直流電化
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シリコン整流器の一部のダイオードをサイリスタに置き換えることにより水銀整流器同様に位相制御をして電圧調整をしたり、電力回生制動に用いたり、定格出力以上で電圧を下げる垂下特性を実現することができる。

サイリスタ位相制御の一部分を抜き出した回路に近く、位相制御と整流が別になったサイリスタ混合ブリッジ回路と、ダイオードブリッジをサイリスタに置き換えて位相制御と整流を同時に行うサイリスタ純ブリッジ回路の2種類が存在するのも同様である。

回生制動が可能になったが、他に力行車両がない場合は回生失効するので、大落差降坂などの回生電力を確実に消費させるためには回生電力吸収装置とトロリ線(陽極)とレール(負極)との間にGTOチョッパと抵抗器を直列に接続して、回生電力を抵抗器で消費させるサイリスタチョッパ抵抗や、直流変電所に回生電力を電源側に送り返すサイリスタインバータが必要になる[注釈 2]

パルス幅変調整流器と共に、VVVFインバータと併用した場合両者をまとめて、Converter・Inverterの頭文字からCI装置や主変換装置と称する。
パルス幅変調整流器

マイコンによりPWM(Pulse Width Modulation=パルス幅変調)で制御されるサイリスタやトランジスタのブリッジ回路で構成される。回生制動時は単相交流を出力するPWMインバータとして機能するのがこの方式の特徴である。とくにIGBT素子の性能向上とコンピュータによるきめ細かな制御により整流時は脈流の低減、また回生制動時は高調波の少ない交流を安定して出力できるため交流電化区間での回生制動も積極的に行われるようになり、現在の主力となる。PWMコンバータと称するのが一般的。

GTOサイリスタやIGBTにダイオードを1つずつ逆並列に接続して還流ダイオードとし、これを2個直列、それをさらに2組並列接続したものである。実際には電力回生時の高調波低減のためこれらのスイッチング素子と大容量コンデンサとの組を2つ直列接続して中間電圧を作成し、マイコンによって各整流器間で90度の位相差制御をすることで0 %、50 %、100 %の3段階の電圧を生成する3レベル方式が主流である。
整流回路

3相センタータップ結線相間リアクトル付2重星形結線6陽極水銀整流管略図例単相ブリッジ回路Y?Δ重畳12相整流

センタータップ式

整流回路は、水銀整流器に陰極共通の3相 - 6相用水銀整流器が使われ、その陰極付属設備は相互絶縁が必要なのでそれを一本化したいことから、トランスとの接続回路は逆極性の巻線の半波整流を合成して全波整流(両波整流)とする「センタータップ式全波整流」が基本とされた。さらに巻線の流通角が小さく非効率な欠点があり、次項の改良をして多用した。半波整流ではトランス鉄心に直流磁化を生じて変圧に支障を来すのに対し、センタータップだと磁化方向を相殺するので必須の接続である。
相間リアクトル付2重星形結線

センタータップ接続整流は流通角が小さくトランス巻線の利用率が悪く大型化させるので、巻線をセンタータップ部で分離し相間リアクトルを挿入してその中央から直流を得ることでトランス各巻線の流通角を大きくして実効容量低下を抑えている。この接続を特に「相間リアクトル付2重星形結線」と呼んで三相交流を水銀整流器で整流する際の標準的結線となった。三相交流では6相式(6パルス式)となる。
ダイオード・ブリッジ式

シリコン整流器に換わると、当初は水銀整流器を置き換えただけの「相間リアクトル付2重星形結線」で使ったが、水銀整流器のような複雑な陰極付属設備が要らないため整流器を「ブリッジ接続全波整流」としてトランス巻線の単純化を図った。三相交流では6相(6パルス)式となる。
12相式

リップル(脈動)分を小さくするため、特に大出力変電所では三相交流をそのまま全波整流して6相整流するのではなく、3相Y結線とΔ結線の巻線を組み合わせて位相差30度の交流を作ってそれぞれ整流して直列、或いは並列に重畳し合計12相(12パルス)整流とすることで脈動周波数を2倍に、脈動振幅を4半分以下にした。
平滑リアクトルと高調波フィルター

整流回路で整流された電流は脈流であり、そのままでは直流モータに適さない。そのため平滑リアクトルを直列に挿入してリップル(脈動)分を阻止した後、電車線へ向けて送電される。

平滑リアクトルはリップル周波数に比例してインピーダンスが大きくなるため、同じリップル電圧に抑えようとする場合、リップル周波数が高いほうがサイズの小さなリアクトルを使用できる。6相整流と12相整流を比べるとリップル電圧は4半分より更に小さくなり、リップル周波数は倍になるので12相方式は脈動抑制に大変有効である。

更にリップル分による通信線への障害軽減のため、平滑リアクトルの負荷側に直列共振による高調波フィルター群を設置して脈動分を短絡している。

6相式で基本周波数の6倍、12倍、18倍、24倍の高調波(50 Hz系で300 Hz×N、60 Hz系で360 Hz×N)を、12相式で基本周波数の12倍、24倍の高調波(50 Hz系で600 Hz×N、60 Hz系で720 Hz×N)を直列共振回路で短絡している。しかし負荷側である電車線のインピーダンスが極めて低いためか実際にはあまり有効に機能していない様であり、撤去が検討される場所もあり、逆に誘導障害が現れれば現フィルター後段にもう1段の逆L型LCフィルターが必要になる。

電鉄変電所フィルター例

フィルター定数例
平滑リアクトル=0.56mHL [mH]C [μF]fr [Hz]50 Hz比
2.3122300.56.0
2.8525596.211.9
1.2624915.218.3
0.93161,304.726.1

国鉄型6?12相整流フィルター
日本国有鉄道規格JRS31735-2G-14AR
電力濾波器(直流1500V用)
平滑リアクトル=1.1?1.3mH、
+150%負荷で1.0?1.2mH
(回路例と比べ24次吸収LCが無い)\次
数L [mH]C
[μF]実効
抵抗 Ω定格
電流 A
50 Hz60 Hz
6相61.20.82240≦0.0780
120.40.27180≦0.1020
180.250.18120≦0.1520

12相120.40.27180≦0.1040

鉄道車両への送電「直流饋電方式」および「第三軌条方式」も参照

直流変電所からは故障時の電流を遮断可能な高速度遮断器を通じ、饋電線へ直流電力を供給する。特徴的なのは電気機関車や超大編成の電車の場合、一編成で消費する電流がきわめて大きく(2000 Aにも達する)、故障時の電流と区別がつきにくいことから電流変化率により遮断するΔI形故障選択装置や故障箇所の直近両端の変電所からの送電を停止する連絡遮断装置を設ける[2]
採用事例

以下に、各国での採用例の一覧を挙げる。ただし、路面電車、ライトレール、およびそれに準じる規格の鉄道は除いた。英語版のen:List of current systems for electric rail tractionを参考にした。

国および地域名電圧(V)集電方式事業者もしくは路線備考
中華人民共和国1500架空線式香港MTR上海地下鉄広州地下鉄大連地下鉄3号線
インド750第三軌条式コルカタ地下鉄
1500架空線式ムンバイ近郊鉄道
日本600第三軌条式(後述)
750第三軌条式(後述)
1500架空線式(後述)
朝鮮民主主義人民共和国3000架空線式
大韓民国1500架空線式ソウル釜山仁川大邱光州大田の地下鉄
シンガポール750第三軌条式SMRTシンガポール地下鉄
1500架空線式SBSトランジット 北東方面路線
台湾中華民国)750第三軌条式台北捷運高雄捷運台中捷運
タイ王国750第三軌条式BTS(高架鉄道)、バンコク・メトロ
南アフリカ共和国3000架空線式
オーストリア750第三軌条式ウィーン路線網(ウィーン地下鉄
ベルギー3000架空線式ベルギー国鉄国内標準
チェコ750第三軌条式プラハ地下鉄
1500架空線式2路線のみ
3000架空線式鉄道施設管理公団(S?DC)北部国鉄路線
デンマーク750第三軌条式コペンハーゲン地下鉄
1650架空線式コペンハーゲン近郊(Sバーネ)
イギリス750第三軌条式ロンドン南郊ほか


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