発芽
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これは、育種学的な操作による突然変異の利用や選抜、遺伝子組換えといった人為的な圧力を意識的、あるいは無意識的に繰り返すことで得られた性質である[34]

品種改良による発芽の斉一性の獲得だけでなく、プライム処理やコーティング処理、ネイキッド処理といった種子そのものの加工によって発芽、生育を調節することもあり、植物工場でもそのように加工された種子が利用される[98]。植物工場では、発芽の不揃いが余分な労力負担や余計な施設稼働などにつながるため、特に発芽の斉一性が求められており、自動的、省力的に発芽を管理するため、温度や湿度、光などを調節する発芽室が施設内に設けられている[98]。また、春播きの種を冬期に播種する場合には、発芽抑制剤を使用することで早期の発芽を抑制し、確実に越冬させてから春期に発芽するよう調節することが可能である[99]。さらに、ジャガイモなどでは、収穫後にクロルプロファムなどの薬品を用いて、輸送・貯蔵中に品質が落ちないよう発芽抑制処理が行われる[100]

一方、作物の雑草や害草、侵略的外来種などといった駆除対象とされる種については、発芽生態の解明や、それに基づく防除法の確立が進められている。雑草の防除で最も一般的に行われているのは、除草剤など農薬による防除である。例えば稲作で用いられる非選択性除草剤のジクワット・パラコート混合剤は、雑草の草体を枯殺するだけでなく、雑草種子の発芽・発育も阻害することで、様々な種類の雑草を防除することが可能となる[101]。作用機序は除草剤の種類によって様々であり、ジベレリンなど発芽時の代謝にかかる物質の生合成を阻害するものが知られている。しかしアトラジントリアジンスルホニルウレア系除草剤などに抵抗性をもつ雑草が既に確認されており、そのような抵抗性をもった系統では、抵抗性を持たない系統より発芽率が高く、速やかな発芽率を示す場合も知られている[102]。一方で、ALS(アセト乳酸合成酵素)阻害剤への抵抗性をもつ個体では、抵抗性を持たない個体よりも発芽が遅延することも報告されている[103]

また他に、除草剤などによらない防除法も幾つかの種で提案されている。例えばマメ科植物の強害雑草であり、かつ外来種である外来アサガオ類(ホシアサガオマメアサガオなど)は、火炎放射によってほぼすべての種子が発芽するため、火炎放射器によって発芽を促進させた後、水をはって数か月放置することによって全滅させるという防除法が提案されている[104]。他に、ハリエニシダの種子に対してマイクロ波の照射を行い、種子発芽の促進、あるいは種子の死滅を誘導して防除するという方法も考案されている[105]。作物に寄生するストライガなどの寄生植物の防除には、寄主がいない環境で強制的に発芽させて死滅させるための自殺発芽誘導剤の開発が進められている[106]

様々な植物の種子を発芽させた実生は、スプラウト(発芽野菜)として食用とされる[107]。スプラウトは栄養豊富であることが知られており、食材として注目されている[108]。スプラウトに用いられる植物はさまざまであるが、モヤシリョクトウなど)、貝割れ大根ダイコン)、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)、ソバなどのスプラウトが市場に出回っている。一方、貝割れ大根などのスプラウトで食中毒が起こる事例も報告されているが、これは発芽時に種子から糖類などが放出され、種子や苗に付着していた大腸菌などがそれを利用して繁殖しやすいためと考えられている[109]。スプラウトを生産する種子に対しては、種子に付着した糸状菌等の胞子発芽を抑制するために抗糸状菌剤処理などが行われるが、これによる大腸菌の増殖を抑制する効果は低いとされており、他の防除方法が必要とされる[109]。また日本では、2000年代から玄米をある程度発芽させて休眠状態にし、食べやすくした発芽玄米が急速に普及している[110]

発芽時にはデンプンに分解するアミラーゼ(糖化酵素)が合成されるため、大麦を発芽させた麦芽は穀物酒の醸造などに利用されている。
胞子発芽の研究と利用

細菌の胞子は食品の変敗、食中毒、感染症などに大きく関係しているため、その胞子の休眠性や耐久性と共に、胞子の発芽についての研究が重要視されている[95]。細菌胞子の発芽機構については枯草菌で特によく研究されており、発芽の分子的機構がかなりの部分解明されてきたが、コート層のタンパク質分解などの機構についてはほとんど研究が進んでいない[95]。また糸状菌の分生胞子については芳香族硫シアン化合物などを主成分とした抗糸状菌剤によって発芽を抑制し、防除出来ることが知られている[92]

食用または薬用として用いる菌類(キノコ)の発芽については、育種や安定生産の観点から研究が進められている。育種においては、二種類の品種の担子胞子から発芽した一核菌糸体を交配させて二核菌糸体を作出し、それを生長させて新品種を作出するといった手法が用いられている[111]。また、マツタケなど人工的な胞子の発芽方法が確立されていない種では、人工栽培に向けて胞子の発芽特性の研究が進められている[91]

一方、貝毒赤潮の原因となる渦鞭毛藻などの発芽については、主にその防除や予防の目的で研究が進められている(例えば石川・石井(2007)[112]など)。
植生復元、環境評価などへの発芽の利用

種子や胞子などの発芽を、植生復元への利用や環境評価の指標に用いる試みもある。よく知られた事例として、土壌シードバンクを掘り出して撒き出すことで、土壌中で休眠していた種子を発芽させ、植生を復活させる取り組みがある。例えば霞ヶ浦では、浮葉植物であるアサザの個体群を、土壌シードバンクから再生する事業が行われているが、これはアサザの種子が土壌シードバンクを形成しやすい発芽・休眠特性をもつことを利用したものである[113]。しかし単に土壌を撒き出すだけでなく、発芽、定着に適した環境を同時に整備することが必要であるとされている[113]。また土壌シードバンクは緑化材料などとしても活用されており、森林の表土を法面に吹きつけ、そこに含まれる埋土種子を発芽させて植物群落を形成させるという取り組みもある[114]

また海藻は、沿岸域の排水や有害物質の影響を評価する指標となりうるため、褐藻や紅藻といった海藻の胞子や遊走子が発芽可能か否かによって、有害物質量などを判定する方法が研究されている。例えば紅藻類の一種スサビノリの殻胞子の発芽率をもとに、重金属などの濃度を判定する方法が考案されている[115]
脚注[脚注の使い方]^ a b 鈴木 (2003)、185頁。
^ a b c Leyser and Day (2003), p. 6.
^ a b 鈴木善弘「ナス種子の発芽に及ぼす Gibberellin の効果に関する研究 (第2報)」『福島大学学芸学部理科報告』第14巻、"福島大学学芸学部、1964年、48-54頁、.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISSN 04298446、NAID 120001047735。 
^ 鈴木 (2003)、82頁。


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