可微分力学系では相空間は微分構造を持ち、ベクトル場で定まる連続力学系がその典型例である[45]。状態変数を x = (x1, x2, … xn) ∈ X ⊂ Rn、時間を t ∈ R とする。力学系が n 連立一階微分方程式 d x k d t = f k ( x 1 , ⋯ , x n ) {\displaystyle {\frac {dx_{k}}{dt}}=f_{k}(x_{1},\cdots ,\ x_{n})} (1 ) で与えられるとき (k = 1,… n)、相空間上の各点にはベクトル f (x): X → Rn が対応する[46]。このとき、f (x) は解曲線の接ベクトルに一致し、各点が時間経過したときに動く方向と大きさを表す[47][48]。 測度論的力学系
X ∈ F
A ∈ F ならば Ac ∈ F
A1, A2,… ∈ F ならば ∪∞
i=1 Ai ∈ F
を満たすσ-集合体 F が存在し、A ∈ F に対して、
μ(A) ≥ 0 かつ μ(X) = 1
A1, A2,… ∈ F が互いに素ならば μ(∪∞
i=1 Ai) = ∑∞
i=1 μ(Ai)
を満たす確率測度 μ が与えられる[49][50]。さらに
A ∈ F ならば T−1A ∈ F
μ(A) = μ(T−1A)
を満たす保測写像 T を組にして測度論的力学系が成立する[49]。
記号力学系では、相空間 X は記号列の集まりとなる[51]。記号が2種類から成り、記号列が両側無限列であるような場合、記号列 x は x = { ⋯ , a − 2 , a − 1 , a 0 , a 1 , a 2 , ⋯ } {\displaystyle x=\{\cdots ,\ a_{-2},\ a_{-1},\ a_{0},\ a_{1},\ a_{2},\ \cdots \}}
で与えられる[51]。ここで、ai は記号 1 または 2 のいずれかを取る[51]。この場合の相空間 X は全ての記号列 x の集合で[51]、しばしば Σ とも記す[52][53][54]。さらに、異なる x 同士の距離を定義し、x に適用すると記号を一斉に左にずらす働きをするシフト写像 σ を用意し、記号力学系を構成する[55]。 式 (1) のような f が時間 t を陽に含まない微分方程式系は自律系と呼ばれる[56]。自律系の微分方程式系は、現在の状態 x のみで次の状態が定まるという力学系の決定論的な考え方と合致する[57]。一方で、以下のように t を陽に含む微分方程式系は非自律系と呼ばれる[58]。 d x k d t = f k ( x 1 , ⋯ , x n , t ) {\displaystyle {\frac {dx_{k}}{dt}}=f_{k}(x_{1},\cdots ,\ x_{n},\ t)} (2 ) 非自律系では x = (x1, x2, … xn) を定めても、ベクトル f (x) は一つに定まらず、時間によって変化する[59]。非自励系について相空間(x が定義されている空間)上で軌道を考えると、自励系とは異なり軌道が交差し得る[60]。 そこで、元の状態変数 x に時間 t を加えた組 (x, t) を座標とする空間 X × R を考える[59][61]。t を形式的に n + 1 番目の状態変数 xn + 1 ∈ R と見なせば、 { d x k d t = f k ( x 1 , ⋯ , x n , x n + 1 ) d x n + 1 d t = 1 {\displaystyle {\begin{cases}{\dfrac {dx_{k}}{dt}}=f_{k}(x_{1},\cdots ,\ x_{n},\ x_{n+1})\\{\dfrac {dx_{n+1}}{dt}}=1\end{cases}}} (3 ) という風に自律系の n + 1 連立一階微分方程式に帰着でき、空間 X × R 上の各点には方程式の右辺を成分とするベクトルが一意に定まる[59][61]。元の n 次元相空間 X と区別し、このような n + 1 次元空間 X × R は拡大相空間(英: extended phase space)と呼ばれる[59][61]。拡大相空間で考えることによって軌道の交差が無くなるので、系の振る舞いを考察しやすくなる[62]。 非自律系が時間に関して周期的な場合、すなわち式 (2) において fk(x1,…, xn, t) = fk(x1,…, xn, t + τ) を充たすような定数 τ ∈ R が存在する場合、拡大相空間は X × R よりも X × T1 の空間で考える方が適する[63]。
拡大相空間
Size:62 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
担当:undef