発酵
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ミオグロビンやレグヘモグロビンの成分は、肉からではなく、発酵槽から得られるにもかかわらず、こうした特性を再現することができる[25][26]
酵素

工業的発酵(英語版)は、酵素の生産にも利用することができ、触媒活性を持つタンパク質が微生物によって産生・分泌される。発酵プロセス、微生物工学、および組換え遺伝子技術の開発により、さまざまな酵素が商業的に製造されるようになった。酵素は、食品(乳糖除去(英語版)、チーズ風味)、飲料(ジュース製造)、製パン(パンの軟化、生地の調整)、動物飼料洗剤(タンパク質、デンプン、脂質の汚れ除去)、繊維、パーソナルケアパルプ・製紙など、あらゆる産業分野で使用されている[27]
工業的生産の方式

ほとんどの工業的発酵(英語版)は、バッチまたはフェッドバッチ(流加回分)の工程が用いられているが、さまざまな課題、特に無菌状態を維持する難しさを解決できるなら、連続発酵の方が経済的な場合もある[28]
バッチ型

バッチプロセスでは、すべての原料が一度に組み合わされて、追加の投入なしで反応が進行する。バッチ発酵(batch fermentation)は、何千年もの間、パンやアルコール飲料の製造に使用されており、特にそのプロセスがよく理解されていない場合には、今でも一般的な方法である[29]:1。しかし、バッチとバッチとの間で高圧蒸気で発酵槽を殺菌しなければならないため、費用が高くつくことがある[28]。厳密には、pHを制御したり、泡立ちを抑制するために、しばしば少量の化学物質が添加される[29]:25。

バッチ発酵は、いくつかの段階からなる。細胞が環境に適応する遅滞期(lag phase、ラグフェーズ)があり、その後、指数関数的成長期が続く。多くの栄養素が消費されると増殖は鈍化し、指数関数的ではなくなるが、二次代謝産物(商業的に重要な抗生物質や酵素が含まれる)の生成は加速する。栄養素がほとんど消費された後も、定常期を通じてこの状態が続き、その後に細胞は死滅する[29]:25。
フェッドバッチ型「流加培養」も参照

フェッドバッチ発酵(fed-batch fermentation、流加培養)はバッチ発酵の変形で、発酵中に一部の原料が追加される。これにより、プロセスの段階をより細かく制御できるようになる。特に、非・指数関数的成長期に限定量の栄養素を追加することによって、二次代謝産物の生産量を増加させることができる。フェッドバッチ法は、しばしばバッチ法と併用される[29]:1[30]
オープン型

バッチとバッチの間で、発酵槽の殺菌にかかる高い費用は、汚染に強いさまざまなオープン型発酵法(open fermentation)を使用することで回避できる。一つは、自然に進化した混合培養を使用することである。混合個体群は多種多様な廃棄物に適応できるため、特に廃水処理に適している。好熱性細菌は、微生物汚染を防ぐのに十分な約50 °Cの温度で乳酸を生産することができ、エタノールはその沸点(78 °C)をわずかに下回る70 °Cで生産されるため、抽出が容易である。好塩性細菌は、高塩性条件下でバイオプラスチックを生成することができる。固体発酵は、固体の基質に少量の水を加えるもので、食品産業でフレーバー、酵素、有機酸を生産するために広く利用されている[28]
連続型

連続発酵(continuous fermentation)は、基質が連続的に追加され、最終生成物が連続的に除去される[28]。栄養レベルを一定に保つケモスタット(英語版)(恒成分培養)、細胞量を一定に保つタービドスタット(英語版)(濁度調節型連続培養)、培地がチューブ内を安定的に流れ、細胞が出口から入口へと再利用されるプラグフローリアクター(英語版)(栓流培養)の3種類がある[30]。プロセスがうまく機能すれば、供給物と排出物の安定した流れができ、バッチ処理を繰り返す手間と費用を避けられる。これにより、反応を阻害する副生成物を連続的に除去し、指数関数的成長期を延長することができる。しかし、汚染を回避し、定常状態を維持し続けることは容易でなく、設計も複雑になりやすい[28]。連続型をバッチ型よりも経済的にするには、通常、発酵槽を500時間以上、連続稼働させる必要がある[30]
発酵利用の歴史詳細は「発酵食品」を参照

発酵の、特に酒類への利用は新石器時代から存在し、中国の賈湖(Jiahu)(英語版)では紀元前7000年から6600年頃にかけて[31]、インドでは紀元前5000年、アーユルヴェーダには多くの薬用ワインが言及され、ジョージアでは紀元前6000年[32]古代エジプトでは紀元前3150年[33]バビロンでは紀元前3000年[34]、古代メキシコでは紀元前2000年[34]スーダンでは紀元前1500年の記録がある[35]。発酵食品はユダヤ主義やキリスト教的信仰(英語版) において宗教的な意味を持っている。バルト海の神(英語版)ルグティス(Rugutis)は、発酵を司る神として崇拝されていた[36][37]錬金術では、発酵(「腐敗」)は磨羯宮(まかつきゅう、、??)によって象徴化されていた。研究室でのルイ・パスツール

1837年、シャルル・カニャール・ド・ラ・ツール(英語版)(Charles Cagniard de la Tour)、テオドール・シュワンフリードリヒ・トラウゴット・キュッツインクの3人はそれぞれ論文を発表し、顕微鏡による調査の結果、酵母は出芽によって繁殖する生物であると結論づけた[38][39]:6。シュワンはブドウ果汁を煮沸して酵母を死滅させ、新しい酵母を加えるまで発酵が起こらないことを発見した。しかし、アントワーヌ・ラヴォアジエを含む多くの化学者は、発酵を単純な化学反応と見なし続け、生物が関与している可能性があるという考えを否定した。これは生気論(生物に関する信念)への回帰と見なされ、ユストゥス・フォン・リービッヒフリードリヒ・ヴェーラーによる匿名の出版物で揶揄(やゆ)された[4]:108?109。

転機となったのは、ルイ・パスツール(1822-1895)が1850年代から1860年代にかけて、シュワンの実験を繰り返した一連の研究で、発酵が生物によって起こされることを示したことである[22][38]:6。1857年、パスツールは乳酸発酵が生物によって引き起こされることを示した[40]。1860年に彼は、それまで単なる化学変化と考えられていた細菌による牛乳の酸味(英語版)の仕組みを明らかにした。食品の腐敗における微生物の役割を特定した彼の研究は、後に低温殺菌のプロセスにつながった[41]

1877年、フランスの醸造業の改善に務めたパスツールは、発酵に関する有名な論文「Etudes sur la Biere」を発表した。これは1879年に「発酵に関する研究(Studies on fermentation)」として英訳された[42]。彼は(誤って)発酵を「空気を使わない生命(Life without air)」と定義したが[43]、特定の種類の微生物がいかにして特定の種類の発酵を引き起こし、特定の最終生成物をもたらすかを正しく示した[要出典]。

発酵が生きた微生物の働きによって起こることを示すことは画期的であったが、発酵の基本的な性質を説明したわけではなく、また常に存在していると思われた微生物が原因で引き起こされることを証明したわけでもなかった。パスツールを含む多くの科学者は、酵母から発酵酵素を抽出しようと試みて失敗した[43]

1897年、ドイツの化学者エドゥアルト・ブフナーが酵母を粉砕し、そこから分泌液を抽出したところ、この「死んだ」液体が生きた酵母と同じように糖液を発酵させ、二酸化炭素とアルコールを生成することを発見し、驚きとともに成功がもたらされた[44]

ブフナーの成果は、生化学の誕生に結びついたと考えられている。「無生酵母」は、生存酵母とまったく同じようにふるまった。それ以来、酵素という用語はすべての発酵に適用されるようになった。


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