2世紀以降にはパリッタ的な呪文を中心とする単独の除災経典が現れた。『般若経』、『法華経』、『華厳経』等には「陀羅尼」、「明呪」、「真言」等の呪文が説かれており、これらは瞑想における精神統一の手段として念誦されたり、悟りの智慧の表現として用いたり、あるいは『ヴェーダ』におけるマントラのような呪術的な目的で読誦されるなど、用途は様々である。 バラモン教やヒンドゥー教の呪術的な要素が取り入れられた初期密教では、『ヴェーダ』の形式を模した様々な仏教特有の呪文が作られた。当時は特に体系化されたものはなく、釈迦の説いた諸経典に呪文が説かれており、諸仏・過去七仏・弥勒をはじめとする無数の菩薩や、インドラ・ヤマ・ヴァルナ・ソーマなど『ヴェーダ』に登場する神々に帰依する呪文を唱えることで、守護・安寧・病患滅除などの現世利益を心願成就するものであった[注 27][注 28]。 3世紀に成立したと考えられる『持句神呪経』や4世紀前半に成立した『仏説大金色孔雀王呪経
初期密教
非アーリヤ部族及び低力ースト種族を仏教に同化していく過程で、彼らの女性もしくは地母神への信仰を採り入れたため、非アーリヤ部族や低力ースト種族の信仰する神や農業女神の名[注 31] が含まれるようになった。真言、陀羅尼に含まれるいくつかの語が語義不明なのは、以上のような歴史的背景があるためであると考えられている。 ヒンドゥー教の興隆に対抗するために体系化された中期密教では、釈迦が説法する形式の大乗経典とは異なる大日如来または大毘盧遮那仏 後期密教では性的儀礼などの特異な内容が含まれるため、中国本土の倫理観と相容れず、日本にも伝わらなかった。インドでの仏教滅亡後はチベット仏教にその名残をとどめている。 中国では仏教の伝播とともに道教の呪禁の法と融合し、相互に影響し合った。真言は三密(身・口・意)の中の口密に相当し、極めて重要な密教の実践要素となった。 真言は、日本では真言宗、天台宗、修験道、禅宗等で幅広く用いられる一方、最大勢力である浄土真宗では念仏を重視するため用いない。 真言や陀羅尼の多くは、呪句の前に「帰命句」と呪句の終末に「成就句」が加わるが、帰命句と成就句は存否一定しない。 真言の呪句は、仏尊の「種子」から成るもの、仏尊の「名」や「密号
中期密教
後期密教
中国密教
日本密教
チベット密教が望まれています。
ネパール密教が望まれています。
構成
陀羅尼の多くは、仏尊や三宝に帰依する宣言文+Tadyath?[注 33]+帰命句+本文+成就句で構成される。Tadyath?は、「即ち」、「曰く」などと訳される。陀羅尼の本文は、仏尊への呼びかけや賛嘆、誓願の動詞、土着の宗教に由来する意味不明な単語等を羅列したもので、長文であることが多い[注 34]。陀羅尼のTadyath?以後を真言として唱える場合や、陀羅尼の一部を抜き出して真言のように唱える場合もある[注 35]。
帰命句は、大きく分けると以下の二つに分類される。
namas系
o?
の形式があり、両者が併用される陀羅尼や真言もある。
「namas」は、サンスクリット語で「お辞儀する、敬礼する、崇拝する」を意味する動詞で、漢訳では「帰命」「敬礼」等と訳される。namasはサンディ(連声)のため、次にくる単語の最初の音によって「nama?(ナマハ)」や「namo(ナモー)」に変化する。漢訳経典では、「nama?」は「曩莫」・「納莫」等、「namo」は「曩謨」・「南無」等、namasは「南無悉」等と音写された。日本では宗派によって読み癖が異なるが、前者は「ノウマク」・「ナウマク」等、後者は「ノウボウ」・「ナモー」等と読まれる。
帰命句には、よく使われる定型文がある。
nama? samantabuddh?n?? ?(ノウマク・サマンダ・ボダナン・?)
nama? samantavajran?? ?(ノウマク・サマンダ・バザラダン・?)
namo ratna-tray?ya ?(ノウボウ・アラタンノウ・トラヤーヤ・?)
namo bhagavate ?(ノウボウ・バギャバテイ?)
など。詳細は「南無」を参照
「nama? samantabuddh?n?? ?」は、しばしば「o?」で代用される。 真言には多用されるいくつかの聖音が存在する。(中:中国慣用音、日:日本慣用音、チ:チベット慣用音、ネ:ネパール慣用音)
聖音
オーム(日:オン,チ:オン)
サンスクリット語の「o?」で、漢訳では「?」と書かれる。密教系では「オン」、禅宗では「エン」と読まれることが多い。真言の冒頭に用いて帰命の意をあらわす神聖な音で、末尾の「ソワカ」とともに多用される。本来はバラモン経の聖音で、ヴェーダを誦読する前後、また祈りの文句の前に唱えられるものであったが、仏教にも取り入れられ真言の頭首に置かれるようになった[注 36]。詳細は「オーム (聖音)」を参照
スヴァーハー(日:ソワカ,チ:ソーハー)
サンスクリット語の「sv?h?」で、漢訳では「薩婆訶」、「娑婆訶」「莎訶」等と書かれる。