瞑想
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各々の瞑想は宗教や信念、価値観、生き方と深くかかわる歴史を持ち、そうした文脈から瞑想を切り離して単体として考えることは難しく、定義は困難を伴う[10]。瞑想を広い意味での感覚減弱(脱感作)の技法ととらえようとする研究もあるが、明白に瞑想ではない感覚減弱の技法もあり、心身への効果から瞑想を定義することは難しい[11]

精神科医安藤治は、アメリカを中心とする西洋の瞑想(meditation)研究を紹介する『瞑想の精神医学』で、「伝統的により高度な意識状態あるいはより高度な健康とされる状態を引き出すため、精神的プロセスを整えることを目的とする注意の意識的訓練のことであるが、現代においてはリラクセーションを目的としたり、ある種の心理的治療を目的として行われることもある」と定義している[12]。「通常の意識状態、通常の健康よりも優れた」という価値の設定は、現在一般に認められている世界観、考え方の枠組み、科学的世界観をはみ出しており、こういった常識や科学と対立する価値を認めることを避け、瞑想を「変性意識状態」として位置付ける見方もある[13]。上智大学グリーフケア研究所の葛西賢太は、瞑想を「日常生活の諸問題の整理や見直し、再活性化を意図して、日常の時間の中に、一定の時間を区切って、通常とは違う意識状態に自覚的に切り替えること、また、その方法」と定義している[14]。葛西賢太は、通常意識状態と変性意識状態の往来を「意識変容」と呼び、「意識変容を自覚しているマインドフルな状態」を瞑想の基本的な状態(瞑想的意識状態)であると考え、この定義に当てはまるすべての行為を広い意味で瞑想ととらえることを提案している[14]

瞑想の具体的効用として、感情の制御、集中力の向上、気分の改善等の日常的な事柄から、瞑想以外では到達不可能な深い自己洞察や対象認知、智慧の発現、さらには悟り解脱の完成まで広く知られる。瞑想による特異な体験として、「変化しやすい強烈な感情、深いリラクセーションと高度の覚醒、知覚の明晰さの高まり、心理的プロセスや心理的移動説への感受性の向上、身体を含めた対象物の知覚に関する変化や流動性の増加(対象恒常性の減少)、精神的コントロールの困難さに対する自覚、特に集中力を失わず、空想に陥らないようにすることのむずかしさの自覚、時間の感覚の変化、変性意識、他者との一体化の体験、防御心の減少、体験への開放性」などがある[15]

宗教学者の鎌田東二は、狩猟・漁猟を行っていた人々が、その技術を向上させるために修練し、それが武術や武道、スポーツとなり、また宗教的なや瞑想になっていったと考える[16]。生きるためには食べる必要があり、人は生きるために命を殺害するが、人にとって命を食べることは、命がけの宗教的・呪術的行為であった[16]。狩猟は命の交換の行為であり、狩猟民は、命がけで動物たちとの戦いに挑み、その中で自然への畏怖の気持ちを高め、同時に恐ろしい動物を前にしても立ち向かうことができるよう、自己をコントロールし、動物と戦うために自己と戦わなければならなかった[16]。鎌田東二は、このような心のコントロール・制御の方法を開発する道程から、夢見法や瞑想、観想が生まれ、さらにそのような集中や制御が、止観や禅を生み、山を歩き走ることが、山岳跋渉や修験道を生んだと考える[16]

あるがままを観察し、受け入れるという東洋の思想は、1960年代にアメリカのヒッピーたちが注目し、彼らは精神的な成長を求め、ヒンドゥー教由来でインド人導師マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーが広めた超越瞑想や日本の仏教を学び、アメリカや東南アジアで修業をした[17]。20世紀のアメリカでは、裕福な階級は精神療法(サイコ・セラピー)を精神病の治療だけでなく精神の健康にも活用していたが、1960年代後半に起こったヒューマンポテンシャル運動では、ゲシュタルト心理学などの人間性心理学と精神療法が結びついて一般に広まり、自己実現や自己成長の手段として重視された[18]。この運動の代表的な人物である禅の研究者アラン・ワッツは、東洋の宗教における修行と西洋の精神療法とを同様のものと考えて、瞑想が精神療法の文脈の中に取り入れられた[18]。このことが、今日の一般での瞑想の実践や研究に大きな影響を与えていると考えられており、西洋で瞑想は実利的な健康法、セラピーとして広く活用されている[18]。1970年代には、科学者を志す若者たちが東南アジアやインドで瞑想の修行をするようになり、アメリカに戻って瞑想研究や普及活動をした[17]。インド人導師バグワン・シュリ・ラジニーシは、同時代にアメリカで活動し現代人向けに多くの瞑想法を開発したが、瞑想の最終的な目的は絶えず観照者にとどまる事であり[19]、気づきを生の本質とすることが瞑想であると語った[19]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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