看護師
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マリアン・コープは、米国で最初の総合病院を幾つか開設運営した聖フランシスの修道女で、彼女の設けた清潔基準が米国における近代的な病院体系の発展に影響を与えた[28]

1863年の赤十字国際委員会創設後に登場するようになった赤十字標章は、看護師に雇用と職業化(フローレンス・ナイチンゲールは当初これに反対した)の機会を提供した[29]。貧民救済修道女会、慈悲修道女会、マリアの宣教者フランシスコ修道会などのカトリック叙階が、この時期に病院を建設して看護奉仕を行なった[要出典]。次いで、1836年にドイツで近代的な教会の女子慈善奉仕運動 (deaconess movement) が始まった[30]。欧州では半世紀経たぬうちに教会の女子慈善奉仕隊が5000以上存在していた[31]

近代軍隊における看護師の正式な使用は、19世紀後半に始まった。第一次ボーア戦争、エジプト戦役(1882)[32]スーダン戦役(1883)[33]にて看護師の戦地赴任が確認されている。
20世紀第一次世界大戦当時のオーストラリアの看護師募集ポスター

病院を拠点とする養成訓練は1900年代初頭に登場し、実務経験を重視するものとなった。ナイチンゲール様式の学校は無くなり始めた。病院と医師は、看護する女性すなわち看護婦を無償または安価な労働源だと見なしていた。雇用者、医師、教育者による看護師の搾取は当時珍しいことではなかった[34]

多くの看護師の戦地赴任が第一次世界大戦で確認されているが、第二次世界大戦期に専門職へと移行した。陸軍の看護役務に就くイギリスの看護師はあらゆる海外戦役の一環として存在していた[35]。他のどの職業よりも大勢の看護師が米国陸軍および海軍での奉仕を志願した[36][37]。ナチス軍は独自の看護師(Brown Nurse)を40,000 強保有していた[38]。20数名のドイツ赤十字看護師が戦火での英雄行為を理由に鉄十字を叙勲された[39]

この時期には大学および大学院における看護学位の発展が見られた。看護研究の進歩および団体や組織に対する要望は、専門機関や学術誌の多種多様な形成をもたらした。明確な学問分野としての看護の認知向上は、実践に向けた基礎理論を定義する必要性も伴うものとなった[40]

19世紀および20世紀初頭は、医師が男性の職業であったように、看護が女性の職業と考えられていた。20世紀後半に職場の男女機会均等への機運が高まる中、公的には看護がジェンダー中立の職業となったが、実際のところ男性看護師の割合は21世紀初頭における女性医師の割合をも大きく下回っている[41][42]
職業として患者を診察するインドネシアの看護師火傷を負った患者を処置する看護師。ジガンショールのPAIGC病院、1973年

看護実践の権限は、職業上の権利と責任ならびに公的説明責任のメカニズムを示す社会契約に基づいている。ほぼ全ての国で、看護実践は法律によって定義および管轄され、看護師になる手段は国家(または自治体)レベルで規制されている。

国際的な看護機関の目的は、その職業に対して資格、倫理規定、基準、能力を維持し、教育を継続しつつ、あらゆる人に一定以上の質を備えたケアを保証することにある[43]。職業看護師になるための教育行程は各国で大きく異なるが、その全てが看護の理論および実践の広範な勉学だけでなく臨床技術の鍛錬を含むものである。

看護師は、各個人の身体的、感情的、心理的ほか各種のニーズに基づいて、健康および病状のある全年齢かつ様々な文化的背景を持つ個人に対して包括的なケアを行う。看護師はそれら個人へのケアに際して、自然科学、社会科学、看護理論、科学技術を組み合わせていく。

看護職で働くにあたり、あらゆる看護師が実践範囲と教育に応じた資格を1つ以上持っている。例えば日本では正看護師と准看護師が協働するが、両者のケア実践条件や免許には違いがある。正看護師が「医師の指示のもと」各種ケアを行うのに対し、准看護師は「医師または看護師の指示のもと」同内容のケアを行うことになる(業務範囲に差はないが、自らの判断による看護業務ができない)[44]。資格に関しても、看護師は厚生労働大臣から免許を受けるが、准看護師は都道府県知事からの免許を受けることになる[44]

この違いは、両者の資格要件や取得までの履修時間にも表れている。日本で看護師として働くには、高校を卒業したのちに「大学または3年以上の看護系教育」を受けて、看護師国家試験に合格する必要がある。免許取得前の教育では、人間を幅広く理解する能力、根拠に基づき計画的に看護を実践する能力、他職種と連携・協働していく能力など、看護師の実務で求められる能力を培うための教育が行われる[45]。一方、准看護師になるための最終学歴は中学卒業以上であり、そこから「2年以上の看護系教育」を受けて、地方自治体(都道府県)が行う准看護師試験に合格する必要がある[44]

看護師は医師の助手ではない。ある特定の状況ではそれも当てはまるが、看護師は患者の世話をしたり、他の看護師を補助することが多い[46]。 看護師はまた、医師が行う診断検査の手伝いをする。看護師は、ほとんど常に他の看護師と一緒に働いている。看護師は、要請された場合に救急処置や外傷治療にあたっている医師を補助する[47]
ジェンダー問題

雇用機会均等法にもかかわらず、多くの国で看護師は女性中心の職業であり続けている。WHOの2020年『State of the World's Nursing』によると、看護労働力の約90%が女性である[48]。例えば、カナダおよび米国では看護師の男女比率が約1:19であり[49][50]、この比率は世界中で見られる。特筆すべき例外として、フランス語圏のアフリカ諸国 (Francophone Africa) [注釈 2]では女性よりも男性の看護師が多い[51]。欧州では、スペイン、ポルトガル、チェコ、イタリアなどの国で看護師の20%以上が男性である[51]。なお、米国の男性看護師の数は1980年から2000年の間に倍増しており[52]、日本でも2008年から2018年までの直近10年間で男性看護師の数が倍増している(それでも男女比率は男性7.8%、女性92.8%)[53]。依然として女性看護師は一般的であるが、平均して男性看護師のほうがより多くの給料を受け取っているというデータもある[54]。2014年に日本において男性看護師の職能団体として全国男性看護師会が設立された。
マイノリティ問題

統計によると、米国では看護職の19.2%がマイノリティ(少数民族)の背景を持つ人々で、 残る80.8%が白人の特に女性で占められている[55]。看護分野において人種多様性が少ないと、多様人種の患者治療で困難が生じる可能性がある。



名義貸し問題

特に看護師が常に看護業務をする必要がある訳ではない福祉施設などでは書類上だけ看護師を所属させる、所謂「名義貸し」が一定数見られ、行政処分例も相当数存在する。また、看護師が常に看護業務を行う必要がある医療・介護施設でも看護師の設置基準を登録上だけでも守ろうと名義貸しに頼るケースがある。
活動範囲
日常生活動作の支援詳細は「日常生活動作」および「リハビリテーション」を参照

看護師は、看護ケアを管理および調整して日常生活動作(ADL)を支援する。多くの場合そうしたケアの提供は介助に携わる人達に委託される[注釈 3]。これには、ベッド内にいる活動耐性低下患者の移乗動作など患者の移動を介助することも含まれる。
医薬品

医薬品の処方権限は国や地域によって異なる。米国では多くの地域で、医師やナース・プラクティショナー(上級看護職,NP)といった処方権限を持つ専門家によって処方された薬をレジスタードナース(登録看護師,RP)が管理している。日本では、薬剤師が医師の処方箋に基づいて薬を調剤するため、看護師は患者に対して薬の服用後に副作用が現れたか等を尋ねたりする。

看護師には薬物の投与前後を含むケア全体で患者を評価する責務があり、処方者と看護師との協力的な取り組みを通じて医薬品の調整が行われることが多い。米国では、処方者に関係なく看護師は自分達の投薬する薬に対して責務があり、処方箋に間違いがある場合は看護師がそれに気づいて報告することが法的に期待されている。また、患者に有害の可能性があると思しき投薬を拒否する権利を有している[57]。日本では、指示簿など医師の指示に基づいて看護師が投薬することは認められているが、処方箋の疑義については調剤を行う薬剤師が事前に医師側へと照会することが法的に期待されている[58]


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