力学系の従属変数の個数すなわち相空間の座標の数は、相空間または力学系の次元と呼ばれる[22][23][24]。特に相空間は、状態変数が実数1つ(R1)のときには相直線と、状態変数が実数2つ(R2)のときには相平面と呼ばれることもある[25]。ポアンカレ・ベンディクソンの定理に代表されるように、相空間の次元と形状は軌道の形状に制限を与える[26]。一般的に、系が非線形でなおかつ高次元になるほど系の取り扱いが難しくなる[27]。状態の空間的に連続的に分布している偏微分方程式で記述されるような力学系では、相空間の次元は無限になる[28][29]。 一般的なレベルでの力学系(とくに位相力学系
種類
力学系の例として多いのは、システムの状態がいくつかの実数の組 (x1, x2, … xn) で表される場合で、空間としてはユークリッド空間 Rn あるいはその部分集合で考えられることが多い[24][37][12]。力学系の軌道は特定の多様体上に制限されていることもあり、より一般的には相空間は多様体となる[24][38][39]。多様体に制限することで、それぞれの多様体が持つトポロジカルな性質を利用することもできる[40]。上記の単振り子の例でいえば、角速度 ω は単に実数だが、振れ角 θ の定義域は −π < θ ≤ π であり、これは幾何学的には円周と同一視できる[41][42][6]。したがって、単振り子の系の相空間は、円周 S1 または T1 と直線 R の直積集合で、幾何学的には無限に長い円柱面となる[43][41][42][6]。ただし、いくつかの注意を払えば、相空間を Rn あるいはその部分集合と仮定しても多くの場合で一般性は失われない[24][44]。ロトカ・ヴォルテラの方程式における相平面上のベクトル場と軌道の様子
可微分力学系では相空間は微分構造を持ち、ベクトル場で定まる連続力学系がその典型例である[45]。状態変数を x = (x1, x2, … xn) ∈ X ⊂ Rn、時間を t ∈ R とする。力学系が n 連立一階微分方程式 d x k d t = f k ( x 1 , ⋯ , x n ) {\displaystyle {\frac {dx_{k}}{dt}}=f_{k}(x_{1},\cdots ,\ x_{n})} (1 ) で与えられるとき (k = 1,… n)、相空間上の各点にはベクトル f (x): X → Rn が対応する[46]。このとき、f (x) は解曲線の接ベクトルに一致し、各点が時間経過したときに動く方向と大きさを表す[47][48]。 測度論的力学系
X ∈ F
A ∈ F ならば Ac ∈ F
A1, A2,… ∈ F ならば ∪∞
i=1 Ai ∈ F
を満たすσ-集合体 F が存在し、A ∈ F に対して、
μ(A) ≥ 0 かつ μ(X) = 1
A1, A2,… ∈ F が互いに素ならば μ(∪∞
i=1 Ai) = ∑∞
i=1 μ(Ai)
を満たす確率測度 μ が与えられる[49][50]。さらに
A ∈ F ならば T−1A ∈ F
μ(A) = μ(T−1A)
を満たす保測写像 T を組にして測度論的力学系が成立する[49]。
記号力学系では、相空間 X は記号列の集まりとなる[51]。記号が2種類から成り、記号列が両側無限列であるような場合、記号列 x は x = { ⋯ , a − 2 , a − 1 , a 0 , a 1 , a 2 , ⋯ } {\displaystyle x=\{\cdots ,\ a_{-2},\ a_{-1},\ a_{0},\ a_{1},\ a_{2},\ \cdots \}}
で与えられる[51]。ここで、ai は記号 1 または 2 のいずれかを取る[51]。この場合の相空間 X は全ての記号列 x の集合で[51]、しばしば Σ とも記す[52][53][54]。さらに、異なる x 同士の距離を定義し、x に適用すると記号を一斉に左にずらす働きをするシフト写像 σ を用意し、記号力学系を構成する[55]。 式 (1) のような f が時間 t を陽に含まない微分方程式系は自律系と呼ばれる[56]。自律系の微分方程式系は、現在の状態 x のみで次の状態が定まるという力学系の決定論的な考え方と合致する[57]。
拡大相空間