[36]を反映し、後に難解な理論づけをしたものという[31]
エウヘメリズム詳細は「エウヘメリズム」を参照

ひとつの理論として、神話とは歴史的な出来事が歪められて説明されたものという考えがある[37][38][39]。これによると、語り部が歴史的な出来事を繰り返し何度も詳述するうちに、登場人物が神格化され神話が成立したという[38][39]。例えば、の神アイオロスの神話は、ある王が臣下にを使い風を読むよう命令した故事が発展したものという解釈がある[38]。紀元前5世紀のヘロドトスプロディコスも同様の主張をしており[39]、このような考え方は紀元前320年頃の小説家で、ギリシア神話の神々は人間の伝説が変化したものと主張したエウヘメロス(en)にちなみエウヘメリズムという[39][40]
寓話

神話は寓話を元にしているという説がある。それによると、アポローンポセイドーンといった具合に自然現象を扱う寓話が神話に変化したという[39]。また哲学的概念や的概念を表す寓話を元にした神話もあり、例えばアテーナーは賢明な判断、アプロディーテー願望を示すという[39]。19世紀のサンスクリット文献学者フリードリヒ・マックス・ミュラーは神話の寓話的理論を纏め、当初神話は自然を語る寓話として形成されたが、やがて文字通りに解釈するようになったと主張した。例えば、「raging」という表現は元々はが「荒れ狂う」ことを表現していたが、これがやがてを司る神の「激怒する」性格を現すようになったと言う[41]
擬人化

いくつかの考察によれば、神話無生物や力の擬人化という説もある。それによれば、古代の崇拝は炎や空気などの自然現象に向けられ、徐々にこの信仰対象が神に変化したという[42]。例えば、神話的思考論(en)によれば古代人は何を見るにしても単なる物ではなく人格を帯びているという見方を持っていたという[43]。したがって自然現象はそれぞれの神の所業であると考え、その思考が神話形成へ繋がったと主張している[44]
神話と儀式の関係

儀式との関連を解説した神話‐儀式理論[45]の極端な説では、神話とは儀式を説明するために作られたという[46]聖書学者のウィリアム・ロバートソン・スミス(en)によって提唱された[47]この主張では、古代人が何らかの目的を持って儀式を始めた時には神話とは何ら関係が無かった。しかし時が過ぎ元々の目的が忘れ去られたときに、人々はなぜ儀式を行うかを説明するために神話を創り出し、それを祝するためという理由で儀式を行うようになったという[48]。人類学者のジェームズ・フレイザーも似通った説を唱え、古代人の信仰は人智が及ばぬ法則を信じることで始まり、やがてそのような感情を失ってしまった際に神話を創り出し、それまで行っていた魔術的な儀式を、神を鎮める儀式にすりかえたと主張した[49]

しかし現在では、神話と儀式の関係には普遍的な判断をつけずそれぞれの民族ごとに判断すべきという意見で一致している。儀式が先行し後に神話が作られたというフレイザーらの説を立証する証拠はほとんど見つからず、逆にアメリカインディアンゴースト・ダンスの例のように神話が先行して存在し、儀式は神話の補強として発達する例が多い[2]
神話の変化や統合

民族や文化を単位に生まれる。古代、小規模であったこれらの単位は征服や統合を通じて集合し、やがては国家単位の大きな統一的文化・文明へと発展した。これに伴い神話も段階的にまとまり、体系付けられた。松村武雄はこれら神話の統合された構成について、「横に展開」と「縦に展開」とに分類し、前者の例としてギリシア・ゲルマンケルトなど西ヨーロッパの神話が網のように存在する状態を示し、後者の例として日本天孫系神話を挙げている[50]

中国の神話はこのような体系化がなされず断片的・孤立的なところを特徴とするが、個別の神話の中には三皇五帝に見られる3つの異なる大洪水があるように「横に展開」や「縦に展開」に相当する箇所もある。これらは、神話が固定化した時期に当該地域がどのような政治的・文化的な体系を成していたかが影響し、中国は例外的に神話が統合されない傾向にあった可能性が考えられる[50]
神話の役割ケンタウロス。獣性と人間性がせめぎ合う象徴。

担う役割のうち最も重要なものは、行動規範を定めることにある[51][52]。神話の中で語られる象徴は、時に道徳的な解説を含む出来事の結果を示す場合がある。人間と動物の特徴を合わせ持つような登場人物はまさに人間の典型として描き出される。例えばケンタウロスは人間男性の上半身と馬の下半身を持つが、人間部分は合理性を象徴し、動物部分は野性的本能を表す。この特異な姿は、人間心理が動物的本能に脅かされる状態を意味する[53]。この例は、神話の価値は文化的または精神的な根拠の臆説を述べる点にあるだけでなく、道徳的な解釈が成り立つ象徴群を描写するところにもある。その時には必ずしも神の説話を登場させる必要は無く、何らかの概念を具現化する象徴が示されれば良い。


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