生物兵器
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世界保健機関は、生物兵器はそれがもたらす傷病を別にしても、人々に恐怖を与え人間不信に陥れるという意味で心理戦としても使用されるとしている[3]

実際に病原体がテロに使用された生物兵器テロ事件の例としては、2001年のアメリカ炭疽菌事件、日本国内では、オウム真理教による1993年の亀戸異臭事件(炭疽菌を使用、失敗に終わったためテロ未遂事件とされている)、そして同教団による1995年の霞が関のボツリヌス菌散布(こちらも失敗に終わった)が挙げられる。
生物兵器の歴史

古代ギリシアでは、アテナイ軍がヘレボルスという有害な植物をキルハの水源に投入し、住民は激しい下痢をおこし、アテナイ軍は侵略することができた[4]

アレキサンダー大王は、死体を投石器によって敵軍の中に投げ込み、敵の中に疫病を発生させようとした[5]

東ローマ帝国は城壁都市に昆虫爆弾を使い、トンネルにを放って敵を撃退したり、サソリを入れた爆弾を投げつけたりした[4]

西暦1000年から1300年には、の巣の投下が行われた[4]

1348年にはジェノバの港街カッファでモンゴル軍が生物兵器として病気の患者の死骸を投下し、ペスト(黒死病)を広めた[4]

1710年、エストニアのタリン(レヴァル)でペストが広められた[4]

1763年6月、ポンティアック(オブワンディヤグ)の叛乱で天然痘に汚染された毛布やハンカチが配布され、ジェフリー・アマースト少将は「忌まわしい人種を絶滅させる」と述べた[4]。また、アメリカ独立革命で天然痘が繰り返し発生したが、これも細菌戦としておこなわれたという[4]
生物兵器への対応

生物兵器に対する最も有効な対応は、兵器として使用する可能性のある国家・組織に生物兵器を保有させないことである。万が一生物兵器が使用された場合には、感染拡大を防ぐため、患者の隔離と治療を行う必要がある。
保有の禁止

生物兵器は従来より戦争で使用する兵器としての保有は生物兵器禁止条約で禁止されている。

1995年地下鉄サリン事件を受け、世界的に化学兵器及び生物兵器の保有に関する法体制の整備が進む。特にアメリカは2001年炭疽菌を使用したテロが発生し、法整備がなされた。

日本では1982年生物兵器禁止法が制定されている。
隔離・治療「CBRNE#各国・地域におけるCBRNEテロ・災害対処」も参照

多くのウイルスや細菌は人から人への感染を起こすため、感染者の隔離が有効な対策となる。

通常は患者を隔離し、患者と接触した人へのワクチン注射を行えば感染を防ぐことができる。しかし、兵器として使用された場合には、多くの人が感染することになるため、通常の隔離では対応しきれない。そのため状況に応じて感染者が多い地区の封鎖や、最悪の場合その国家への渡航を禁止し、国境を閉鎖する必要がある。
主な生物兵器
炭疽菌

炭疽菌は非常に取り扱いやすく、発芽するまでは各種薬品や紫外線などに対する耐性も非常に強い。

しかも、肺に感染する肺炭疽にかかった場合には致死率が90%前後に達する。そのため炭疽菌は従来より生物兵器の代表格とされており、2001年には実際にアメリカでテロに使用され、死者を出している。日本でも、1993年オウム真理教東京都江東区亀戸の新東京総本部(登記上の主たる事務所でもあった)で実際に噴霧している。死傷者こそ出さなかったものの悪臭が周辺に漂う騒動となった(亀戸異臭事件)。

自然界における炭疽菌への感染は、炭疽菌が含まれる土壌などへの接触によることが一般的である。この場合炭疽菌は皮膚に感染(皮膚炭疽)するが、この皮膚炭疽は治療を行わなかった場合でも致死率は約20%、適切な治療を受ければ約1%まで下げることが可能で、(兵器としては)それほど問題はない。

兵器として使用する場合は皮膚炭疽では威力不足であるため、空気中に散布して肺に感染させる必要があるが、エアロゾル化にはある程度の技術力が必要である。

炭疽菌に有効なワクチンは存在するが、
接種に手間がかかること。

1年ほどしか効果がないこと。

弱いながらも副作用が発生する可能性が比較的高いこと、

などから、一般的には使用されていない。

炭疽菌の兵器としての欠点は感染力が弱いことで、人から人へ感染することはない。他方でこれは、兵器を使用した側が使用した地点に進出しても被害を受けない、と言う面では利点でもある。
天然痘

天然痘は1980年に撲滅がWHOから宣言され、以降種痘の接種は行われなくなった。そのため現在では多くの人が天然痘に対する耐性を持っていない。このような状況で天然痘によるテロが起きた場合、速やかな対処は不可能である。撲滅宣言後にも、ソ連は天然痘ウイルスを生物兵器として極秘に量産、備蓄しており、ソ連崩壊後にウイルス株や生物兵器技術が流出した可能性が指摘されている[6][7]

万が一の事態に備え、各国では天然痘に限らず、各種ウイルスに対するワクチンの保管をある程度行っている。アメリカ合衆国連邦政府はバイオテロなどに備えて、全国民に接種できる量の天然痘ワクチンの備蓄を決定し、2001年に1200万人分だった備蓄量を、2010年までに3億人分まで増やした[8]が、追随する国はない。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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