眼鏡
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日本に眼鏡を伝えたのは、宣教師フランシスコ・ザビエルで、周防国守護大名大内義隆に謁見した際に献上したのが最初といわれている。ただし、これは現存しておらず、現物で残っている日本最古の眼鏡は、室町幕府第12代将軍足利義晴が所持していたと伝わるものがある。一説には、義隆の物より、義晴が所持していたものの方が古いとも言われる。また徳川家康が使用したと伝わる眼鏡も久能山東照宮に現存している。日本でも、眼鏡はやがて国内で作られるようになり、江戸時代の半ばほどにもなると、江戸大坂の大都市では、眼鏡を販売する店が出るようになった[15]。同時に日本独自の改良も施されるようになり、中でもメガネの鼻パッドは日本独自の発明であるとされる[16]
その後の改良耳にフレームをかける方式の眼鏡を着用した男性

アメリカ合衆国科学者ベンジャミン・フランクリン近視老視に悩まされ、1784年に眼鏡をいちいち交換しなくて済むように多重焦点レンズを発明した[17]1825年イギリスの天文学者ジョージ・ビドル・エアリーが世界初の乱視用レンズを製作した[17]

眼鏡のフレームも進化してきた。初期の眼鏡は、手で押さえるか、現代の鼻梁を挟む鼻眼鏡とは異なり鼻翼の部分に乗せて使う形状だった。ジロラモ・サヴォナローラが、眼鏡にリボンをつけて頭に巻いて縛り帽子をかぶれば外れないという提案をした。現在のようにつるを耳にかける形のフレームは、1727年イギリスの眼鏡屋エドワード・スカーレットが開発した。そのデザインはすぐに広まったわけではなく、18世紀から19世紀初期にかけて柄付眼鏡などもファッションとして使われ続けた。

20世紀に入ると、カール・ツァイスの Moritz von Rohr(および H. Boegehold と A. Sonnefeld)が Zeiss Punktal という球面レンズを開発し、その後これが眼鏡用レンズとして広く使われるようになった[18]
構成眼鏡の各部の名称

眼鏡は、ほとんど全てのものにおいて、右目・左目の計2枚のレンズで構成されている。視力矯正が目的の場合、多くは両目ともに視力低下をきたしているため、両目ともレンズが必要となるためである。また、保護メガネやサングラスなどにおいても、ほぼ全ての製品が両目を守ることを目的としている。片目だけの使用を想定した片眼鏡も存在するが、視力矯正よりも装飾の意味合いの大きいものである。

今日の眼鏡は以下のような部品から構成される。眼鏡の種類によっては一部の部品を欠いたものもある。
レンズ
眼鏡の機能として働く部分である。レンズ以外の眼鏡部品は、今日では装飾目的もあるが、もともとはレンズを目の前に固定するためにあるものである。
フレーム(縁、枠)
レンズを眼前に固定するための構造全体を称してフレームという。英語で枠または縁という意味である。フチなし眼鏡のレンズ以外の部分を指してフレームというのは、枠のないものを枠と呼んでいるわけで矛盾した語法である。一部の文献や日本の商標法では、フチなし眼鏡のいわゆるフレームをマウントまたはマウンティングと呼ぶ。フレームは、さらに下記のような部品に分けられる。
テンプル(腕、ツル、アーム)
テンプルとは英語こめかみという意味である。古くはその名のとおり、こめかみに当てて固定するものだったが、今日では蝶番とイヤーピースを繋ぐ棒状の部分を称してこう呼ぶ。鼻眼鏡には存在しない。伸縮性のあるスライドテンプルがあり老眼鏡に用いられることもある。
テンプルエンド(バチ先)
テンプルの先端。
先セル(モダン)
テンプルの末端の部品。プラスチック製が多く、かつてはセルロイド製だった。メタルフレームの一部は先端を丸くし、プラスチックを被せない物は先セルレスやモダンレスと呼ばれる。
ブリッジ(山)
両のレンズを繋ぐ部品である。英語で鼻梁を意味する。テンプルやブリッジのように眼鏡部品の名前は顔の部位に由来するものが多い。古くはレンズのことをアイ、すなわち目とも呼んだ。二本あるブリッジはダブルブリッジやツーブリッジという。
リム
レンズの周りを囲う縁。リムのないフレームはリムレス、縁無しと呼ばれる。
智(ち)、乳[19][20]
リムから丁番に繋がる部分の総称。女性の乳に形状が似ていることからいう[20]
リムロック
智のうち、レンズを締め付けるためのネジのついた部分。
ヨロイ(鎧、エンドピース)
智のうち、リムロックを外側から覆う部分。
丁番(蝶番、ヒンジ)
智とテンプルを繋ぐ部分。これによって収納に便利なように眼鏡を折りたたむことができる。一部には軽量化のために丁番を廃した眼鏡もある(ヒンジレス)。
鼻パッド
鼻に当たる部分。鼻当てとも。一山には鼻パッドはない。パッドは主にプラスチック、シリコン、金属(チタン)がある。
クリングス
リムと鼻パッドを繋ぐ針金状の部品。箱足とも。一山にはクリングスはない。
レンズ

眼科での度数検査に用いる物などを除き、通常の眼鏡には凸レンズでも凹レンズでもメニスカスレンズが用いられる。これはレンズの外面(眼球から遠い面)が凸面に、内面(眼球に近い面)が凹面になっているもので、概念的には外面の弱い凸レンズと内面の強い凹レンズを差し引きして目的の度数の凹レンズを形成したり、外面の強い凸レンズと内面の弱い凹レンズを差し引きして目的の凸レンズを形成したりするものである。反対面の度数を打ち消すために面の曲率を余計に強くしなくてはならず、両凸レンズや平凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズより薄さの点では不利だが、メスニカスレンズでないと、回旋する眼球に対してレンズ周辺部を通して見たときの光学性能が極端に落ちてしまう。

製造技術はカメラ用と同じであるため、ニコンペンタックスコダックローデンシュトックカール・ツァイスなどのカメラメーカーが製造している。他にもHOYAオハラなどのガラスメーカー、セイコーなどのガラス加工技術を有する時計メーカー、東海光学エシロールのような眼鏡用レンズの専業メーカーが供給している。
屈折作用による分類

眼の屈折異常によって異なる種類のレンズが使われる。
近視

近視は遠方から眼に入った光線が網膜ではなくもっと手前で焦点を結んでしまうものであるから、光線が眼に入る前に予め凹レンズによって分散させてしまえば網膜上で焦点を結ぶようになり、近視が矯正される。これが近視の眼鏡の原理である。

近視の眼鏡によって物が小さく見えるとよく言われるが、近視の多くを占める軸性近視の場合、これはある意味では正しく、ある意味では間違いである。凹レンズには眼から離れれば離れるほど物を小さく見せる効果がある。眼鏡レンズは眼から多少なりとも離れた位置に掛けられるので、その人の現在の裸眼での見え方に比べれば、なるほど近視の眼鏡をかけると物が小さく見える。しかし、その人が正視だった頃の見え方に比べれば、ほぼ同じ大きさか、むしろやや大きく見えているのである。

軸性近視では凸レンズである角膜水晶体が正視の場合より網膜から離れてしまっている。凸レンズには目から離れるほど物を大きく見せる効果があるので、軸性近視の者が裸眼で物を見た場合、凸レンズである角膜や水晶体が網膜から離れてしまっている分、正視より網膜に物が大きく映っている。凸レンズが網膜から離れると網膜像が大きくなることは、凸レンズの老眼鏡を通常の位置に掛けた場合と離して掛けた場合とを比べれば容易に理解されよう。

近視の眼鏡によって網膜像が縮小されるといっても、それは現在の裸眼での見え方と比べての話である。近視になる前の見え方と比較するならば、裸眼の時点で正視よりも網膜像が拡大されてしまっていることを考慮する必要がある。角膜頂点からおよそ15mm離れたところへ凹レンズの眼鏡をかけると、正視と同じ大きさの網膜像になる。軸性近視により網膜像が拡大される効果と凹レンズにより縮小される効果がちょうど打ち消しあうのである。しかし現実には眼鏡レンズは角膜頂点から10mmから12mmまで近づけるように調整されるので、軸性近視によって網膜像が拡大される効果が完全には打ち消されず、眼鏡をかけても正視だった頃より網膜像はやや拡大されたままである[21]

近視を眼鏡で矯正する際は度を弱めにすることがある。弱めに矯正することを低矯正という。これに対して一番よく見えるように矯正することを完全矯正という。

近視を低矯正することについては、近年の実験結果から、近視を低矯正していると完全矯正しているより近視の進行が激しくなる恐れがあるとの批判もある[22][23][24]日本眼科医会の2010年度調査報告書では、近視を完全矯正するか低矯正するかについて臨床現場では判断が分かれていると報告している[25]
遠視

遠視は遠方から眼に入った光線が無調節状態で網膜ではなくもっと奥で焦点を結ぶものであるから、光線が眼に入る前に予め凸レンズで屈折させれば無調節で網膜上に焦点を結ぶようになる。これが遠視の眼鏡の原理である。

しかし、眼には調節力があるので、遠視の程度の軽い場合や、年齢が若く調節力の強い場合は眼鏡をかけなくても差し支えないことも多い。理論上は遠視は眼精疲労を招きやすいものではあるが、だからといって本人が眼精疲労を訴えているわけでもないのに徒に遠視の眼鏡をかけさせても良い結果を招かない。本人が苦痛を訴えているわけでもない遠視をむやみに矯正すると、なるほど調節は休まるかもしれないが、調節が休まったことに釣られて両目が離れようとする、つまり開散しようとする。


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