疼痛
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咽頭心筋梗塞狭心症

疼痛評価の方法として臨床的に最も用いられる指標にフェイススケール(Visual analogue scale)やMcGill Pain Questionnaire(英語版)がある。
メカニズム
侵害受容器による末梢変換
物理的、化学的刺激を電気的な刺激に変換することを末梢変換
という。侵害受容器の刺激は感覚神経の電気的な刺激に変換される。電気的な刺激に変換された後は刺激方法によって差は生じないと考えられている。よく研究されている侵害受容器としては陽子、カリウムイオン、アデノシン三リン酸(ATP)、アミン、ブラジキニンなどが特に有名であり、これらは細胞障害や炎症時に放出される。長らく原因不明と言われてきた狭心痛も侵害受容器によって説明されつつある。これらの受容体の拮抗薬は急性痛を和らげる薬物として有用になることが期待されている。
痛み刺激の伝動と伝達
薬理学的に重要な脊髄後角の神経伝達に関しては一次求心性C繊維と二次投射神経の間のシナプス伝達が比較的よく研究されている。このシナプスの伝達には早い要素と遅い要素がある。早い要素はシナプス小胞に含まれるグルタミン酸があげられる。グルタミン酸はポストシナプスのAMPA受容体やNMDA受容体といったイオンチャネル型受容体に作用してナトリウムイオンやカルシウムイオンの透過性を高め、興奮性シナプス後電位(EPSP)を生じさせる。遅い要素はグルタミン酸同様にシナプス小胞に含まれる神経ペプチドといわれる物質である。P物質(サブスタンスP)といったものが代表格で遅速調節反応を行う。また、脊髄におけるシナプス伝達は、局所的抑制性介在ニューロンと脳幹から脊髄への下行性投射神経により制御されている。この制御機構が現在の疼痛管理では重要なターゲットとなっている。脊髄後角における主な抑制性神経伝達物質はオピオイドペプチド、ノルアドレナリン、グリシン、γ-アミノ酪酸(GABA)である。
末梢性感作
末梢刺激の方法によっては一次求心性神経の活動閾値を低下させその反応を増加させるものがある。この結果、痛覚過敏アロディニアがおこると考えられており、この機構を末梢性感作という。実は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はこの部分に作用している。COX-2を阻害するとプロスタグランジンE2の生成を抑制できるということが有名である。プロスタグランジンE2は疼痛物質ではなく、末梢性感作を起こす物質、すなわち疼痛増強物質である。ロキソプロフェンフルルビプロフェンがよく効くということはプロスタグランジンE2による末梢性感作があったからにほかならない。NSAIDは痛み自体には作用しないからだ。経験的に末梢性感作とは極めて日常的な現象といえる。切り傷にNSAIDがよく効くのは末梢性感作で痛むからと考えられている。重要なことはプロスタグランジンE2は感作薬のひとつに過ぎないということである。EP受容体を介する痛覚過敏には有効だがブラジキニンやヒスタミンを介するものには効かない。またペインコントロールは一度失敗すると、患者が頑固に痛みを訴える原因も感作にあると考えられる。痛みは感覚の中では感作されやすく、順応しにくいという特徴がある。
中枢性感作
痛覚過敏やアロディニアが起こっている部位では、しばしばもとからある炎症あるいは組織障害部位の範囲を超えて広がっていることがある。この部位における痛覚過敏は脊髄後角における知覚処理の変化によって引き起こされ二次性痛覚過敏、二次性アロディニアという。これを起こす機構を中枢性感作といい、慢性炎症性疾患ではよくおこり、疼痛自体が疾患のように振る舞う。NMDA受容体遮断薬は中枢性感作の発現と持続をともに防ぐといわれている。ケタミンは麻酔科領域で用いられる代表的なNMDA受容体遮断薬である。だが、静脈投与では副作用が強く出すぎて中枢性感作の治療には使えない。
神経因性疼痛
神経損傷によって起こる疼痛を神経因性疼痛という。臨床的には受傷後数年にわたって頑固な痛みを訴えることが特徴的である。神経向性支持消失によって遺伝子発現が変化し侵害受容性繊維の感受性と活性を変化させると考えられている。抗てんかん薬であるカルバマゼピンなどが効くこともある。
診断

LQQTSFAと呼ばれる方法論を用いる。L(location):部位、Q(quality):性状、Q(quantity):程度、T(timing):時間、S(setting):状況、F(factors):寛解増悪因子、A(associated symptoms):随伴症状のことである。
虫垂炎を例として

虫垂炎(一般には盲腸・盲腸炎といわれる)は知名度のわりに診断が難しい疾患である。診断学の世界では虫垂炎の病態生理は次のように理解されている。まず虫垂に異物などが貯留し細菌が繁殖することで管腔内圧が上昇し、心窩部の鈍痛というかたちで関連痛が発生する。さらに腸管粘膜に炎症が起こると右下腹部の鈍痛というかたちで内臓痛が発生する。さらに進行すると炎症が管腔の内側から外側、すなわち臓側腹膜に波及する。腸管の動きなどで臓側腹膜が壁側腹膜と接触し、炎症が壁側腹膜に波及すると右下腹部の鋭い痛みとして体性痛が発生する。この頃には、反跳痛といった腹膜刺激症状が出現する。これは概念上の話であり、炎症が激しくなり組織障害が強くなれば、関連痛、内臓痛、体性痛という順に進行していく。十二指腸潰瘍などで穿孔をおこすと体性痛が発生するが大網によって穿孔がふさがれると圧痛がなくなることもある。こういったことが起こると身体診断学は無力であり、造影CTなど画像診断を行わざるをえなくなる。

Alvaradoスコア項目内容点数
Migration of pain心窩部、臍周囲部から右下腹への移動1
Anorexia食思不振1
Nausea嘔気、嘔吐1
Tenderness of RLQ右下腹部圧痛1
Rebound tenderness反跳痛2
Elevated temperature発熱 > 37.3 ℃1
LeukocytosisWBC > 10000 個/μl2
Shift of WBC count白血球の左方移動1

虫垂炎に限って言えば、痛みが関連痛である心窩部痛の時点では特に診断せず、痛みが下腹部に移動したり、治らなければ再受診というかたちにし、下腹部の鈍痛であったら抗菌薬で保存的に治療する。腹膜刺激症状まで出現したら手術を検討するという方法が考えられる(手術が可能な施設ならば、この時点では外科を紹介するだけで十分なことが多く、腹膜刺激症状が限局している場合は保存的に治療可能なことが多いが、その所見が広がってきたときは手術ができる状況でないと危険である。いずれにせよ、虫垂炎の診断は総合的に行われる。そしてなじみ深い疾患であるのもかかわらず誤診率も極めて高い)。

虫垂炎に関してはLQQTSFAの病歴と身体所見で疾患の局在と病因、疾患の進展度と重症度、疾患の治療と判断を行うことができる。Alvaradoスコアというものもあり、7点以上で虫垂炎が疑わしいとされている。画像診断では造影CTが望ましいとされている。
疼痛各論

ここであげる疼痛とは主に急性疼痛であり、痛みが数カ月続く場合は慢性疼痛であり鑑別疾患は異なる。
頭痛
頭痛のメカニズム
脳実質には痛覚レセプタは存在しないといわれている。頭痛が起こるのは頭蓋内外の痛覚レセプタの刺激によるものであると考えられている。具体的には、頭蓋内外の動静脈の拡張と牽引、脳脊髄神経、頭蓋内外組織の組織の炎症と牽引、頭頸部の筋の収縮などがあげられる。
頭痛の分類
原因のない機能性(一次性)頭痛と原因のある器質性(二次性)頭痛に分けることができる。機能性頭痛(本によっては慢性頭痛)は
片頭痛緊張型頭痛群発性頭痛の3つが知られている。


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