ある未感染者が感染者と身体的接触を行う可能性を減少させることで、感染経路が制限され、死亡率の減少につなげることができる[2][3]。社会距離の拡大策は良好な呼吸器官の衛生策(マスク着用、咳エチケット、呼吸器の分泌物や汚染物に触れた場合の手指消毒など)や手洗いと組み合わせて用いられる[22][23]。
伝染病の拡散速度を弱め、とりわけ医療システムに過重な負担をかけることを回避するために、パンデミック(広範囲の流行)の間は、学校の閉鎖、職場の閉鎖、隔離、検疫、防疫線による封鎖、大人数の集会の中止などの社会距離の拡大策がとられる[3][24]。
現代では、過去の感染症の流行において社会距離の拡大策が成功した事例もいくつかある。アメリカ合衆国のセントルイスでは、1918年におけるインフルエンザのパンデミック(スペインかぜ)の初感染例が市内で確認されてすぐ、行政当局が学校の閉鎖、大人数の集会の禁止その他の社会距離の拡大のための介入策を実施した。セントルイスの死亡率は、インフルエンザの感染事例を確認したにもかかわらず大人数が参加するパレードを実施し、初感染事例の確認から2週間以上経過しても社会距離の拡大策をとらなかったフィラデルフィアの死亡率を大幅に下回った[25]。社会距離の拡大策は2019年から2020年にかけてのコロナウイルスのパンデミックにあたっても実施されている。
社会距離の拡大策は、感染症が次の1つないしそれ以上の方法で拡散する場合には、効果がより大きなものとなる[26]。
飛沫感染(咳やくしゃみ)
接触感染(性交渉を含む)
間接的な物理的接触(例:汚染物の表面に触れる)
空気感染(微生物が空気中で長期間生存できる場合)
一方で、感染症が主として糞口経路(衛生管理が不十分な水、食物を通した感染)や蚊その他の昆虫など媒介者を通じて拡散する場合には、効果がより小さなものとなる[27]。
社会距離の拡大策の欠点としては、孤独感、生産性の低下、人間関係に関連した便益の減少などが挙げられる[28]。
理論的根拠感染症の拡散割合および病院の収容能力超過による死亡者数を比較したシミュレーション。左側が社会的交流が通常状態の場合(200人が自由に行動する)で、右側が社会距離をとった場合(25人が自由に移動する)である。
緑色 = 健康で感染していない者
赤色 = 感染者
青色 = 感染症からの回復者
黒色 = 死亡者
[29]
疫学の観点では、社会距離拡大戦略の背後にある基本的な目標は、実効再生産数 R e {\displaystyle R_{e}} ないし R {\displaystyle R} を減少させることである。この実効再生産数は、社会距離の拡大策がなければ基本再生産数 R 0 {\displaystyle R_{0}} 、つまり全構成員が等確率で感染可能性のある集団内で1人の患者から感染する二次感染者数の平均値と等しいはずの値である。社会距離拡大戦略の基本モデル [30] において、全人口のうち f {\displaystyle f} の割合の人々が、接触する人数を通常時を1として a {\displaystyle a} にまで減らした場合、実効再生産数 R {\displaystyle R} は次の式で与えられる。[30]