神経細胞
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活動電位詳細は「活動電位」を参照

動物の体液には多量のカリウムイオン、ナトリウムイオン、塩化物イオンなどが含まれているが、細胞外液と神経細胞の細胞質のイオン構成は通常大きく異なっており、細胞内外で電位差がある。微小電極を用いて細胞内外の電位差を測定すると、細胞内は細胞外に比べ-60?-70mVほど負の電位を示す。これを静止膜電位と呼ぶ。これらのイオンは細胞膜を透過して拡散するため、神経細胞の膜貫通タンパクのナトリウムポンプなどによりATPを利用してエネルギーを消費しながらイオンを輸送し、濃度差を維持している。

活動電位は非常に短時間の電位変化であり振幅は一定している。これを計って時間を軸にグラフを描くと、活動電位は針のような急速な電位変化として描画されることが多い。このため電気工学的にインパルスと呼ばれることもある。
代謝

神経細胞でも代謝は一般の細胞と同じく、タンパク質等の合成には核を必要とする。つまり神経細胞では細胞体でタンパク質が合成される。神経細胞は長い軸索を持つことが多いが、細胞体で生産された物質が拡散によって軸索先端にまで達するには時間がかかり、主に微小管上のモータータンパクによって能動的に軸索先端に輸送される。

シナプスでは盛んに神経伝達物質が放出されているが、放出された神経伝達物質の一部は能動的に回収され、シナプス小胞に再充填される。

神経細胞では、静止膜電位の維持と活動電位からの回復のために莫大なATPを消費している。ヒトの脳の質量は体重の2%程度なのに対し、グルコース消費量は全身の25%と非常に多い。
増殖と成長

神経細胞の増殖は、ヒトでは小児期に、神経幹細胞が盛んに分裂して分化することで起こる。

神経細胞は分化が進むとともに、軸索誘導によって特定の位置にある神経細胞が特定の細胞に軸索を伸ばし、シナプスを形成して神経回路を形成していく。軸索を誘導する因子として、標的細胞側から出される特定の化学物質が関与していると言われている。

神経細胞間の接続関係の調節には、神経栄養因子(ニューロトロフィン; NGF、BDNF、NT-3、NT-4)とその特異的受容体(TrkA、TrkBTrkC)が関与しているといわれる。BDNFは中枢神経に特に豊富で、神経活動依存的に合成・分泌される。これらの物質を受け取った細胞の活動やシナプスの接続関係を強化するため、神経系の学習・記憶を制御する中心的な物質と考えられている。[1]また、神経細胞群は初期に過剰な接続を形成した後、必要なものだけを残してシナプスを減らすと考えられている。これは「刈り込み」と呼ばれている。[2]

20世紀初頭のラモン・イ・カハール以来、ヒトの成人のでは新たな神経細胞は形成されないと考えられてきたが、1990年代に神経幹細胞と新生神経細胞が成人の脳にも存在することが示され、成人で神経新生が起こる可能性も検討されている。ただし、その生理的意味はよく分かっていない。
変性と再生

神経細胞の一部が傷つけられると、その場所よりも細胞体から遠い側は変性して壊れてしまう。これを順行性変性という。細胞体のある側にも変性が進行することがあり、これを逆行性変性という。また、神経細胞は互いに神経栄養因子などをやり取りしており、シナプスで接続している細胞が壊れた場合にも、神経栄養因子の不足からプログラム細胞死を起こすことがある。この場合も、前シナプス細胞が死んだことにより後シナプス細胞が死ぬ場合を順行性変性、後シナプス細胞が死んだことにより前シナプス細胞が死ぬ場合を逆行性変性と呼ぶことがある。

障害の程度が激しくて細胞体が死んでしまうと、その神経はもはや再生不能である。しかし、末梢神経の場合には、細胞体が生きていれば、再び軸索を伸ばして目的細胞との結合を回復できることが多い。その過程には、基底膜シュワン細胞の関与が必要とされる。一方、末梢神経に比べて中枢神経はほとんど再生能力がなく、脊髄の損傷は生涯に渡って後遺症を残すことが少なくない。末梢神経の再生を促進する再生医療技術が実用期に入っているが、中枢神経の再生は開発途上である。人工神経を参照。
種類と分布
一般的分類

以下は神経細胞の形態による分類であり、細胞の機能が特定されていない場合の一般的分類である。あちこちの神経細胞が同じ名前で呼ばれるが、基本的に形態以外の共通点は考慮されていない。しかし局所的には形態の違い、すなわち軸索の伸びる先や樹状突起の持つシナプス数は機能の違いを反映していると仮定した研究が多い。
錐体細胞
ピラミッド状に見える細胞。
星状細胞
樹状突起が四方八方に伸び、トゲトゲの球形に見える細胞。
顆粒細胞
樹状突起が少なく粒状に見える細胞。

錐体細胞(ゴルジ染色

大脳皮質においては、錐体細胞は皮質領野間や皮質と核をつなぐ興奮性の細胞であり、星状細胞は領野内での抑制性および興奮性の介在神経細胞と考えられている。これら介在神経細胞は、形態から細かく数十種類に分類されることがある。
特徴的分類

以下は特定の部位に存在し、特徴的な機能・形態を持つ分類である。
網膜神経節細胞
網膜に細胞体があり、軸索が束となって視神経を形成している細胞
プルキンエ細胞
小脳のプルキンエ細胞層に見られる、うちわ型の樹状突起を持つ細胞。うちわを重ねるように密集して存在し、さらにプルキンエ細胞の重なりを貫くように平行繊維が伸びてシナプスを形成しており、システマティックな構造を形成している。

網膜神経節細胞 (D,E)

プルキンエ細胞

歴史

19世紀後半、中枢神経をはじめとした神経系が網状構造をとることまでは知られていたが、カミッロ・ゴルジらは、神経繊維は末端で互いに途切れることなく連続して網を形成しているとする網状説を主張し、ラモン・イ・カハールらの神経線維も細胞の集合であるとするニューロン説と対立した。1906年ノーベル生理学・医学賞はゴルジとカハールが同時受賞し、両者はまったく正反対の立場で受賞記念講演を行っている。


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