監査等委員会設置会社の定めの新設は定款変更であるから、株主総会の特別決議によらなければならない(309条2項11号・466条)。
登記事項は以下の通りである(911条3項22号)。 監査役会設置会社と対比した場合、監査等委員会設置会社には以下の利点が挙げられる。 一方、以下の欠点も挙げられる。 2015年(平成27年)5月の導入以降、監査等委員会設置会社へ移行した企業は地域を問わず急増している。2か月後の7月時点で早くも190社程度が移行を表明[10]、2016年(平成28年)6月末の株主総会シーズン後には600社前後に達した。これは上場会社全体の約2割に相当する規模である[11]。 ここまで急速に本制度が広まった最大の理由は、改正会社法が施行された1か月後の2015年(平成27年)6月1日に運用開始された東京証券取引所の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)[12]である。「原則4-8. 独立社外取締役の有効な活用」にて、以下のような定めがある。独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示すべきである。 東証は本指針運用開始後最初に開催する定例株主総会の日から6か月を経過する日(多くの場合12月末となる)までに「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の提出を求め、当該原則を実施しない場合にその理由を記載しなければならないとした[13]。更に改正会社法は、有価証券報告書提出会社が社外取締役を置いていない場合に、置くことが相当でない理由を定時株主総会で説明する義務を取締役に課した(327条の2
監査等委員会設置会社である旨
監査等委員である取締役及びそれ以外の取締役の氏名
取締役のうち社外取締役であるものについて、社外取締役である旨
重要な業務執行の決定の取締役への委任についての定款の定め(399条の13第6項)があるときは、その旨
採用の利点と欠点
監査役の任期が4年であるのに対し、監査等委員である取締役の任期は2年であるため、より柔軟な改選が可能となる。
従来取締役会で議決権を行使できなかった社外役員(社外監査役)が、取締役会で議決権を行使できるようになり、ガバナンス強化に資する。
業務執行に関する迅速な意思決定ができるようになる。
従来の社外監査役を横滑りで監査等委員の社外取締役とすることは禁じられていないため、これにより成立要件を簡単に満たすことができる。
コーポレートガバナンス・コードの要求を満たすにあたり、社外役員数が2名少なくて済む(後述)。
株主総会における「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明が不要になる(後述)。
社外取締役の確保が困難な可能性がある。社外取締役は社外監査役よりも求められる責任が重く、社外監査役が横滑り就任を承服しない可能性があるからである。
社外監査役には従来、監査に特化した専門知識を有する者が就くことが期待されており、弁護士や公認会計士などが選ばれるケースも多かった。社外取締役には必ずしも監査に関する専門知識だけが要求されるわけではなく、こうした高度な資格を有する者が選ばれにくくなる。
批判
指名委員会等設置会社と異なり執行役が存在せず、業務執行機能と監督機能の分離がない。従来の監査役会が監査等委員会に取って代わり、監査等委員である取締役が取締役会で議決権を行使することは、自己監査につながる。従前の監査役会設置会社よりも監査機能が低下するという指摘もある[5]。ただし、自己監査の問題は監査委員である取締役が取締役会に参加する指名委員会等設置会社においても共通する問題である。また代表執行役や執行役が取締役を兼務する指名委員会等設置会社も2018年現在において少なくない。
従来の監査役会設置会社とは異なり、常勤の監査役の設置が義務付けられていないこと、および監査等委員は独任制でなく監査等委員会の決定に従わなければならないことも問題視されている[6]。なお指名委員会等設置会社も共通の問題を抱えている。
アメリカでは三委員会の機関構成が当たり前であり、人事及び報酬への社外役員の関与を避けるような本制度は見劣りするものである。指名委員会及び報酬委員会を伴わない本制度はコーポレート・ガバナンス上問題があるとして、監査等委員会設置会社への移行に海外の機関投資家が反対するケースが見受けられる[7]。ただし、監査等委員会設置会社および監査役会設置会社では任意に諮問機関として指名委員会や報酬委員会、両方の機能を合わせた指名・報酬委員会の設置が可能である。
グローバル化の潮流で社外取締役の導入を推進しているにもかかわらず、結果として日本独自のガラパゴス制度が出来上がっているとも言われている[8]。
前述のとおり、監査等委員会設置会社のみ利益相反取引について有利な取り扱いがなされている。しかし、これは政策的なものであって、特に理論的な根拠はないと考えられている[9]。
採用状況
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 会社法で要求されているのは、社外取締役を「置くことが相当でない」理由であって「置く必要がない」理由ではない点に注意が必要である。それゆえ「社外監査役が2名いること」等の説明は「相当でない」理由たり得ない。
出典^ ⇒ファンドがオプトの監査等委員会移行に反発(2016年3月22日、東洋経済Online)
^ ⇒監査等委員会設置会社の概要と導入状況 (PDF) (2015年10月、清和監査法人)
^ 監査等委員会設置会社の創設とその課題
^ 法務省だよりVol.47(2014年11月、法務省大臣官房秘書課広報室)
^ ⇒「監査等委員会」制度の5月施行で実務上の利点は何か(2015年1月23日、法と経済のジャーナル Asahi Judiciary)
^ ⇒ビジネス法務の部屋 (2015年1月30日、山口利昭)
^ ⇒昭文社の監査等委員会設置会社への移行に反対=RMBキャピタル〔BW〕(2016年6月10日、時事ドットコムニュース)
^ ガラパゴス化する日本のコーポレート・ガバナンス?なぜ今、海外投資家が懸念するような独自の制度を?(2016年3月23日、現代ビジネス)
^ 伊藤靖史他『LEGALQUEST会社法 第3版』有斐閣、2015年、p214。
^ ⇒監査役会設置会社という「選択」(2015年7月21日、日経ビジネスONLINE)
^ ⇒「監査等委設置会社」移行、600社に 上場企業の2割(2016年4月25日、日本経済新聞)
^ ⇒コーポレートガバナンス・コード (PDF) (2015年6月1日、日本取引所グループ)
^ ⇒コーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載要領 (PDF) (2015年10月改訂、日本取引所グループ)
参考資料
会社法(平成十七年法律第八十六号).e-Gov法令検索. 総務省行政管理局
⇒監査等委員会設置会社の選択可能性 改正会社法に示された新たな機関設計の選択肢に係る検討課題(新日本有限責任監査法人 情報センサー2014年8月・9月合併号 押さえておきたい会計・税務・法律)
監査等委員会設置会社について (PDF) (太陽有限責任監査法人マネジメント・リポート)
⇒会社法改正と実務のポイントC(監査等委員会設置会社) (PDF) (プラス事務所 PLUS Report 5月号)