真言
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もとはバラモンが火中に供物を投ずる際に唱えた女神「スヴァーハー[注 38]」の名である。成就句は必ず置かれるものではなく、同じ真言でも存否は不定である。詳細は「スヴァーハー」を参照
フーム(日:ウン,チ:フーン)
サンスクリット語の「h??」で、漢訳では「吽」等と書かれる。『チャーンドーギヤ・ウパニシャッド』にも見える呪句で、「h」はシヴァ、「?」はバイラヴァを、「?」は、不幸や苦痛を駆逐することを意味する語、または「hetu(因縁)」+「?(損減)」+「?(空点)」からなり、菩提心の損減を空ずるつまり菩提心堅固をあらわし、それによって魔を畏怖させる意をあらわす語とされる。「大力」・「警覚」・「恐怖」・「忿怒」、「清浄」や「満願」など様々な意味で用いられるため解釈が困難な語である。忿怒尊の真言において「ウン・ハッタ(h?? pha?)」と組み合わせて用いられる場合は、「叱咤」・「恐怖」・「忿怒」の意味と解釈される。
パット(日:ハッタ,チ:ペー)
サンスクリット語の「pha?」で、漢訳では「發?」等と書かれる。敵を攻撃する時の「感情」や「打撃」・「発射」等の意味を持つ『ヴェーダ』の呪句を取り入れたもので、忿怒尊の真言に多く用いられ、敵を調伏させるための感情をあらわす語とされる。「摧破」・「破壊」・「降伏」・「放出」等と解釈されるが通常は翻訳しない。
ブルム(日:ボロン,チ:ドゥム)
サンスクリット語の「bhr??」で、漢訳では「歩??」等と書かれる。「bh(発菩提心)」+「?(?滅諸罪障)」+「??(一切如虚空)」の合成語で、菩提心を発し罪障を滅し心楽しく虚空の如く清浄なことを意味するとされる。「種子_(密教)」も参照
解読・研究

真言は、聖なる音を唱えることが重要であるという信仰から、サンスクリット語を翻訳(意訳)せず、漢字で音写されたものが多く伝わったが、解読されているのはごく僅かでサンスクリット原典も殆ど残っていない。真言密教の各宗では、真言を翻訳したり字句の意味を穿鑿したりせずに、その大意を掴んでひたすら無心に唱えるように指導している。そのため意味不明・解読不能でありながら各宗で依用されている真言は多い[注 39]

真言は、永らく「音が重要であり、唱えるべきもので解釈すべきものではない」という伝統があったが、江戸中期の真言律宗の僧浄厳は、当時乱れていた真言・陀羅尼を正すために『普通真言蔵』を著し、さらに法隆寺貝葉梵本経を模写し音訳や意味を記した。昭和期以降、真言陀羅尼の研究が盛んになり、昭和6年に密教学会編の『密教大辞典』が出版され、昭和10年に臨済宗では伊藤古鑑の禅宗聖典講義が出て、大悲心陀羅尼、消災妙吉祥陀羅尼、仏頂尊勝陀羅尼の意訳を試みている。昭和34年に田久保周誉の『真言陀羅尼蔵の解説』、昭和35年に栂尾祥雲の『秘密事相の研究』、昭和45年に渡辺照宏・大鹿実秋・宮坂宥勝による智山教化資料第四集『常用陀羅尼と諸真言』、吉田恵弘の『金胎両部真言解記』、昭和54年に稲谷祐宣による『普通真言蔵』(浄厳編/稲谷祐宣校注)、昭和60年に八田幸雄の『真言事典』が刊行された。

真言の解読には、一般仏教の知識や密教の経典儀軌はもとより、古典『ヴェーダ』や『ウパニシャッド』、『マハーバーラタ』の英雄詩や古代インド神話の知識を必要とし、しかも音写漢字を還梵するという複雑な作業を踏まなければならない。サンスクリット語やチベット語など各種言語にも精通している必要もあり、真言の研究はまだ成就していない。
依用

真言にはそれぞれ出典となる経が存在し、成立の過程が異なる『大日経』 (胎蔵界) と『金剛頂経』 (金剛界) では、真言が異なる。真言の中でも仏尊の名号種子・本誓を真言にしたものは、比較的容易にその意味が解読されているが、加持に用いる真言などで全く意味不明なものも存在する。しかし、理解できなくても一種の不可思議な霊力がある呪文として取り扱われている[17]
口誦、念誦
真言は、バラモン教ヒンドゥー教のマントラに由来するため「反復」が重視されており、数限りなく唱えられたときに絶大な威力を発揮すると説かれている。遍数には三遍・七遍・百八遍・千遍、十万遍(洛叉)などがあり、例えば、不動明王の真言を30万回(三洛叉)唱えると不動明王の姿を見ることができる[18]准胝観音の陀羅尼を90万回唱えると一切諸々の罪業が余すところなく消滅する[19] など、数多く真言を唱えることで効果を発揮すると説かれている。空海も実践したと伝えられる「虚空蔵菩薩求聞持法」は、虚空蔵菩薩の真言を100日間ないし50日間で100万遍唱えるもので、修行が成就すれば抜群の記憶力と限りない智慧を獲得できるとされる[注 40]

唱え方には以下のものがある。

声生念誦 - 心の蓮華の上に法螺貝を観想しそこから声を出すように唱える。

蓮華念誦 - 自分の耳に唱える声が聞こえる。

金剛念誦 - 唇歯を合わせて舌端を少し動かして唱える。

三摩地念誦 - 舌も動かさず、心のみ念ずる。

光明念誦 - 口から光明を発しながら唱える。

読み癖・慣用音
ぎなた読み

真言陀羅尼は永らく意味を重視せず、口伝により慣用音を伝承してきたため、語句を梵語原文と異なる箇所で区切って読むいわゆる「ぎなた読み」で伝わっていることが少なくない。「オン・カカカビ・サンマエイ・ソワカ」、「オン・マヤラギラン・デイ・ソワカ」、「オン・ベイシラ・マンダヤ・ソワカ」など。
慣用音

経の翻訳においては玄奘以後五種不翻の原則ができ、とくに真言・陀羅尼は不可思議なる仏の秘密語であるがゆえに翻訳せず原音を漢字で音写した。玄奘らはサンスクリット語の発音を正確に表記するために苦心し、例えば『大般若波羅蜜多経』では、発音が似た三種類の「バ」すなわち「ba」・「bha」・「va」をそれぞれ「婆」・「薄」・「筏」と書き分け[注 41]、漢字二字で子音連結を示す記号や長母音を示す記号なども記し[注 42]、ときには新しい漢字を作ってまで音を写した。そのため、訳経年代の分る真言・陀羅尼は、その時代の漢字発音の索引ともなりうるほどである。しかし、それを筆写してゆくうちに誤字や脱字が生じ、さらに中国から発音の違う日本に入って来た際に読み方が著しく変化した。

日本に伝来した後も、読み方は口伝によるため同じ真言でも宗派や地域によって発音に相違が生じた。同じ宗派でも、弥勒菩薩の真言を「オン・バイタレイヤ・ソワカ」と発音したり「オン・マイタレイヤ・ソワカ」と発音したりする。他にも「曩莫(nama?)」を「ナウマク」「ノウマク」、「縛日羅(vajra)」を「バザラ」「バサラ」、「薩婆訶(sv?h?)」を「ソワカ」「ソモコ」「ソコ」と読むなど、様々な読み癖が存在する。明朝風様式を伝える「黄檗宗」では特に相違が著しく、例えば地蔵菩薩の真言は多くの宗派では「オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ」と発音するが、黄檗宗では「アン・ホホホ・ビサンモエイ・ソポホ」と発音する。
主な真言

真言は、経典によって違いがあり、同じ真言でも宗派によって読み癖が異なるため下記は一例である。どの発音が正しいというものではなく、各宗派ごとの伝承を尊重しなければならない。サンスクリット文も諸説ある。サンスクリット語の正確な発音をカタカナで表現することは不可能であるので、カタカナ表記は参考程度である[注 43]


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