発芽
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追熟過程は、通常果実が採集された日から種子が採集されるまでの日数を指し[8]、その期間にさらなる貯蔵物質の蓄積や発育の進行が見られる[13]。ただし十分な登熟期間を経ている場合は、追熟期間がなくても良好な発芽率を示す場合も多い[13]。また追熟期間の発育量には温度などが大きく関係しており、低温より高温で発育がより進行することなどが知られている[14]

追熟後も発芽力を獲得できない種子は、発芽可能となるために後熟過程を経る必要がある[15]。後熟過程では胚の形態形成や肥大成長が起こり、形態的に成熟することによって発芽力を得るが、開花から種子採取までの日数によって、後熟過程で得られる発芽力の強さも大きく異なる[16]。例えばホオズキでは、開花後70日が経過してから採取した種子と、50-60日が経過してから採取した種子では、後者のほうが長い後熟期間を経ないと高い発芽率を示さないことが知られている[17]
休眠の解除アブシジン酸は発芽を抑制する働きがある。ジベレリンA3。低温処理などによって増加し、発芽の促進に働く。詳細は「休眠」を参照

一部の種を除いて、種子植物種子は、登熟を経て十分に成熟すると水分含量が少なくなり、種子内の代謝活性が著しく抑制される[18]。この状態を休眠といい、生育可能な環境で確実に発芽するために獲得した能力であると考えられている[19]。特に冷帯や温帯の種では、種子が生産されて秋ごろにすぐ発芽する種はほとんど無く、大半の種は冬の低温によって休眠を解除してからでないと発芽できない種子を生産する[20]。このような休眠性をもつのは、霜や低温、乾燥といった生育に不適な環境である秋から冬に発芽せず、気温が上昇し生育に好適である春に発芽するためである[20]

休眠状態にある種子は胚の生長が抑制または停止されるため[19]、発芽が起こるにはまず休眠を解除(打破)する必要がある。休眠を解除する要因には以下のようなものがある。

成熟過程の一部である後熟過程によって、休眠が解除されることが知られている[21]。後熟過程は、種子が好適な温度条件などが整った環境に置かれると進行し、胚の肥大成長や発芽抑制物質であるアブシジン酸などの減少、発芽促進物質の増加などが起こる[22]。なお休眠性を持たない種子は後熟過程をもたないものと考えられている[5]

多くの種子は、低温条件下に一定期間置かれると、休眠が解除される(春化)。休眠解除に低温処理を必要とする種子では、低温条件に置かれると発芽抑制物質であるアブシジン酸が減少し、発芽促進物質であるジベレリン様物質が増加することが知られている[23]

イネペカンなど高温処理によって休眠覚醒が促進される例も報告されている[24]。高温処理では、発芽抑制物質の分解促進や、包皮組織の変性による抑制物質の種子外への放出促進などが起こるものと推測されている[24]

特に温帯で生育する種の中に、休眠の覚醒に湿層処理(湿った環境に一定期間置かれること)が必要となる種子をもつものが存在する[22]。またこの処理を低温環境下で行う場合は低温湿層処理といわれ、多くの種で休眠を解除する要因として知られている[25]

種皮や果実が硬く、透水性のない種子のことを硬実種子というが、そのような硬実種子は種皮が腐食するなどして吸水性を獲得しなければ、休眠が解除されない。このような休眠を硬実休眠という[26]。実験的には濃硫酸などによる化学処理、あるいはヤスリ等による機械的な種皮の除去によって打破することが可能である[26]

なお、休眠が解除された種子、あるいは休眠性のない種子が発芽に不適な環境に置かれた場合、二次休眠に入り、その後発芽に好適な環境に置かれても発芽できなくなることがある[19]
発芽に必要な条件リョクトウの発芽を早送りで撮影した映像

休眠が解除された種子が発芽するには、発芽に適した水分や温度、光などといった条件を満たした環境に種子が置かれる必要がある[18][27]。主要な環境要因としては、次のような要因があげられる。

水分は発芽を規制する最も重要な要因であり、発芽には多くのを必要とする[18]。含水量の少ない種子は水ポテンシャルによって種子内部へ吸水し、発芽に必要な代謝を活性化する[28][29]。種子の吸水は、急激に水を吸って膨潤する吸水期、緩やかに吸水して代謝系が活性化する発芽始動期、発芽始動期で発芽に必要なタンパク質合成が行われた後、幼根や幼芽の生長が始まる成長期に分けられる[28][29]。吸水が行われる部位は種によって異なるが、種皮や発芽口から吸水するものが多い[30]
温度

発芽可能な温度は植物種、光条件、種子の成熟度などによって著しく異なる[31][32]。発芽の最適温度は、温帯の植物で 20-25 °C、熱帯の植物で 30-35 °C であることが多い[31]。一方で、発芽に適さない温度条件に置かれた場合、代謝活性が阻害されるなどして発芽が抑制されることもある[33]。また一定の温度条件下で発芽する種子が多くある[34]一方で、発芽に変温条件を必要とする植物も多くあるが[35][3]、これは種子が自然条件下において昼夜の気温変化にさらされていることが関係していると考えられている[34]。しかし変温環境がどのような生理学的、生化学的機構を引き起こしているのかについては、あまり明らかとなっていない[34][33]

また、通常の気温より高い温度に晒されることで発芽が促進される例も知られている。代表的なのは、山火事によって土壌中の種子が高温下に置かれることで発芽が促進される植物であり、先駆種(パイオニア種)的な特徴を持つアカメガシワなどがその例として挙げられる[36]。山火事では、土壌の表面が非常に高温となるが、深さ数cm程度の土壌中では50 °C 程度の高温状態が長時間続くことが知られている[36]。このため、深さ数cmの土壌中にある種子の内、耐熱性が低いアカマツなどの種子は長時間の高温条件によって死滅すると考えられているが、耐熱性の高いクサギアカメガシワでは逆に発芽が促進され、火事の後更地になった環境で有利に植生を再生させることができると考えられている[36]。ただし、耐熱性が低いアカマツなどでも、高温条件の継続時間が数十分程度と短ければ、他の種と同様に発芽が促進される[36]
光を感知する物質であるフィトクロムの立体構造。

は、古くから種子の発芽に影響することが知られている。例えばカスパリーは光が種子発芽を促進することを認め、またヘンドリクスらは光が発芽を抑制する事例を発見した[37]。発芽における光の影響は植物種、また種子の生理条件などによってさまざまであるが、大きく分けて長日性の種子(長時間の光照射が発芽を促進)、短日性の種子(長時間の暗期が発芽に必要で、長時間の光照射が発芽を抑制)、そして光非依存性種子(光要求性なし)がある[38]。光が発芽に必要なものは光発芽種子といわれ、964種の種子を対象に行なった発芽実験では約70%が光によって発芽を促進される光発芽種子であるとされた[38][39]。また光によって発芽率が低下する種子は嫌光性種子というが[38]、これは好光性種子よりも赤外線紫外線による発芽阻害効果を強く受けるためで、嫌光性種子でも 600-700 μm など特定の波長では発芽が促進される[40]

光を感受する部位は種によって異なるが、種皮や胚、胚軸などで光を感受する種が多い[41]。発芽に有効な波長は赤色光(R, 約 600 nm)であり、遠赤色光(FR, 約 730 nm)には発芽を抑制する効果や、赤色光によって獲得した発芽誘起効果を打ち消す効果があることが知られている[42]


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