発芽
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

花粉の発芽は柱頭での水和反応などによって促進されることが知られている[65]。また花粉の発芽に適した温度も種によって異なり、例えばナスでは 15 °C より 25 °C でより高い発芽率を示す[66]。花粉はシャーレ上や試験管内などで in vitro に発芽させることも可能である[67][68]。花粉の発芽を実験的に行う場合は、培地として寒天培地[66][69]やゼラチン培地[70]などが用いられる。

自家不和合性を持つ植物においては、同じ花の花粉が柱頭についた場合(自家受粉)、花粉発芽の抑制や花粉管伸長の阻害が起こることが知られている。これは柱頭上で自花の花粉と他花の花粉を識別できる機構に基づいているが[71]、この機構によって花粉は柱頭についても発芽できない、または発芽できても花粉管を伸長することが出来ずに受精には至らない。また、花粉発芽や花粉管伸長を阻害する物質としてギ酸カルシウムが知られており、摘花処理(一部の花を間引くこと)を行う際に使用されることがある[72]
胞子の発芽

シダ類・コケ類・シャジクモ類藻類菌類などの胞子が休眠状態から活動を始める場合にも発芽という。胞子が発芽すると、発芽管を通して胞子内の物質が出現するが、各分類群によって胞子からの生長様式は異なる。例えばシダ植物では、胞子からは前葉体を生じてそこから植物体を発達し、コケ植物の場合は通常胞子から原糸体を生じ、それが配偶体となる。菌類の場合は、胞子は普通は菌糸として発達する。また細菌では、胞子は発芽すると栄養細胞として生長する。

また一部の褐藻類、紅藻類、緑藻類、菌類などでは、鞭毛をもち運動能をもつ胞子である遊走子を持つこともあり[73]、この遊走子から個体が発生することも同様に発芽という。
シダ植物、コケ植物アメリカコウヤワラビ(シダ植物)の前葉体とそこから発芽した若い胞子体コケ植物の胞子発芽(図右)

シダ植物コケ植物の胞子は胞子体で形成され、適当な環境条件で発芽して配偶体を形成する[74]。シダ植物の場合、この配偶体のことを前葉体ともいい、発芽して生じた前葉体はハート型であることが多く、光合成による栄養成長によって生長する[74]。一方コケ植物の胞子は、発芽すると原糸体となって分枝し、造卵器や造精器といった生殖器官をもつ配偶体に生長する[75]

シダ植物の胞子は、多細胞の種子とは違って一つの細胞からなる器官であるが、発芽の生理学的な面では種子と胞子で多くの特徴が共通している[76]。たとえば光による胞子発芽には、種子と同様にジベレリンが関与していることが知られており、ジベレリン生合成阻害剤によって光発芽は阻害される[76]

シダ植物の胞子発芽に適した条件は、アメリカコウヤワラビなどで実験的に調べられている。それによると散乱光が胞子発芽を促進する一方で、太陽光は発芽に不適であるばかりか、強い太陽光に長時間晒されると葉緑体のクロロフィルが破壊される[77]。また温度と光の組み合わせによって発芽率は変化し、アメリカコウヤワラビの場合、発芽に適した温度は、散乱光下では 16-34 °C であるが、暗黒条件では 24-33 °C の温度条件下で発芽が起きる[77]。またトクサ属の種でも暗条件で発芽することが知られている[78]。ただしコタニワタリなど、種によっては光がない条件で発芽できない胞子を持つものもある[78]

コケ植物の胞子発芽に関する環境条件については、ヒョウタンゴケなどの蘚類ゼニゴケなどの苔類でそれぞれ研究が行われている。光条件については、光に晒されることによって発芽が促進される一方、通常は光がない条件では発芽できないことがわかっている[78]。ただし青色光や緑色光では発芽率が低下することも報告されている[79]。また暗黒条件で1か月保存された胞子は発芽能を失う[78]。しかし二酸化炭素を除去した環境でも発芽が起こることから、発芽に光合成は必要ではないものと考えられている[78]。光の強さも発芽に影響し、蘚類では弱光条件でも発芽できるのに対し、苔類では弱光条件で発芽が阻害されることが知られている[78]。ただしヒョウタンゴケなどでは、5%-10%濃度のブドウ糖を培地に与えると、暗黒条件でも発芽が起こることが知られている。

温度条件では、30 °C 以上の高温で胞子の死滅または発芽率の大幅な低下が見られるが、短時間の高温処理の後、光がある常温環境に置くと発芽が見られる[78]
シャジクモ類シャジクモ属の1種の生殖器。上の造卵器から卵胞子を生産する

シャジクモ類は他の緑藻植物と比べて陸上植物に最も近縁な分類群であり[80]、陸上植物の起源になった分類群とされている[81]。このシャジクモ類は卵胞子で繁殖を行なっているが、この卵胞子は休眠を経たのち減数分裂を行って発芽し[82]、栄養生長を行なって成体となる。発芽に好適な環境については、実験室内、あるいはフィールドでの発芽実験がさまざまな種について行われている[83]。例えば光環境や乾燥といった環境条件が発芽を引き起こす要因として知られているが、種によって発芽を引き起こす要因は異なっている[83]。種ごとの具体的な発芽特性は、実験的に発芽させることが容易な Chara zeylanica の発芽適温(20-30 °C)など[84]、いくつかの種で判明しているものもあるが、シャジクモ (Chara braunii) の卵胞子は低温処理(春化)など様々な条件で処理しても発芽が殆ど見られない[85]、クサシャジクモ (Chara vulgaris) やヒメフラスコモ (Nitella flexilis) は乾燥処理や低温処理を加えても50%程度の発芽率にとどまる[83]、など発芽に適した条件についてあまり研究が進んでいない種もある。
藻類

コンブワカメなどの褐藻テングサなどの紅藻アオサなどの緑藻などといった藻類は、胞子あるいは遊走子をもち、それが石や岩、他の藻体、または堤防などの人工物に着生して発芽する[86]。発芽した胞子は芽胞体や葉状体となり、それが生長して成体となる。

藻類の胞子発芽は、他の生物との相互作用によって制御されることもある。例えば海産の細菌である Pseudoalteromonas tunicata は、アオサ(緑藻)やイトグサ(紅藻)の胞子発芽を阻害する物質を分泌している[86]。またサンゴモ(紅藻)の一種であるエゾイシゴロモは、その表面に遊走子が付着すると、その遊走子の発芽、生育を阻害する働きを持っていることが知られている[87]

また特に渦鞭毛藻などでは、シスト(休眠胞子、休眠性接合子)という休眠性の細胞体を形成し、それが発芽して繁殖する性質が知られている。シストの発芽には通常一定期間の休眠が必要であり、休眠期間は種によって異なるが、数週間から6か月程度である種が多い[88]。また、シストを発芽させるために低温処理などによって休眠解除を行う必要がある種もいる[88]。シストの発芽可能な温度は 5-22 °Cと幅広いが、5 °C など低温条件で生じた発芽細胞は生存できず、発芽に適した条件が揃えばその後生育が可能であるか否かにかかわらず発芽するものと考えられている[88]
菌類担子菌類の生活環さび病菌の胞子発芽

いわゆるキノコを生産する担子菌類の胞子については、幾つかの種で発芽に適した条件が研究されている。例えば低温条件下で胞子を一定期間保存することによって、多くの種で発芽率が上昇することが知られている[89]。また光なども発芽に影響を与えることが知られており、例えば Thanatephorus cucumeris の胞子は、直射日光に30-60分間さらされることで急速に発芽能を失うとされる[90]。化学物質によって胞子発芽が誘引される例も知られており、例えばマツタケの胞子は酪酸を加えた培地に播くことである程度発芽率が上昇する[91]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:105 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef