産業革命
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ただし、イギリスにおいても工場制機械工業は1830年代を過ぎるまでは工業生産の主流とはいえず、手工業が各地に残存していたことは特筆されるべきである[42]。また、この流れの中で工業に従事する者の中でも階層分化が起き、工場を所持する産業資本家層と、その工場で働く労働者層が成立した。

産業革命の進展と、それによる工業生産の増大は工場を所持する産業資本家の勢力の増大をもたらし、参政権を求める声も高まっていった。この動きは1832年にホイッグ党のグレイ内閣が、人口の極端に少ない、いわゆる「腐敗選挙区」を廃止するとともにブルジョワ層に選挙権を拡大することにつながった。こうした動きの中で産業資本家層は旧来からの地主貴族層と結合を深め支配層の仲間入りを果たすが、一方で労働者層の不満も非常に高まっていた。労働者の生活水準は非常に低いものであり、また鉱山や工場においては児童労働などの問題も深刻だった。1811年から1812年にかけてのラッダイト運動などの抗議を繰り返すようになった。この資本家と労働者の対立は、産業化が進むにつれてより一層深刻となり、以後の世界政治の重要な底流のひとつとなった。

イギリスの工業生産は最盛期の1820年代には一国で世界の工業生産の半分(50%)を占めるようになり、以後1870年代にいたるまでイギリスは世界最大の工業国でありつづけ、「世界の工場」と呼ばれるようになった[43]

産業革命期の生活水準については、常に論争の種となってきた。特に都市部においては都市開発技術の発展や衛生観念の発展などが人口増加に追いつかず、賃金レベルも低く、産業革命以前と比べて生活レベルが下がったという見解がある一方、輸送コストの低減や特に綿織物の価格の低落による衣料事情の改善などがそれをかなりの部分相殺したという見解もある。当時の状況に関しては、 食の安全の歴史やブロード・ストリートのコレラの大発生を参照。
イギリス以外への伝播

イギリスで産業革命がほぼ完了する1830年代に入ると、イギリス以外の国々(欧米国家及び幕末から明治初期の日本)にも産業革命が伝播するようになった。まず最初に産業革命が伝播したのはベルギーで、1830年の独立とほぼ同時に産業革命が開始されている。ベルギーが産業革命の先陣を切った理由は、南部のワロニア地域に豊富な鉄鉱石石炭の埋蔵があったことや、欧州の中央に位置し交通の便に恵まれていたことなどによる。ついで、ほぼ同時期に、7月王政期に入ったフランスと、米英戦争(1812年 -1814年)後にイギリスからの経済的自立が深まり、さらに西部の開拓が急速に進みつつあるアメリカでも産業革命が始まった。

イギリスとそれ以外の国々の産業革命における最大の差異は、鉄道の有無である。1825年に実用化された蒸気機関車式の鉄道は、瞬く間にヨーロッパやアメリカ諸国へと伝播し、輸送システムを一変させた。また、こうした後発諸国は先行するイギリスの技術や社会システムを取り入れて発展することができたため、より急速な成長が可能となった。ただしこれら諸国の産業革命のスピードは各国によってまちまちであり、たとえばフランスにおいては産業革命の進展は緩やかなものであり、急速に進展を始めるのはナポレオン3世による第二帝政を待たねばならなかった[44]

こうした先発諸国に対し、1834年のドイツ関税同盟成立によって広大な共通市場を得たドイツ諸邦が、1840年代から産業革命を開始した。その後、19世紀後半にはイタリアロシア、そしてスウェーデンなどの北欧諸国が、さらにアジアにおいてはそれまで世界最大の経済大国だった中国インドはイギリスとの戦争で敗戦して工業化にも失敗し、唯一日本が産業革命を成功させ、工業化社会を築き上げていった。イギリス産業革命がほぼ民間資本のみによって「下から」達成されたのに対し、これら後発諸国の多くにおいては政府が積極的に工業の育成に取り組み、いわゆる「上からの」産業革命が推進されていった。工業化を成功化させた国々と、工業化がなされない国や工業化を成功させた国の植民地との国力差は、産業革命以前と比べて非常に大きなものとなった。
出典[脚注の使い方]^ I.ウォーラステイン『近代世界システム 1730?1840s -大西洋革命の時代-』名古屋大学出版会 1997
^ 望田幸男他編『西洋近現代史研究入門[増補改訂版]』名古屋大学出版会、1999、p.19。あるいは川北稔「環大西洋革命の時代」(『岩波講座世界歴史17』岩波書店、1997)などを参照
^ 『世界経済史』p303 中村勝己 講談社学術文庫、1994年
^ 『イギリス史10講』p188 近藤和彦 岩波新書, 2013年
^ 「興亡の世界史13 近代ヨーロッパの覇権」p183-184 福井憲彦 講談社 2008年12月17日第1刷
^ 「産業革命歴史図鑑 100の発明と技術革新」p19 サイモン・フォーティー著 大山晶訳 原書房 2019年9月27日初版第1刷発行
^ 「産業革命歴史図鑑 100の発明と技術革新」p33 サイモン・フォーティー著 大山晶訳 原書房 2019年9月27日初版第1刷発行
^ 「産業革命歴史図鑑 100の発明と技術革新」p36-37 サイモン・フォーティー著 大山晶訳 原書房 2019年9月27日初版第1刷発行
^ 「産業革命歴史図鑑 100の発明と技術革新」p46 サイモン・フォーティー著 大山晶訳 原書房 2019年9月27日初版第1刷発行
^ 「産業革命歴史図鑑 100の発明と技術革新」p62-63 サイモン・フォーティー著 大山晶訳 原書房 2019年9月27日初版第1刷発行
^ 「産業革命歴史図鑑 100の発明と技術革新」p111 サイモン・フォーティー著 大山晶訳 原書房 2019年9月27日初版第1刷発行
^ 『イギリス史10講』p189 近藤和彦 岩波新書, 2013年
^ 「エネルギー400年史 薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで」p96-97 リチャード・ローズ著 秋山勝訳 草思社 2019年7月25日第1刷発行
^ 「エネルギー400年史 薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで」p97-98 リチャード・ローズ著 秋山勝訳 草思社 2019年7月25日第1刷発行
^ 「人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理」p100-102 永田和宏 講談社ブルーバックス 2017年5月20日第1刷発行
^ 「火と人間」p73 磯田浩 法政大学出版局 2004年4月20日初版第1刷
^ 「人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理」p102-104 永田和宏 講談社ブルーバックス 2017年5月20日第1刷発行
^ 「産業革命歴史図鑑 100の発明と技術革新」p42 サイモン・フォーティー著 大山晶訳 原書房 2019年9月27日初版第1刷発行


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