直通運転
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また、信号方式や保安装置ATSATC等)、列車無線の通信方式などが異なる場合、すべての事業者に対応できるよう同じ機能を異なる方式で複数搭載する必要が発生する。場合によっては、これらの設備を直通事業者間で統一した上で直通運転を行うこともある[注 4]

非常時の救援に備え、連結器も各者で共通化することが理想ではあるが、困難な場合は異なる連結器同士をつなぐための中間連結器を車両側および地上側に常備するが、あるいは専用の牽引用車両を用意することもある。

なお、一部の車両のみを直通運転に対応させ、残りの車両は直通運転させず自社線内のみを運行させるという方法も採られている[注 5]
業務の取り扱い

直通運転においては、乗務員や駅員などの係員の業務の取り扱いも定める必要がある。

乗務員(運転士車掌等)の列車への乗務は大きく2つの方法に分けられ、具体的には、それぞれの事業者の乗務員が自事業者の管轄する区間のみを乗務し境界駅交代する方式と、それぞれの事業者の乗務員が自事業者の車両に乗務し、相手方の路線まで通して運行する方式とである。前者の方式では、各乗務員が相手の事業者の車両の操作に習熟することと、境界駅での乗務の引き継ぎの方式を定めることとが必要となる。後者の方式では、各乗務員が相手の事業者の区間の路線の特徴や取り扱い方式などに習熟することが必要となる。日本においては、両方の方式が用いられてきたが、後者の方式をとった路線において阪急神戸線六甲駅列車衝突事故および信楽高原鐵道列車衝突事故といった重大事故が発生したことから、多くの路線において前者の方式へ切り替えられた。境界駅はそのまま通り越して、相手方の駅で交代する方式もある。阪神なんば線近鉄奈良線(阪神単独駅の桜川駅で交代)や、北陸新幹線(JR東日本単独駅の長野駅で交代)などが挙げられる。

また、運転指令においては直通事業者同士で緊密な連携が必要となるほか、境界駅での駅業務の管轄、各駅での連絡乗車券類の発売、乗り入れ先での拾得物取扱いなどについても定められる[注 6]
車両使用料・線路使用料「車両使用料」および「線路使用料」も参照

直通運転では、複数の事業者(会社)がそれぞれの区間を互いの車両によって運行するため、何らかの方法で経費の精算または相殺を行う必要がある。日本においては、ほとんどの場合線路などの施設の保有・車両の保有と列車の運行のすべてを区間ごとに一つの事業者が担う形態で運営されていることから、各事業者が直通相手の事業者に車両を貸し出して運行するという形を取っており、この際に車両使用料を収受することになる。実際には、双方の支払うべき車両使用料が同じになるよう調整し、支払いを相殺することがよく行われる[4]。このため、時として相手方の路線内だけを往復する運用や運用の持ち替えが見られる。かつては走行キロの貸し借りで精算をしていたが、税務上物々交換は適切でないとのことで、現在は1車1キロ走行あたりの車両使用料を算出するようになり、毎月の走行距離の車両使用料に消費税額を加えたものを相手会社に支払うことで、会社間で料金のやり取りをしている[5]

一方、施設を保有している会社と車両を保有し列車を運行する会社が異なる場合には、運行会社が保有会社に対して線路使用料を支払う形になる。
線路使用権

日本国外においては、列車を運行する会社が他社の鉄道路線を走行する契約を線路使用権(せんろしようけん)ということがある。この契約では、前者が後者のどの区間で運行し、営業を行うかが子細に定められる。前者は後者の路線を走行するが、貨客を問わず営業はしない契約形態もあり、それをオーバーヘッド・トラッケージ・ライト (Overhead trackage rights) またはインシデンシャル・トラッケージ・ライト (Incidental trackage rights) という。時には、後者は自社での運行を取りやめ、前者の列車のみが運行されることがある。これは、路線の一部をリースさせているのと同義となる。

線路使用権は、必要に応じて一時的な契約であったり、長期に及ぶ場合もある。一時的に線路使用権を設定するときの例としては、災害により自社路線が被災した場合に、被災していない平行他社路線を使用して列車を運行する、というものがある。長期契約の例としては、他社路線を使用したほうが利益が高くなる場合や、他社路線を使用すると短絡できる場合がある。
日本における直通運転

日本における直通運転は、大都市の地下鉄が郊外への私鉄路線と直通運転するものや、JR国鉄から経営分離された第三セクターがJRと直通運転するものなどが代表的である。大都市においては、運輸大臣の諮問機関である運輸政策審議会(現在の国土交通大臣の諮問機関交通政策審議会に相当)の答申により、路線建設時には直通運転を前提として計画がなされる。

日本において特徴的な直通運転の形態としては、都心部にターミナル駅を持つ私鉄と地下鉄とが直通する際に、ターミナル駅そのものではなく、数駅郊外側の駅で地下鉄の路線と接続して直通しているというものがあり、東京や大阪などで例が見られる。

また、同一事業者内ではあるが、東京や大阪のJRでは複数の路線間で直通運転を行っており、都心部をまたいだ一体的な列車運行や、広域的な中距離列車の運行がなされている。代表的な例としては東京の中央・総武緩行線上野東京ライン、大阪のJR東西線学研都市線などが挙げられる。
日本における直通運転の歴史

直通運転の歴史は明治時代に遡る。1950年代以前にも奈良電気鉄道(→近鉄京都線)と近畿日本鉄道奈良線橿原線、および奈良電と京阪神急行電鉄京阪線(→京阪電気鉄道)などの異事業者での直通運転はあったが、本格的に異事業者間で直通運転開始をしたのは高度経済成長期全盛の1960年代に入ってからである。

民鉄と地下鉄との相互乗り入れ黎明期は営団地下鉄日比谷線のように各駅停車による直通運転を原則としていた。地下鉄に民鉄の優等列車が定期列車で初めて乗り入れたのは京成電鉄1964年10月1日ダイヤ改正で都営地下鉄浅草線に通勤準急(現在廃止)を乗り入れさせたのが最初である[6]

ただし、かつては同一会社の路線が別会社に分割されて新たに直通運転となった例や、これとは逆に、かつては別会社同士の直通運転だったものが、同一会社の路線となり直通運転でなくなった例も存在する[注 7]。この他にも、一旦は直通運転を廃止したものの、運営形態の変更により営業上および書類上は再び直通運転となった例もあり[注 8] また、車両の譲渡などの理由により、それまで片乗り入れだったものが相互乗り入れに変更された例もある[注 9]
日本における直通運転の年表

1904年明治37年)4月5日東武亀戸線が開業。亀戸駅を介して総武鉄道線(現・JR総武本線)両国橋駅(現・両国駅)まで直通運転を開始。

1910年(明治43年)3月27日:東武亀戸線 - 総武本線の直通運転を廃止。

1925年(大正14年)3月11日:京浜電鉄東京市電の相互直通運転を開始。京浜は北品川駅北方より市電品川線を経由して分岐し(京浜)高輪駅へ、市電は北品川駅へ乗り入れた。

1926年大正15年

4月1日愛知電気鉄道豊橋線(後の名鉄名古屋本線名鉄小坂井支線)が部分開業。小坂井駅を介して豊川鉄道豊川駅まで直通運転を開始。

9月1日黒野駅を介して谷汲鉄道美濃電気軌道北方線(後の名鉄揖斐線忠節駅まで直通運転を開始。


1928年昭和3年)10月1日碧海電気鉄道(現・名鉄西尾線西尾以北)が全線開業。西尾駅を介して愛知電気鉄道西尾線(現・名鉄西尾線西尾以南)吉良吉田駅まで相互直通運転を開始。

1929年(昭和4年)10月27日:参宮急行電鉄本線(現・近鉄大阪線)が部分開業。桜井駅を介して大阪電気軌道桜井線と直通運転を開始。

1931年(昭和6年)4月1日知多鉄道(現・名鉄河和線)が部分開業。


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