生物学名
[Wikipedia|▼Menu]
それぞれの命名規約では、学名の後に命名者の名前と年号を続けて記すことが推奨されている。ただしこれは学名の一部ではなく、分類学関連の著作以外では省略して構わないし、表記する方が正式ということでもない。

動物の場合は、学名と命名者(ICZNの用語では著者 author [4]という)、学名と命名者と年号(ICZNの用語では公表の日付 date of publication [4][5]という)、の両方の表記法がされており、このとき学名と命名者の間は句読点を打たず、命名者と年号の間にはカンマを打つ(逆にカンマ以外のものを挿入するべきではない[6]。ただし、ICZN第4版からはスペースで区切る表記法でも誤りではなくなった[6])。公表の日付を書くことは、同名の場合などで非常に重要となるため、ICZN中では強く勧告されている[6]。たとえばハイイロオオカミの学名ならば、リンネによって1758年に命名されたので、Canis lupus Linnaeus または Canis lupus Linnaeus1758 となる。

植物の場合は規約上推奨されているのは命名者のみであり、年号を記す方法について特に規定はない。実際に年号は省略されていることが多いが、記す場合にはたとえば名前の直後のカッコ内に記す。1753年にリンネが命名したヒカゲノカズラは、Lycopodium clavatum L. と記すのが一般的である。この L. は Linnaeus の省略であるが、Linne あるいは Linnaei と表記されることもある(Linnaei は Linnaeus の属格形で「リンナエウスの」の意)。もし年号を記すならば、Lycopodium clavatum L. (1753) などのようになる。

原核生物(細菌)の場合には、命名者と年号を両方記すように推奨されている。慣例として命名者と年号の間にカンマを打たないので、例えばコレラ菌であれば Vibrio cholerae Pacini 1854 となる。

命名者の名前は、特に有名で大量に命名している著者の場合、Linnaeus を "L."、Thunberg を "Thunb." のように略す慣習がある。植物では標準的な略記法が書籍 (Authors of Plant Names) にまとめられているのでそれにしたがうのが良い。一方、現在の国際動物命名規約のもとでは略記は不適当であるとされている (Appendix B.12)。

命名後に属名が変わった場合は、はじめの命名者名(動物の場合、出版年号も)を、ヒョウ Panthera pardus (Linnaeus, 1758) のように、丸括弧に入れて表記する。この場合、最初にリンネが命名したときには別属(ネコ属であり、Felis pardus Linnaeus, 1758)だったものが、後に Oken によってヒョウ属に移されたことを示す。命名者と別属に移動した人物の両方を引用したい場合、括弧付き命名者名のあとに括弧なしで続けて Panthera pardus (Linnaeus) Oken または Panthera pardus (Linnaeus, 1758) Oken, 1816 のように記述する。動物の場合、属の移動者まで記述することはまれだが、植物の場合は非常に頻繁に見られる。属を移動した人物のみを引用する記法はない。

動物においては、Papilio adippe [Denis & Schiffermuler], 1775 のように命名者が角括弧に囲まれている場合がある。これは当初の命名時に命名者が匿名・不明であり、のちに命名者が判明もしくは外的証拠により推定されたことを示す。ただし動物の場合、匿名での命名が有効なのは1950年以前の発表に限られる。なお植物の場合、外的証拠による命名者の推測は現在でも有効で通常の命名者と同じ扱いとなり、角括弧は用いない。
命名の先取権

同一の種に別々の人物が異なる学名を命名して記載論文を発表した場合、原則として先に発表された学名が有効となる。逆に、別々の種に同じ学名が命名されてしまった場合にも、原則として先に発表された学名が有効となる。これを先取権の原則という。同一の種が異なる名を持つことはシノニム(異名・同物異名)、別の種が同じ名を持つことはホモニム(同名・異物同名)と呼ばれる。

ただし、先に発表されていた学名が、長い年月のあいだ誰にも気づかれることなく使用されず、その後に発表された学名のほうが広く知れわたっていて長く使用されていたと判明することもありうる。このような場合、学名の変更はその生物にかかわりのある分野へ大きな混乱を及ぼすおそれがある。これを避けるための措置が命名規約に明記されている。動物の場合、一定の手続きに従って審査を受け、それが受理されれば、先に発表された学名を遺失名として扱い、後から発表された学名をこれまでどおりに使用することができる。遺失名の決定は、動物命名法国際審議会の強権発動によってのみ行われる。植物の場合、その可能性がある学名をあらかじめリストアップして対処している。

本来、ホモニム(同名)は先取権の原則や規約の規定により必ず回避されなければならないが、動物、藻類・菌類・植物、原核生物の3つの命名規約は互いに独立しているため、界を越えたホモニム(ヘミホモニム)は今のところ規制することができない。実際に、属レベルでは植物と動物に同名属の存在が数例知られている。潜在的なヘミホモニムを収集したデータベース[7]が存在する。
命名と模式標本

学名が指し示す対象は、厳密にはその「種」ではなく、記載者が記載論文で指定した「模式標本(タイプ標本とも)」そのもののみである。

たとえば、記載者がある、ごく身近で一般的な種「A」に「a」という学名を命名するために指定したつもりの模式標本が、後に、非常に近縁で紛らわしく、たいへん珍しい別の種「B」であると判明した場合には、これまで広く使用されよく知られていた学名「a」は、種「B」に使用され、なじみのある種「A」には、別の有効名を探すか、新たな種として記載する必要がある。

この、模式標本と学名との完全な対応関係は、日本の和名には見られない独自のシステムである。
例外

上記のように生物の種1つにつき、学名は1つが原則であるが、菌類については歴史的経緯により大規模な混乱が生じている。菌類の分類には有性胞子形成の段階の形態が非常に重要であるのに対し、子嚢菌類および担子菌類には無性生殖段階(アナモルフ)で長く独立に生活するものがあり、このような菌(不完全菌、アナモルフ菌)はそれ以外の菌と整合的に分類することが困難であった。そこで不完全菌として発見された菌は、まず不完全菌門に属する独立の菌として分類命名され、後に完全世代(テレオモルフ)が発見されれば完全世代としての分類命名が行われた。この場合、後者がこの菌の学名となるが、不完全世代に限っては前者の学名も使用が認められていた(国際植物命名規約第59条)。つまり1つの種につき、完全世代と不完全世代で2つの学名が存在していた。しかし、DNA配列情報が分類に利用可能となったことで、完全世代を見出さなくとも生物の系統的位置を知ることができるようになった。このために1992年のHolomorph Conferenceの場でこれを独立の分類群としては扱わないことが決められた。学名そのものの扱いについても後にテレオモルフが発見されても新たに学名を与えなくてよいことになった。そして現在有効な国際藻類・菌類・植物命名規約では、2013年以降1つの学名に統一することとなった。現在様々な分類群について、通常の優先権に従って学名を統一するか否かの検討作業が進められているところであるが、その結果が周知浸透するまでは長い時間がかかると考えられる。
生物分類単位

属と種以外の分類群の単位にも、同様にラテン語形式の学名がつけられている。
上位分類

ドメインなどの、属よりも大きな区分には、最初の1文字が大文字で、それ以外は小文字の名前を用いる。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:44 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef