発酵
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連続発酵(continuous fermentation)は、基質が連続的に追加され、最終生成物が連続的に除去される[28]。栄養レベルを一定に保つケモスタット(英語版)(恒成分培養)、細胞量を一定に保つタービドスタット(英語版)(濁度調節型連続培養)、培地がチューブ内を安定的に流れ、細胞が出口から入口へと再利用されるプラグフローリアクター(英語版)(栓流培養)の3種類がある[30]。プロセスがうまく機能すれば、供給物と排出物の安定した流れができ、バッチ処理を繰り返す手間と費用を避けられる。これにより、反応を阻害する副生成物を連続的に除去し、指数関数的成長期を延長することができる。しかし、汚染を回避し、定常状態を維持し続けることは容易でなく、設計も複雑になりやすい[28]。連続型をバッチ型よりも経済的にするには、通常、発酵槽を500時間以上、連続稼働させる必要がある[30]
発酵利用の歴史詳細は「発酵食品」を参照

発酵の、特に酒類への利用は新石器時代から存在し、中国の賈湖(Jiahu)(英語版)では紀元前7000年から6600年頃にかけて[31]、インドでは紀元前5000年、アーユルヴェーダには多くの薬用ワインが言及され、ジョージアでは紀元前6000年[32]古代エジプトでは紀元前3150年[33]バビロンでは紀元前3000年[34]、古代メキシコでは紀元前2000年[34]スーダンでは紀元前1500年の記録がある[35]。発酵食品はユダヤ主義やキリスト教的信仰(英語版) において宗教的な意味を持っている。バルト海の神(英語版)ルグティス(Rugutis)は、発酵を司る神として崇拝されていた[36][37]錬金術では、発酵(「腐敗」)は磨羯宮(まかつきゅう、、??)によって象徴化されていた。研究室でのルイ・パスツール

1837年、シャルル・カニャール・ド・ラ・ツール(英語版)(Charles Cagniard de la Tour)、テオドール・シュワンフリードリヒ・トラウゴット・キュッツインクの3人はそれぞれ論文を発表し、顕微鏡による調査の結果、酵母は出芽によって繁殖する生物であると結論づけた[38][39]:6。シュワンはブドウ果汁を煮沸して酵母を死滅させ、新しい酵母を加えるまで発酵が起こらないことを発見した。しかし、アントワーヌ・ラヴォアジエを含む多くの化学者は、発酵を単純な化学反応と見なし続け、生物が関与している可能性があるという考えを否定した。これは生気論(生物に関する信念)への回帰と見なされ、ユストゥス・フォン・リービッヒフリードリヒ・ヴェーラーによる匿名の出版物で揶揄(やゆ)された[4]:108?109。

転機となったのは、ルイ・パスツール(1822-1895)が1850年代から1860年代にかけて、シュワンの実験を繰り返した一連の研究で、発酵が生物によって起こされることを示したことである[22][38]:6。1857年、パスツールは乳酸発酵が生物によって引き起こされることを示した[40]。1860年に彼は、それまで単なる化学変化と考えられていた細菌による牛乳の酸味(英語版)の仕組みを明らかにした。食品の腐敗における微生物の役割を特定した彼の研究は、後に低温殺菌のプロセスにつながった[41]

1877年、フランスの醸造業の改善に務めたパスツールは、発酵に関する有名な論文「Etudes sur la Biere」を発表した。これは1879年に「発酵に関する研究(Studies on fermentation)」として英訳された[42]。彼は(誤って)発酵を「空気を使わない生命(Life without air)」と定義したが[43]、特定の種類の微生物がいかにして特定の種類の発酵を引き起こし、特定の最終生成物をもたらすかを正しく示した[要出典]。

発酵が生きた微生物の働きによって起こることを示すことは画期的であったが、発酵の基本的な性質を説明したわけではなく、また常に存在していると思われた微生物が原因で引き起こされることを証明したわけでもなかった。パスツールを含む多くの科学者は、酵母から発酵酵素を抽出しようと試みて失敗した[43]

1897年、ドイツの化学者エドゥアルト・ブフナーが酵母を粉砕し、そこから分泌液を抽出したところ、この「死んだ」液体が生きた酵母と同じように糖液を発酵させ、二酸化炭素とアルコールを生成することを発見し、驚きとともに成功がもたらされた[44]

ブフナーの成果は、生化学の誕生に結びついたと考えられている。「無生酵母」は、生存酵母とまったく同じようにふるまった。それ以来、酵素という用語はすべての発酵に適用されるようになった。さらに、発酵は微生物が産生する酵素によって引き起こされることが理解された[45]。1907年、ブフナーはその功績によりノーベル化学賞を受賞した[46]

微生物学と発酵技術の進歩は今日にいたるまで着実に続いている。たとえば、1930年代には、物理的または化学的処理によって微生物を変異させ、より収量が多く、より増殖が速く、より低い酸素を許容し、より高濃度の培地を使用できることが発見された[47][48]。そのうえ、菌株の選択交配も発展し、これらは現代のほとんどの食品発酵に影響を与えている[要出典]。
1930年代以降

発酵の分野は、食品や飲料から工業用化学薬品や医薬品に至るまで、幅広い消費財の生産に欠かせないものとなっている。古代文明の初期に始まって以来、発酵の利用は進化と拡大を続け、新しい手法や技術によって製品の品質、収量、効率が向上した。1930年代以降には、抗生物質や酵素のような高価値製品を生産するための新しいプロセスの開発、バルク化学物質の生産における発酵の重要性の向上、機能性食品や栄養補助食品の生産における発酵の利用への関心の高まりなど、発酵技術の多くの重要な進歩が見られた。

1950年代と1960年代には、固定化細胞や固定化酵素の使用といった新しい発酵技術が開発され、発酵プロセスをより正確に制御できるようになり、抗生物質や酵素のような高価値製品の生産が増加した。1970年代から1980年代にかけ、発酵はエタノール、乳酸、クエン酸などのバルク化学物質の生産においてますます重要性を増した。そのため新しい発酵技術が開発され、収率を向上させ生産コストを削減するために、遺伝子組換え微生物が使用されるようになった。1990年代から2000年代にかけて、発酵を利用して、基礎的な栄養摂取にとどまらない健康上の利点が期待できる機能性食品栄養補助食品の製造への関心が高まった。このため、新しい発酵プロセスが開発され、プロバイオティクス(腸内有益菌)やその他の機能性成分が使用されるようになった。

全体として、1930年以降、工業目的での発酵の利用は著しく進歩し、現在世界中で消費されているさまざまな発酵製品の生産につながった。
関連項目body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper{margin-top:0.3em}body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper>ul,body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper>ol{margin-top:0}body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper--small-font{font-size:90%}

発酵食品の一覧
(英語版) - 微生物の働きによって生産または保存される食品の一覧

好気発酵(英語版) - 酸素の存在下で細胞が発酵によって糖を代謝する代謝過程

アセトン-ブタノール-エタノール発酵 - 細菌の発酵を利用して、デンプンやグルコースなどの炭水化物からアセトン、n-ブタノール、エタノールを合成する発酵過程

暗発酵(英語版) - 多様な細菌群によって発現する有機基質の生物水素への発酵的変換で、光がなくても進行する

発酵ロック(英語版) - ビールやワインの醸造で使用される二酸化炭素を逃がす装置

腸発酵症候群 - 摂取された炭水化物が消化管内で細菌または真菌によって発酵する特徴をもつ医学的症状

工業的発酵(英語版) - 化学工業や医薬品や食品などの製造工程で発酵を意図的に利用すること

非発酵菌(英語版) - グルコースを発酵できないプロテオバクテリア門の細菌群

光発酵(英語版) - 多様な光合成細菌群によって発現する有機基質の生物学的水素への発酵的変換で、光の存在下でのみ進行する

共生発酵(英語版) - 複数の生物が共生して目的の生成物を生産する発酵の一形態

スティックランド反応 - アミノ酸の有機酸への酸化と 還元の連鎖を伴う化学反応

サイレージ - 酸性化するまで発酵させて保存した緑葉作物から作られる家畜飼料

脚注[脚注の使い方]
注釈^ 戦前から「發酵」表記は併存していた。


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