と、そこに、無精ひげを生やした富永が現れる。「生きてたのか」と一瞬落胆するような表情を見せる寅次郎だったが、すぐ我に返り、ふじ子に一刻も早く知らせようと、富永の手を引っ張りタクシーで富永の自宅へ急行。寅次郎は富永が帰ってきたことをふじ子に告げる。再会を果たし涙を流して喜び合う家族の姿を見届けると、すぐに背を向け、寅次郎はそのまま旅に出てしまう。しかし、とらやにかかってきた寅次郎の電話の声は、自分の醜さから解放されたのか、晴れ晴れとしていた。
正月になり、ふじ子からとらやに年賀状が来る。富永は、自宅から近い土浦営業所勤務となって家族と過ごす時間が増え、ふじ子にとって身近に感じられる存在[注釈 4]になっていた。そして、寅次郎との旅の思い出を一生忘れないと綴ってあった。
エピソード
物語冒頭、寅次郎の夢のシーンに同じく松竹製作の映画『宇宙大怪獣ギララ』(1967年3月25日公開)から主役怪獣のギララが、同映画の登場シーンを流用する形で登場した[4]。一方、車博士の書斎に置いてあるギララの模型の目が光るシーンは、同映画の撮影当時の粘土模型を撮影したものである[5]。夢の中では単に「怪獣」と称され、寅次郎が目覚めた際に子どもがかぶっていた被りものは、東宝のゴジラであった[注釈 5]。なお、本作と同時期の1984年12月にはゴジラシリーズの9年ぶりの新作となる『ゴジラ』(1984年版)が公開されている。
牛久沼の健吉宅に泊まった寅さんが起きて目にする額縁の詩は、北原白秋『巡礼』の一節。「真実 諦メ ダダ一人/真実一路ノ旅ヲ行ク/真実一路ノ旅ナレド/真実 鈴振リ思ヒダス」が映画のタイトルの由来になっている。
DVDに収録されている特典映像「予告編」には、以下のような没シーンが収録されている。
寅が富永宅で朝目覚めるシーン。本編では「大変失礼ですけれども」までお守りを振り回し、「どこのどなたでしょう」となっているが、予告編では「大変失礼ですけども」の直前でお守りを振るのをやめ、台詞も「どこのどなたでしょうか」となっている。そのあとの台詞も本編は「富永さん」であるが、予告編では「富永さんと言うと」になり、前後にふじ子の笑うシーンが挿入されている。
鹿児島の家へ訪れるシーンの別バージョン(台詞が本編では「俺」になっているが、予告編では「俺ね」になっている)。
丸木浜でふじ子が佇むところへ寅が近寄るシーンの別バージョン。予告編では右方からロングカットで撮影されているが、本編では左方から近づき、アップシーンとなっている。また、ふじ子が佇んでいるシーンを後方から撮影しているシーンが予告編には入っている。
あけみが寅に悩みを打ち明けるシーンの別バージョン。寅の左手の位置などが変わっている。
第25作「ハイビスカスの花」では飛行機嫌いとなっているが、本作では東亜国内航空でふじ子と鹿児島へ訪れるほか、ラストシーンでポンシュウに「よし決めた。飛行機に切り替えよう」と飛行機が苦手とは思われない台詞となっている。
本作から、とらや向かい「江戸家」の店頭のおばさんが交代する。
1996年8月9日放送の『金曜ロードショー』では渥美清の訃報を受け、『金曜特別ロードショー 渥美清さん追悼企画』として本作が急遽放映された。このため、本来放送予定だった『スタンド・バイ・ミー』は同年8月23日に差し替えられ、23日に予定されていた『火垂るの墓』の放送は翌年に延期された。
挿入曲
里の秋
使用されたクラシック音楽
ジョアキーノ・ロッシーニ作曲:『ウィリアム・テル序曲』から「第3部 静寂」「第4部 - スイス軍隊の行進」「第3部 静寂」?夢のシーン
ピョートル・チャイコフスキー作曲:『交響曲第6番ロ短調 作品74』から第1楽章?夢のシーン
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲:『オーボエ四重奏曲 ヘ長調 K.370 (368b)』から第3楽章?健吉が訪れる喫茶店で流れる。
出演
車寅次郎 - 渥美清
諏訪さくら - 倍賞千恵子
車竜造(おいちゃん) - 下條正巳
車つね(おばちゃん) - 三崎千恵子
諏訪博 - 前田吟
桂梅太郎(タコ社長) - 太宰久雄
源公 - 佐藤蛾次郎
諏訪満男 - 吉岡秀隆
静子 - 津島恵子:健吉の姉。鹿児島県枕崎にある健吉の実家に住む。
和代 - 風見章子 ふじ子の母。
ポンシュウ - 関敬六
タクシーの運転手 - 桜井センリ:鹿児島枕崎の南映タクシー
バイクの男 - アパッチ・けん
部長 - 津嘉山正種:スタンダード証券日本橋本社。
芦田友秀
会議の外国人 - ディビー・スミス:スタンダード証券日本橋本社。
受付嬢 - マキノ佐代子:スタンダード証券日本橋本社。
同 - 伊東さゆり:スタンダード証券日本橋本社。
同 - 岩渕菜穂:スタンダード証券日本橋本社。
ウエイトレス - 川井みどり:健吉が立ち寄る喫茶店。
鰻温泉の仲居 - 谷よしの:ふじ子が泊まる旅館「かどや」
戸川美子
証券マン - 加藤潤:スタンダード証券日本橋本社。
印刷工・中村 - 笠井一彦
あけみ - 美保純
富永健吉 - 米倉斉加年 スタンダード証券日本橋本社の課長。茨城県牛久沼に一戸建てを購入。寅さんと上野の焼鳥「まるき」で知り合う。
御前様 - 笠智衆
進介 - 辰巳柳太郎 :枕崎に住む健吉の父。薩摩琵琶が得意。
富永ふじ子 - 大原麗子:証券マン・健吉の妻。息子・隆。
備後屋 - 露木幸次(ノンクレジット)
スタッフ
監督・原作:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
製作:島津清、中川滋弘
音楽:山本直純
ロケ地
鹿児島県日置市(さつま湖、伊作駅)、南さつま市(丸木浜、加世田武田上鴻巣武家屋敷)、指宿市(鰻温泉、鰻池)、鹿児島市(島津別邸仙厳園、桜島)、霧島市(鹿児島空港)、JR指宿枕崎線、鹿児島市電
東京都台東区(ガード下・居酒屋まるき)、中央区(スタンダード証券、呉服橋交差点)
神奈川県横浜市戸塚区東戸塚駅(土浦駅として撮影)
茨城県つくば市(筑波山神社、、森の里団地、茎崎橋)、龍ケ崎市(牛久沼)
佐藤2019、pp.636、及び公式HPより
記録
観客動員:144万8000人[6]
配給収入:12億7000万円[1](10億5000万円[6]とも)
受賞歴
第3回ゴールデングロス賞優秀銀賞、マネーメイキングスター賞
併映作品
『ねずみ小僧怪盗伝』: 野村芳太郎監督
参考文献
佐藤利明『みんなの寅さん』(アルファベータブックス、2019)