眼鏡
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レンズの性能からいえば球面が最良であるとはいえないが、レンズ曲面を球面とすることで研磨が非常に容易になり、それほど精密でない研磨機でも高精度な研摩ができる利点がある[31]

縦方向と横方向とで度数を変えて乱視矯正を含めたものは面形状が球面ではなく、正確な光学上の分類では球面レンズではない。しかし、眼鏡レンズでは慣習として、球面レンズと同じラインアップ上の製品であれば「球面レンズ」と呼んでいる。
非球面レンズ

非球面レンズは片面または両面を平面でも球面でもない曲面としたレンズである。そのため断面を見ると外周と内周とでカーブの曲率がなだらかに変化している。

球面でなくする意図には次のようなものがある。
レンズを薄くする。

度数誤差の低減。すなわち、球面レンズではレンズの周辺部で度数が強くなっていたのを、周辺部まで一定の度数にする。

非点収差の低減。球面レンズではレンズの周辺部で物がぼやけて見えていたのを、はっきりさせる。

歪曲収差の低減。レンズ周辺部で物が歪んで見えるのを緩和する。

第三者から見てメガネのレンズによる装用者の顔の輪郭の途切れを最小限にする。

遠視用レンズは球面設計では十分な光学性能の実現が難しく、大きな光学的歪みを生じるが、非球面設計によって改善される。昭和7年(1932年)の書籍にも非球面レンズへの言及があるが、当時の非球面レンズはもっぱら高度遠視に用いるものとされていた[32]

今日では近視用の非球面レンズも販売されているが、近視用レンズでは球面設計でもそこそこ良好な光学性能が達成可能なので、非球面設計にする目的は1の薄型化が主である。眼鏡に用いられるメスニカスレンズは、外面を凸レンズ、内面を凹レンズにし、打ち消し合った後に残った差分で視力を矯正するものである。外面と内面を打ち消し合わせているのは薄さの面では無駄であり、薄くするだけならば平凹レンズに近い形状にすれば薄くなるが、球面設計のままでは光学性能が大きく低下して見え方が悪くなる問題点があった。そこで非球面形状を採用することにより、球面レンズと比較して緩い外面カーブでも必要な光学性能を満たすことができ、薄く仕上げることができる。

4の点は、近視用では球面でも非球面でもほとんど差がない。眼鏡店では近視の客にも非球面レンズのほうが歪みが少ないと言って勧めることがあるが、その際の歪みとは、2や3にある度数誤差や非点収差といった光学上の歪みを指す。また、4と5は相反する性能であり、両方を同時に改善することはできない。歪曲の補正を重視して設計すると輪郭の途切れが大きくなり、輪郭の途切れを小さくしようとすると歪曲が大きくなる。どちらを重視してどちらを犠牲にするかを選べるレンズ銘柄もある。

歪曲収差は慣れの要素も大きい。光学技術者は、光学機器の設計に当たって複数の硝材を使い分けて収差を補正した経験から、人間の眼球においても同様の補正が行われていると思いがちだが、実際にはなんら補正されていないというのが結論である。網膜に映っている像は裸眼でももともと歪曲しており、外界の直線は網膜には直線として映っていない。それが本人に直線に見えるのは、歪曲込みの像を中枢レベルで直線として学習した結果である。歪曲収差のある眼鏡をかけると当初は見え方の歪みを感じるが、3日もすれば順応しまい、むしろその眼鏡を外して裸眼になったときに裸眼での見え方が歪んでいるように感じるものである[33]

度数誤差が小さく周辺部まで度数が一定であることも、近視用レンズではクレームに繋がることがある。近視は弱めに矯正されることが多いので、球面レンズでレンズ周辺部の度が中心部より強いことで結果的によく見える度になることがある。そのような状態に慣れた人が同度数の非球面レンズに変更すると、球面レンズより周辺部の見え方が悪いと感じることがある。

さらに細かく分類すればレンズの外面のみを非球面にした外面非球面と、内面を非球面にした内面非球面、両面を非球面にした両面非球面とがある。それぞれの性能は、理論的にはどれでも大差ないが、現実には製造工程の都合で外面非球面の性能が劣る。

外面非球面は、ある度数範囲を同じ非球面形状で兼用し、内面を目的の度数に合わせて球面研磨することでそれぞれの度数のレンズとして仕上げられる。用意すべき非球面形状が少なくて済むので安価に量産できる。使用する人の度数がたまたま兼用する度数範囲の中央に当たればよいが、範囲の境界に当たれば性能が劣るかもしれない。それに対して内面および両面非球は度数一段階ごとに別の非球面形状を用意するので、どの度数でも理想的な非球面形状が使用される。その代わり生産コストが嵩む。
材質による分類

主なレンズの材質はプラスチックガラスである。また、極めて高価なため使用する人は稀だが、人工水晶や人工サファイアを使用したレンズ[注 1]もある。現在では販売量の9割近くがプラスチックレンズである。
プラスチックレンズ

利点としては、「割れにくい」「軽い」「染色によってカラーの選択が自由」がある。欠点としては、傷が付きやすい。

通常はハードコート(後述)がなされているものの、ガラスレンズには及ばない。ただし、耐擦傷性向上によるガラスレンズ並みの傷つきにくさを謳う製品もある。また、プラスチックレンズは同度数のガラスレンズに比較して厚い。屈折率の高いプラスチックが開発され薄くなってきているが、同時に屈折率の高いガラスも開発されており、レンズの薄さについては依然としてガラスの方が優位である。また、日常生活では特に問題にはならないことが多いが、ガラスレンズに比較して熱に弱い。

アクリル樹脂ポリカーボネートの様な有機ガラスが使用される。光学面では素材そのものの性能はガラスより劣るが、設計と製造の自由度が高いため、ガラスでは難しいハイカープレンズや累進焦点レンズでは、光学面においてもプラスチックに優位性がある。
ガラスレンズ

プラスチックに比べ、光学的性能が高く、傷が付きにくく、熱に強い。また、レンズはプラスチックより薄くすることが可能で外観に優れる。一方で、衝撃に弱く(ヒビが入ったり割れたりすることがある)、薄いにもかかわらず重い。

プラスチックレンズが主流になり、ガラスレンズは少なくなっているが、調理場や工場・焼却施設など、化学薬品や油分・火気の使用が多い場面での使用では、ガラスレンズに優位性があり、一部では根強い需要もある。
高屈折レンズ

通常の眼鏡レンズより屈折率の高い材質を用いたものを高屈折レンズという。ガラス・プラスチックともに商品がある。高屈折率プラスチックレンズの素材としては、三井化学のMRシリーズ[34]に代表されるチオウレタン系の樹脂が広く採用されている。

利点

薄い。

通常は軽くなる。

屈折率の高さによるキラキラした外観が人によっては高級に感じられる。


欠点

高価である。

アッベ数が低いため、レンズ周辺部で色収差が感じられる。

割れやすい場合や、コーティングが剥がれやすい場合がある。

比重が高く、体積の割に重い。この欠点は通常は薄くなることによって打ち消されるが、弱度では打ち消されないこともある。

屈折率の高さによるキラキラした外観が人によっては品なく感じられる。

高屈折レンズの極端な例としてはサファイアレンズがある。このレンズの利点は、

強度に優れ、ガラスよりも傷がつきにくく、割れにくい。

屈折率は1.77アッベ数が共に高い。特にアッベ数は72と極めて高い(通常のレンズは32?58)。

強度が高いため非常に薄くできる。

といったものであり、特性は極めて優れている。ただし1枚100万円以上と極めて高価である。

ローマ皇帝ネロは、サファイアサングラスを愛用していた(サファイアの反射鏡とする説もある)。
コーティング・機能

レンズ表面に施されるコーティングや素材により機能を持たせたレンズも存在する。カタログ等に表記される名称はメーカーによって異なる。現代ではコーティングや機能をオプションとすることで標準価格を抑える販売手法が主流となっている。
紫外線カットコート
プラスチックはそれ自体に
紫外線を通しにくい性質を有するが、よりカット率を高めるためコーティングが施される。紫外線カットの眼鏡レンズは、バイオレットライト(波長が360?400nm)もカットするが、バイオレットライトに近視の進行を抑制する効果があるとして、メガネによる紫外線カットが近視を増加させているという報告もある[35]。これに対応してバイオレットライトを選択的に透過するレンズも登場している[36]。さらには、紫外線そのものに近視抑制効果があるとする説もある[37]
ハードコート
レンズに傷がつくのを防止する。ハードコートの技術が開発される前のプラスチックレンズは極めて傷つきやすいため販売量が伸びなかったが、ハードコートが施されるようになってからは実用上問題ない傷つきにくさを得、販売量でガラスレンズを凌駕するに至った。現在ではハードコートの施されていないプラスチックレンズは生産されていない。
汚れ防止
水や皮脂を弾きやすくすることで、汚れにくく拭き取りやすくなる撥水コート、湯気で曇らない防曇コート、が付きにくい帯電防止コートなど。防曇コートは付属の液体(界面活性剤)を定期的につけるタイプが主流だったが、不要なコーティングも登場している。
反射防止コート
光の反射を防止する。これが施されていないと、装用者自身にとってはレンズ裏面に自分の目が映って見えたり、背後から来る光が反射したりする。写真撮影の際、カメラのフラッシュ光が反射して目が透けず真っ白に写り、運転免許証パスポート個人番号カードの申請では、差し替えや撮り直しを指示される。現代ではキズ防止、紫外線カット、撥水、反射防止は標準コートであるため、より性能を高めたコーティングをオプションとして設定しているレンズが多い。
耐熱レンズ
レンズの各コーティングは、膨張率が異なるため、熱が加わるとコート層の境目から剥がれやすい。対策として、各コーティングの膨張率を揃えることで剥がれを抑えたレンズ。熱に弱いプラスチックレンズの耐熱性を高めるものではない。
衝撃吸収(プライマー)
強度を高めるコーティング。レンズに衝撃がかかった際に割れにくくなる。縁なしやナイロールフレームに有用である。
偏光
水面や雪面からの表面反射光をカットする偏光板を使用する。
ミラー加工
レンズ前面に光を反射するコートを施す。
カラーレンズ
プラスチックが着色しやすいことを利用し、素材自体が着色されたプラスチックレンズ。ファッション用の他、眩しさの軽減や視力矯正機能のあるサングラスとしても利用できる。
調光レンズ
紫外線量や温度により、透過率が変わるレンズ。眼鏡兼サングラスとて利用出来る。
ブルーライトカット
高エネルギー可視光線(波長が380?500nm)を軽減するレンズ。ガラスではコーティングとなるが、プラスチックでは添加剤や薄茶色の着色により、レンズ自体でカットするものがある。カット率が高いレンズは、視界が黄色がかって見えるものもある。デジタル機器による睡眠障害や眼精疲労、眼の障害の防止を謳って販売されている。日本眼科医会は2021年4月、睡眠障害の防止については効果を期待できる可能性があるとしながらも、それ以外の効果は期待できないとし、さらに小児にブルーライトカット眼鏡を装用させては自然のままの太陽光を浴びる機会を奪い近視進行のリスクを高めるとして、小児の装用に対して慎重意見を表明した[38]


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