石の花_(坂口尚の漫画)
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ブランコはミルカとクリロの会話を聞いており、クリロに「おまえがなにを見たとしてもイヴァンを信じろ」と助言する。放浪の末、ゲリラ部隊はパルチザンに合流する。キャンプ中の部隊はスパイの手引きでドイツ軍の攻撃を受け、半数以上が殺傷される。その中でもイザークはユダヤ人ということで差別される。クリロはドイツ軍に知らせようとしたスパイを射殺、ついに人を殺してしまった事にひどく落ち込む。
内戦
パルチザンの破壊活動に手を焼いたマイスナーは、殺害されたドイツ兵1人に対して住民100人を殺害するという恐怖の報復作戦を実行する。セルビアでは男性6,000人、その翌日には7,000人が殺害された。ザグレブではロマの人々が住民たちからつるし上げられていた。止めようとするクリロに対して、ブランコは権力の尻馬に乗って弱い者いじめをする奴らだ、どこにでもいるもんだと諭すが、クリロは突っ込み乱闘となる。イギリスの支援を受けたチェトニクは、パルチザンの本拠地を襲撃し、内戦が始まる。ドイツ軍は東部戦線から1個師団を追加投入し、ゲリラに対して攻勢に出る。クリロの所属するパルチザンはソ連からの指令によりチェトニクへの反撃を停止し、より山深い地域に移動する。
マイスナーとイヴァンの議論
イヴァンとマイスナーは議論する。マイスナーは「人類のため新しい秩序が必要であり、そのためには最高指導者に従わなければならない」と説くが、イヴァンは「それこそが奴隷的な考えじゃないのか」と反論する。マイスナーはミルカの消息について話す。エルケはモルトヴィッチの動向をつかみ、イヴァンは失業者に扮装して接触を試みる。イヴァンはドイツ軍情報局が前政権の金庫番であるモルトヴィッチを追う理由を推理し、前政権の資金の行方について知っていると結論づける。
マイスナーに接近するモルトヴィッチ
クリスマスイブにフィーは病院からマイスナーの屋敷に戻されることになる。モルトヴィッチの指示でフィーを乗せた車は襲撃され、フィーは拉致される。モルトヴィッチはギュームとしてマイスナーのところに襲撃現場で保護したということにしてフィーたちを届ける。ギュームはマイスナーがナチス青年党機関誌に寄稿した、真紅のバラの高貴さについての論文を引き合いに出し、深い印象を与える。ギュームの目的は、マイスナーの屋敷の地下に収蔵されている多数の略奪された絵画・美術品であった。フィーは襲撃時のショックからか目が見えるようになる。
モルトヴィッチの情報
身動きのとれなくなったミントは共産党員にモルトヴィッチに関する情報を提供する。イヴァンも秘密裏に共産党員と会い、前政権の残した金塊について意見の一致をみるものの、モルトヴィッチがマイスナーに近づいた理由は不明であった。ドイツ軍情報局からは、イヴァンにイギリス行きの指令が出る。フィーは目が見えるようになったことをマイスナーに話し、彼は素直に喜んだ。フィーはゲットーや収容所での横流しについてマイスナーから聞き、叔父のやっていることの意味を知る。
パルチザン本隊との合流
サンジャックを目指すパルチザンは真冬の山行に難儀する。ユーゴでの内戦は続き、パルチザンの司令部は移動を続け、バルゴ大尉の部隊はようやく本隊に合流する。クリロは16歳となり、子供部隊を任されるようになる。用事でパルチザン司令部を訪れたクリロは、人民法廷でミルク一杯で死刑にされる光景を見て驚愕する。リジェは共産社会の理想を子供たちに説くが、大人は枢軸国との戦いのため銃を取ったのであり、本来、人は神を信じ、正直に暮らすべきだと反論する。宗教のもたらす平等、共産主義思想のもたらす平等の議論は平行線となる。
ヤブヲニツァ橋の渡河作成
ドイツ、イタリア両軍の作戦網は狭められ、移動中のパルチザンが攻撃される。部隊は西のヤブヲニツァ橋を目指し、西の敵軍に反撃する。パルチザンは橋を確保し、破壊された橋を応急修理し、渡河を開始する。ドイツ空軍機により狙い撃ちにされ、この渡河作戦におけるパルチザンの犠牲者は18,000人に上った。イギリスでイヴァンは外務省官僚と会い、パルチザンへの支援の停滞理由を確認し、大陸に戻る。列車の中でフィーの叔父モーリエと出会う。闇商売で荒稼ぎしていることを自慢する彼を、イヴァンは恥知らずと面罵する。イヴァンはモルトヴィッチがモーリエにも接近していることを知り、その謎に迫ろうとする。
再び強制収容所へ
フィーは強制収容所に戻った。そこには過酷な労働、飢餓、殴る蹴るの暴力が日常であり、フィーは極限状態において現れる人間の本性を見聞きすることになる。収容所とは、マイスナーがいみじくも言ったように「生存とは闘争そのものだ」という閉鎖社会であった。収容所の外における生まれ、地位、財産、容姿は収容所内では意味をもたず、監視と絶望が支配する「平等な世界」がそこにある。フィーは顔にあざをもつラーナと出会い、彼女が収容所に来てはじめて他の人と対等になれたという話を聞く。ラーナは「人を蹴落とし、押し合いへしあい、あのシャバが平和だったといえる?あんな平和ならあたしは二度と望むもんか!」と吐き捨てる。
ギュームの謎の行動
イヴァンがギュームのことを探っていることは、ドイツ軍情報局の知るところとなる。ギュームがモルトヴィッチと同一人物であることは、共産党員にも伝えられる。ギュームとモーリエが組んで金塊を換金し、株式投資をしている情報もあり、その理由は謎である。ドイツ軍のパルチザンに対する攻勢が始まる。クリロもまた極限状態で人間性を保つことがいかに難しいかを知る。ドイツ軍の攻撃で多くの避難民も犠牲となり、荒れ地には一面に十字架が並ぶ。ブランコはクリロとイザークに「人間の最悪だけを見るな。人間の美しさばかりを見るな」と諭す。
スプリット港
ギュームがスプリット港から何かを船で運び出すという情報がもたらされる。その電話は盗聴され、イヴァンが二重スパイであることがドイツ軍情報局に知られ、スプリットで逮捕される。ギュームはモーリエを始め、関係者を殺害して船で脱出する。マイスナーはイヴァンと対面する。二人の議論は「力による調和」の是非となるが、マイスナーは「きみは力づくといって非難するが、きみには分かっているはずだ。民衆がそれをきらっていないことを。自ら問い、自ら悩み、自ら選ぶ自由よりある権威にしたがってしまった方が楽なのだ」という人間の側面を語る。イヴァンは故郷の父母に手紙を書き、その中で戦争の原因は自分の中にもあったことを悔やむ。ドイツ軍情報局はイヴァンを処刑して英雄にすることを望まず、イヴァンは釈放されるが、ミルカの目の前で裏切り者として共産党員にあっけなく殺害される。
ユーゴの解放
本隊とはぐれたバルゴ部隊は移動を続行するが、弾薬はもとより食料にも事欠く状態である。途中でクリロは「人を殺しておいて天国になんかいけるもんか」と戦争を否定し、バルゴ大尉に殴られる。ブランコは「自分を信じ、信じられる自分になるんだ。世界中でたった一人だろうと否なら否と言い続けろ」と語る。しかし、行軍中に隊員の1人が地雷を踏み、クリロを除いた部隊の全員が死亡する。1945年5月。ドイツが降伏し、ユーゴ全土は開放され、クリロは家に戻る。ミルカからの手紙でイヴァンの死と、イヴァンがドイツのスパイではなかったことが分かる。クリロはイヴァンを疑った自分が情けないと泣き伏す。町でクリロはチェトニクの同調者がリンチに遭っているのを見かけ、制止しようとするが無駄であった。クリロは「敵はドイツ兵だけではない」というブランコの言葉を思い出す。クリロは自分なりに戦争と平和を論じ、総司令部からの勲章の授与を拒否する。クリロはポストイナ鍾乳洞を訪れる。巨大石柱のある空間でクリロは「人間には目に見えない翼がある」というフンベルバルディンク先生の言葉を思い出す。クリロはそこでフィーと再会し抱き合う。二人は思い出のプラムの木の下で、「F」のイニシャルのある帽子とプラムの種を見つける。
登場人物
クリロ
本編の主人公の1人。怒りから戦いに身を投じるが、苛烈な戦場で敵味方を問わず剥き出しになる人間の本性に直面し、その衝撃と苦悩の中で、やがて人間同士が殺しあって平和を得るという事への疑問を抱くようになる。
フィー
本編の主人公の1人。クリロの同級生。ナチスに捕らえられたが、マイスナーの亡き妹・マリーネに似ていた為に保護されるも、大人達の思惑の過酷さと良心の呵責に苛まれる日々に耐えきれず、囚人の身分に戻り、収容所の非人道的な環境のもとでの強制労働に心身をすり減らしつつも辛うじて終戦の日を迎える。
イヴァン
クリロの義兄(実際は従兄)。
ザグレブで反ナチスの地下組織に加入していたが、父がドイツ人であることからドイツ進駐後にはドイツ軍情報局に身を投じる。ヴィンター・タウゼントという変名でロンドンでの情報収集やユーゴスラビア王室の財宝に関する調査を主とするが、彼にはもうひとつ隠された目的がある。
ブランコ
イヴァンの友人で、ゲリラの隊長。第一次世界大戦でも従軍した歴戦の勇士。大柄な体躯と落ち着いた物腰が印象的な”頼れる大人”で共産主義には与せずも、独立を回復するためパルチザンに合流する。また、次第に現実を受け入れてしまうことに悩むクリロに対して、たとえ世界中が敵になろうとも正しいと思うことを信じ続けろと諭すなど、物語全般にわたってクリロの精神的指導者となる。
ミント
ザグレブに住む男。悪意と銃撃の中をかいくぐるような危機を乗り越えながら、イヴァンを探すクリロに協力する。
マイスナー
親衛隊中佐(のち大佐)。イヴァンの旧友。死別した妹マリーネと瓜二つのフィーを見つけ、収容所から保護するがフィーに拒絶される。品格のある者を丘の上に咲く(鋭い棘で我が身を守る)薔薇に例え、強靭な意志と力によって、品格に欠ける者の淘汰、および圧倒的な力で秩序を築き大勢の弱者に不安の払拭と安寧をもたらす思想の正当性を主張する。ナチスの思想に身命を捧げながらも盲目的に従っているわけではなく、多くの美術品を戦火から守り抜く名もなき英雄の面がある。ドイツ敗戦後は生死不明となる。
モルトヴィッチ
ユーゴスラビア王党派とされていたが、実際にはその時々の状況に応じ主義思想を目まぐるしく変えていく、バルカン政治家気質の権化とも言える怪人物。王室が国内のいずこかに隠したと言われる財宝の行方を知るとされ、ドイツ軍・ゲリラ双方が接触を試みる。初老の見た目に反して筋骨隆々の体型をしている。骨董商W・ギュームなる人物が正体であるかのような進行を見せるが、どちらがどちらを演じているのか明瞭ではなく、当の本人も取引相手を幻惑するのに有効活用したりと最後まで謎のままである。
W・ギューム
フンベルバルディンクの行方が完全に消え去った物語中盤から登場する謎の骨董商。この世が汚れた暗黒の世界であり、ナチスはそこに輝く虹をかける存在であるとして、マイスナーと結託する。性格的にはフンベルバルディンクと対を成すキャラクターであるが、思考の柔軟性という意味では類似した人物でもあり、いわば”黒いフンベルバルディンク”のような人物でもある。一見すると老人だが、その身体能力は老人の物とは言えず、その正体は最後まで伏せられたまま、戦後の平和を不気味な笑みを湛えて迎える。
フンベルバルディンク
本編冒頭で、クリロの学校に赴任する教師。非常に柔軟な発想と独特の視点を持つ人物で、ポストイナ鍾乳洞の石筍が「石の花」に見えたことを「まなざし」と表現し、クリロ、フィーの心に強い印象を残す。ドイツ軍侵攻以降は行方不明となり、その生死も定かならなくなるが、その後もクリロの心の中に登場する。

このほか、端役ながらチトーハインリヒ・ヒムラーなどの実在人物が登場する。
書誌情報

坂口尚『石の花』潮出版社〈希望コミックス〉、全6巻。ISBNはない。
[15]
1984年10月15日発行

1985年3月1日発行

1985年11月15日発行

1986年4月30日発行

1986年8月1日発行

1986年10月23日発行



坂口尚『石の花』新潮社〈新潮コミック〉、新版、全5巻[16]
「侵攻編」1988年8月発行、.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 4-10-603002-0


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