発芽
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一方、寿命が長く極相林を構成する種類などでは、発芽した実生の定着に失敗したとしても、寿命が長い分繁殖の機会が多いため、早春など生存率が高まると予想される時期に一斉に発芽する戦略を取る[51]

また農業雑草として知られる種では、種子の休眠性やそれに伴う不ぞろいな発芽といった発芽特性が、生態的に重要な特徴となっている。例えば栽培品種と交雑し、収量を減少させる野生のイネ(雑草イネ)は、栽培品種に比べ強い休眠性を持ち、発芽が不斉一に起こるため、代かき耕起による死滅が回避され、また手取り除草によって一斉に淘汰されることを回避しているものと考えられている[52]
他の生物が発芽に及ぼす影響ウチワサボテンの果実を食べるネコマネドリ

種子発芽は、以上に示したような条件が揃えば発芽するとは限らず、他の生物の活動によって発芽が促進、あるいは抑制される例も知られている。

例えば、動物による果実の被食によって種子の発芽率が変化することが知られている。果実を捕食する鳥類哺乳類は、消化管内で果実のみを消化し種子を排出するが[53]、その過程で種皮に傷がつくなどして、被食されていない種子より被食された種子のほうが発芽率が上昇する例が知られている[54]。また果肉には種子発芽を抑制する物質が含まれていると考えられており[55]、果肉の被食あるいは土壌生物などによる分解が、発芽率を上昇させているものと考えられている[56]。また被食や分解によって果肉が除去されないと種子の死亡率が高くなる例も報告されている[57]

また、植物の根などから分泌される化学物質(アレロケミカル、他感作用物質)によって、その植物の近辺にある他の植物の種子発芽が抑制されることもある(アレロパシー[58]。アレロケミカルの例として、アブシジン酸を放出することで種子の発芽、生育を一時的に阻害するテルペノイド[59]や、オオイタドリがもつ強力な発芽阻害作用を持つナフトキノン[60]などが挙げられる。ただし、それらの化学物質によって同種の植物の種子発芽が阻害される場合は、自家中毒(自己中毒)といってアレロパシーとは区別される[58]

寄生植物の発芽には、生育に適した環境条件の他に寄主の存在が発芽に影響する。例えば根寄生性植物のストライガ Striga spp. では、寄主の存在と好適な環境条件が揃ったことを感知するとエチレン生合成が起こり、発芽が促進される機構をもつ[61]
無性的な繁殖体の発芽ヨーロッパトチカガミ(トチカガミ科)の殖芽の発芽

無性生殖栄養生殖によって生産される、いわゆるむかご塊茎ジャガイモなど)、殖芽などといった繁殖体から芽が出ることも、種子と同様に発芽という。

これらの無性的な繁殖体は、種子とは異なる発芽特性を示す場合もある。例えばヤマノイモ属の種がもつむかごは、種子では発芽を促進する働きのあるジベレリンによって休眠が促進されることが知られている[62]。またカシュウイモのむかごでは、低温処理によって発芽が阻害される[63]

同じ植物の種子と無性的な繁殖体の発芽特性が異なることもある。例えばヒルムシロ科水草であるリュウノヒゲモは、塊茎という無性的な繁殖体をもつが、リュウノヒゲモの種子は低温処理や十分な後熟を経てもあまり発芽率が良くないのに対して、塊茎は低温処理を行うとさまざまな温度条件で良好な発芽率を示す[64]。このような発芽特性の違いは、種子が主にシードバンクとして、一度消滅した個体群を再生させる機能をもつのに対し、塊茎は次年度の個体群を形成する機能を持つ[64]といった、各繁殖体の生態的な機能の違いにも関係している。
花粉の発芽ユリ科植物の花粉の発芽(電子顕微鏡写真)

植物の花粉柱頭に付着して受粉すると、花粉の発芽が起こり、花粉の中から花粉管が伸長する。この花粉管によって精細胞が胚珠に運ばれ、受精が起こって結実に至る。

花粉の発芽は柱頭での水和反応などによって促進されることが知られている[65]。また花粉の発芽に適した温度も種によって異なり、例えばナスでは 15 °C より 25 °C でより高い発芽率を示す[66]。花粉はシャーレ上や試験管内などで in vitro に発芽させることも可能である[67][68]。花粉の発芽を実験的に行う場合は、培地として寒天培地[66][69]やゼラチン培地[70]などが用いられる。

自家不和合性を持つ植物においては、同じ花の花粉が柱頭についた場合(自家受粉)、花粉発芽の抑制や花粉管伸長の阻害が起こることが知られている。これは柱頭上で自花の花粉と他花の花粉を識別できる機構に基づいているが[71]、この機構によって花粉は柱頭についても発芽できない、または発芽できても花粉管を伸長することが出来ずに受精には至らない。また、花粉発芽や花粉管伸長を阻害する物質としてギ酸カルシウムが知られており、摘花処理(一部の花を間引くこと)を行う際に使用されることがある[72]
胞子の発芽

シダ類・コケ類・シャジクモ類藻類菌類などの胞子が休眠状態から活動を始める場合にも発芽という。胞子が発芽すると、発芽管を通して胞子内の物質が出現するが、各分類群によって胞子からの生長様式は異なる。例えばシダ植物では、胞子からは前葉体を生じてそこから植物体を発達し、コケ植物の場合は通常胞子から原糸体を生じ、それが配偶体となる。菌類の場合は、胞子は普通は菌糸として発達する。また細菌では、胞子は発芽すると栄養細胞として生長する。

また一部の褐藻類、紅藻類、緑藻類、菌類などでは、鞭毛をもち運動能をもつ胞子である遊走子を持つこともあり[73]、この遊走子から個体が発生することも同様に発芽という。
シダ植物、コケ植物アメリカコウヤワラビ(シダ植物)の前葉体とそこから発芽した若い胞子体コケ植物の胞子発芽(図右)

シダ植物コケ植物の胞子は胞子体で形成され、適当な環境条件で発芽して配偶体を形成する[74]。シダ植物の場合、この配偶体のことを前葉体ともいい、発芽して生じた前葉体はハート型であることが多く、光合成による栄養成長によって生長する[74]。一方コケ植物の胞子は、発芽すると原糸体となって分枝し、造卵器や造精器といった生殖器官をもつ配偶体に生長する[75]

シダ植物の胞子は、多細胞の種子とは違って一つの細胞からなる器官であるが、発芽の生理学的な面では種子と胞子で多くの特徴が共通している[76]。たとえば光による胞子発芽には、種子と同様にジベレリンが関与していることが知られており、ジベレリン生合成阻害剤によって光発芽は阻害される[76]

シダ植物の胞子発芽に適した条件は、アメリカコウヤワラビなどで実験的に調べられている。それによると散乱光が胞子発芽を促進する一方で、太陽光は発芽に不適であるばかりか、強い太陽光に長時間晒されると葉緑体のクロロフィルが破壊される[77]。また温度と光の組み合わせによって発芽率は変化し、アメリカコウヤワラビの場合、発芽に適した温度は、散乱光下では 16-34 °C であるが、暗黒条件では 24-33 °C の温度条件下で発芽が起きる[77]。またトクサ属の種でも暗条件で発芽することが知られている[78]


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