なお、休眠が解除された種子、あるいは休眠性のない種子が発芽に不適な環境に置かれた場合、二次休眠に入り、その後発芽に好適な環境に置かれても発芽できなくなることがある[19]。
発芽に必要な条件リョクトウの発芽を早送りで撮影した映像
休眠が解除された種子が発芽するには、発芽に適した水分や温度、光などといった条件を満たした環境に種子が置かれる必要がある[18][27]。主要な環境要因としては、次のような要因があげられる。 水分は発芽を規制する最も重要な要因であり、発芽には多くの水を必要とする[18]。含水量の少ない種子は水ポテンシャルによって種子内部へ吸水し、発芽に必要な代謝を活性化する[28][29]。種子の吸水は、急激に水を吸って膨潤する吸水期、緩やかに吸水して代謝系が活性化する発芽始動期、発芽始動期で発芽に必要なタンパク質合成が行われた後、幼根や幼芽の生長が始まる成長期に分けられる[28][29]。吸水が行われる部位は種によって異なるが、種皮や発芽口から吸水するものが多い[30]。 発芽可能な温度は植物種、光条件、種子の成熟度などによって著しく異なる[31][32]。発芽の最適温度は、温帯の植物で 20-25 °C、熱帯の植物で 30-35 °C であることが多い[31]。一方で、発芽に適さない温度条件に置かれた場合、代謝活性が阻害されるなどして発芽が抑制されることもある[33]。また一定の温度条件下で発芽する種子が多くある[34]一方で、発芽に変温条件を必要とする植物も多くあるが[35][3]、これは種子が自然条件下において昼夜の気温変化にさらされていることが関係していると考えられている[34]。しかし変温環境がどのような生理学的、生化学的機構を引き起こしているのかについては、あまり明らかとなっていない[34][33]。 また、通常の気温より高い温度に晒されることで発芽が促進される例も知られている。代表的なのは、山火事によって土壌中の種子が高温下に置かれることで発芽が促進される植物であり、先駆種 光は、古くから種子の発芽に影響することが知られている。例えばカスパリーは光が種子発芽を促進することを認め、またヘンドリクスらは光が発芽を抑制する事例を発見した[37]。発芽における光の影響は植物種、また種子の生理条件などによってさまざまであるが、大きく分けて長日性の種子(長時間の光照射が発芽を促進)、短日性の種子(長時間の暗期が発芽に必要で、長時間の光照射が発芽を抑制)、そして光非依存性種子(光要求性なし)がある[38]。光が発芽に必要なものは光発芽種子といわれ、964種の種子を対象に行なった発芽実験では約70%が光によって発芽を促進される光発芽種子であるとされた[38][39]。また光によって発芽率が低下する種子は嫌光性種子というが[38]、これは好光性種子よりも赤外線や紫外線による発芽阻害効果を強く受けるためで、嫌光性種子でも 600-700 μm など特定の波長では発芽が促進される[40]。 光を感受する部位は種によって異なるが、種皮や胚、胚軸などで光を感受する種が多い[41]。発芽に有効な波長は赤色光(R, 約 600 nm)であり、遠赤色光(FR, 約 730 nm)には発芽を抑制する効果や、赤色光によって獲得した発芽誘起効果を打ち消す効果があることが知られている[42]。これらの波長は、種子に含まれる色素タンパク質であるフィトクロムによって感受される。フィトクロムは赤色光によって活性型(Pfr型)となり、発芽を促進する作用を持つが、遠赤色光を受けると不活性型(Pr型)に変化し、発芽を促進する機能を失う[43]。またフィトクロムが活性を持つためには、種子が一定以上の水分を含んでいる必要がある[44]。 酸素は、多くの種において、種子発芽における代謝を行うために必要である[45]。種子は、幼根や幼芽の生長を行うためのエネルギーとして呼吸により酸素を取り入れるが、種子外部が無酸素状態であれば、発酵による酸化過程からエネルギーを得る[46]。一般に酸素吸収速度が大きいほど代謝が活発になるため、発芽過程の進行が早まる。 発芽を促進する酸素濃度は植物種、温度などによって異なり、例えばナスでは酸素濃度10%より30%でより高い発芽率を示す[35]。しかしコナギなどの水田雑草では低酸素条件で発芽率が上昇し、逆に空気中の酸素濃度では発芽率が低くなるという種も多くある[47]。酸素の少ない嫌気的な条件でも発芽できる種は、種子内にデンプンを豊富に貯蔵しており、それを利用して無気呼吸を行うことで発芽にかかるエネルギーを獲得している[48]。また無気呼吸の際には有害な副産物が生じるが、嫌気発芽能を持つ種子ではそのような副産物を排除する機構も持っている[48]。 種子植物の発芽特性はその植物の生態的な特徴とも大きな関係がある。例えば、更地に真っ先に侵入して個体群を拡大する先駆種 また農業雑草として知られる種では、種子の休眠性やそれに伴う不ぞろいな発芽といった発芽特性が、生態的に重要な特徴となっている。
水
温度
光光を感知する物質であるフィトクロムの立体構造。
酸素
発芽特性と生態的戦略エンドウの発芽