日本語表記は他に、社会的距離戦略[6]、社会距離戦略[7]、人的接触距離の確保[8]、社会的距離の確保[9]、英語を片仮名で転写したソーシャル・ディスタンシングや、意訳した人混みを避ける措置[10]などがある。なお、社会学用語のSocial distanceの訳語である社会的距離(日本では英語を転写して、そのままソーシャルディスタンスとも) は本来は別概念であるが[11]、日本語でも英語でも物理的な対人間の距離を示す語としてあまり区別なく用いられることがある[12][13][14][15]。また、「社会的距離」はSocial distancingの訳語としても認知されている[16]。2019年から2020年にかけての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行期において、世界保健機関 (WHO) は感染を防止するのはあくまで物理的な距離であり、人はテクノロジーを経由して社会的なつながりを保つことができるという概念に基づき、「社会的」(social) 距離の代わりに「物理的」(physical) 距離という用語を用いるよう提案した[2][17][18][19][20][21]。
ある未感染者が感染者と身体的接触を行う可能性を減少させることで、感染経路が制限され、死亡率の減少につなげることができる[2][3]。社会距離の拡大策は良好な呼吸器官の衛生策(マスク着用、咳エチケット、呼吸器の分泌物や汚染物に触れた場合の手指消毒など)や手洗いと組み合わせて用いられる[22][23]。
伝染病の拡散速度を弱め、とりわけ医療システムに過重な負担をかけることを回避するために、パンデミック(広範囲の流行)の間は、学校の閉鎖、職場の閉鎖、隔離、検疫、防疫線による封鎖、大人数の集会の中止などの社会距離の拡大策がとられる[3][24]。
現代では、過去の感染症の流行において社会距離の拡大策が成功した事例もいくつかある。アメリカ合衆国のセントルイスでは、1918年におけるインフルエンザのパンデミック(スペインかぜ)の初感染例が市内で確認されてすぐ、行政当局が学校の閉鎖、大人数の集会の禁止その他の社会距離の拡大のための介入策を実施した。セントルイスの死亡率は、インフルエンザの感染事例を確認したにもかかわらず大人数が参加するパレードを実施し、初感染事例の確認から2週間以上経過しても社会距離の拡大策をとらなかったフィラデルフィアの死亡率を大幅に下回った[25]。社会距離の拡大策は2019年から2020年にかけてのコロナウイルスのパンデミックにあたっても実施されている。
社会距離の拡大策は、感染症が次の1つないしそれ以上の方法で拡散する場合には、効果がより大きなものとなる[26]。
飛沫感染(咳やくしゃみ)
接触感染(性交渉を含む)
間接的な物理的接触(例:汚染物の表面に触れる)
空気感染(微生物が空気中で長期間生存できる場合)