砂の器
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野村芳太郎は、セリフ無しの映像に不安を感じて、「セリフ有りバージョン」も試してみたが、ちょうど『八甲田山』の準備で橋本プロを訪れた森谷司郎がそれを見て、橋本に「セリフ入れないのが正解でしたよ」と進言したという[33]

本浦秀夫の少年期を演じた春田和秀はそれまでセリフのある役を経験しており、本作で初めてセリフのない役を演じた[34]。本人はセリフなしで感情を表現することにとても不安を感じたが、NGを出しても父親役の加藤嘉が温かく助言してくれたことが精神的支えになった。また、加藤の迫力ある演技に引っ張られ、春田も徐々に感情表現が上手くできるようになったという[34]

春田は、加藤の演技で個人的に印象深いシーンとして、「父子でおかゆを分け合って食べるシーン」を挙げている。用意されたおかゆはそれほど熱くはなかったが、加藤はリアルな動きで“熱々なおかゆ”を表現し、間近で見ていた春田もその演技に内心度肝を抜かれたという[35]

この映画において、ハンセン氏病の元患者である本浦千代吉と息子の秀夫(和賀英良)が放浪するシーンや、ハンセン氏病の父親の存在を隠蔽するために殺人を犯すという場面について、全国ハンセン氏病患者協議会(のち「全国ハンセン氏病療養所入所者協議会」)は、ハンセン氏病差別を助長する他、映画の上映によって“ハンセン氏病患者は現在でも放浪生活を送らざるをえない惨めな存在”と世間に誤解されるとの懸念から、映画の計画段階で製作中止を要請した。しかし製作側は「映画を上映することで偏見を打破する役割をさせてほしい」と説明し、最終的には話し合いによって「ハンセン氏病は、医学の進歩により特効薬もあり、現在では完全に回復し、社会復帰が続いている。それを拒むものは、まだ根強く残っている非科学的な偏見と差別のみであり、本浦千代吉のような患者はもうどこにもいない」という字幕を映画のラストに流すことを条件に、製作が続行された。協議会の要望を受けて、今西がハンセン氏病の患者と面会するシーンは、シナリオの段階では予防服着用とされていたが、ハンセン氏病の実際に関して誤解を招くことから、上映作品では、背広姿へと変更されている[30]

本作で三木謙一を演じた緒形拳は、出演依頼の話が来た際に監督の野村芳太郎に「和賀の親父の本浦千代吉の役をやりたい」と熱望し売り込んだが、「この役は映画化の話が決まった時から加藤嘉さんに決まっている」と断られたという。

殺人の動機について原作では、今西が「同人は自己の将来のために、あるいは自己の地位の防衛のために、三木謙一の殺害を思い立ったのでございます」と説明されているが、ノンフィクション作家、映画・音楽評論家の西村雄一郎は「それでは動機が単純すぎる。なぜなら、この善人の固まりのような警官に懇願すれば、彼は他人の秘密を口外するようなことは絶対にしない人物だからだ」と述べた上で、映画における改変を指摘している。最初のシナリオでは、捜査一課長に「生涯の恩人の三木、夢にまで見た息子の秀夫、そしてまだ生きている自分…突然に結びついたこの三つの関係を、どうしても断ち切りたくて、ついに恩人の三木を殺してしまった」と動機を説明させて、その後に今西刑事に「宿命でしょうな」と言わせている。完成した映画では、捜査会議における台詞の代わりに、生きていた本浦千代吉に和賀を会わせようとした三木に「会えば今やりかけちょる仕事がいけんようになるちゅうて、なんでそげんなこと言うだらか。ワシには分らん。たった一人の親 - それも、あげな思いをしてきた親と子だよ。秀夫、ワシゃあ、お前の首に縄…縄付けてでも、引っ張っていくから、来い!一緒に。秀夫」という、オリジナル・シナリオにはない言葉を入れたことによって「和賀は、自分の暗い過去を思い出し、頭で抱くイメージの中で父に会っていた。そのイメージを大切にし、芸術的に昇華させて、『宿命』という作品を作っていた。ところが、その重要な創作の中途で、生きている父に会わされそうな立場に落とされたのだ。会えば、そのイメージは崩壊し、今まで構築してきた芸術作品は一気に崩れてしまう」「自分は強引に父の前に引き立てられるに違いない。そう思った和賀は、被害者を殺さざるを得なかったのだ」と解釈している。西村はこの解釈が正しいかを野村芳太郎に直接聞いてみたが「監督はただニヤニヤしながら、正しいとも正しくないとも言わなかった」と記している[36]

丹波哲郎は、捜査会議室で千代吉の手紙を読むシーンの演技において、涙が止まらず、何度も同じシーンが撮り直しになった。後にこの涙について「自分のセリフに感動して、声が詰まってしまった。」と明かしていた[37]










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